【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~

青依香伽

文字の大きさ
上 下
82 / 84
最終章 旅立ち

5 綾なす思い

しおりを挟む
 クレメント家に到着した日の深夜。
 ルイーズは、机に向かい一人で淑女教育の教材を作っていた。女学院に入学するまで教えは受けていたが、誰かに教えることなど初めてのこと。ルイーズは、自らが受けていた教育を思い出しノートに書いては消しを繰り返しながら内容をまとめていた。一週間分のスケジュールと授業内容を書き終えると、ノートを机に置きその日は就寝したようだ。

 翌日の早朝にメアリーを見つけると、作成したノートを渡して都合が良いときに確認してほしいことを伝えた。それからというもの週に一度はお願いにくるルイーズに、メアリーもまた、内容の提案と実習の練習に付き合うという日々が三か月間続いた。

 そんなある日、ルイーズが使用人の休憩室で遅い夕食を摂っていると、そこにメアリーがやってきた。

「お疲れ様です。ご一緒しても良いですか?」
「メアリーさん、お疲れ様です。どうぞ、こちらに座ってください」
「ありがとう。ルイーズさんがこちらに来てから三か月が過ぎたけど、ここの暮らしにはすっかり馴染んでいますね」
「環境が良いからでしょうか。仕事も楽しいです」
「良かったです。それが一番ですよ……あ!そうだわ。乳母のナタリーさんがそろそろ復帰できるそうです。そうなれば、淑女教育のほうにもう少し時間を割けるかもしれませんね」
「復帰を……、それではナタリーさんの体調が万全の状態になったら、淑女教育の時間を少し増やしていただきたいです」

 ルイーズの言葉を受け、メアリーは納得するかのような笑みで頷いた。

「明日も朝から夜までですよね。何かあったら声を掛けてくださいね」
「ありがとうございます。実習のときは、一度見に来ていただけると助かります」
「分かりました。その時は遠慮なくおっしゃってくださいね。それでは私はお先に失礼しますね」

 メアリーは、勤務時間の長いルイーズの体調を心配して声を掛けにきたようだ。
ルイーズは、一人になると手元に置いてあった本の中から栞を取り出した。そこにはリオンからもらった薄紅色の花が添えられている。しばらくの間、その花をずっと眺めていた。


 翌日、リリーは授業の終了後にルイーズを遊びに誘っていた。

「ルーちゃん、あ……、失礼いたしました。ルイーズ先生、次のお休みですが、何かご予定はございますか? よろしければご一緒にお出かけいたしませんか? お父様とお姉さまの許可はいただいております」

「予定はございません。私でよろしければ、ぜひご一緒させていただきたいと思います」

 ルイーズは、丁寧に話そうとするリリーを微笑ましく思いながら返事を返した。





 クレメント辺境伯爵家が治める辺境の領地には、広範な領地を守るために複数の砦が築かれている。今回の遠征では、その中でも最大規模の砦に常駐する騎士たちとの交代が目的のため、遠征期間が長期に及んだようだ。

 前回の遠征では、騎士団を率いた団長の辺境伯が砦にいる騎士団に合流した。その時は、短期間ではあったが屋敷を留守にしている間にリリーを危機的な状況に追い込んだ。辺境伯は、その時の自分が許せないからと、今回はリオンに任せたようだ。

 その頃リオンは、遠征を共にする仲間たちと夕食を摂っていた。

「皆、長い間ご苦労だったな。帰還したらまとまった休暇が取れる。どうかゆっくり休んでほしい」

 リオンの発言に安堵の顔を見せる騎士たちは、和やかな雰囲気の中で食事をはじめた。

「そういえば、副団長、聞きました? 2~3ヶ月前に、新しい侍女が来たらしいんですけど、物凄く可愛い子らしいですよ。残留組の奴らが騒いでるって手紙に……、エッ? 副団長?」

 食事を口に運びながら気軽な調子でリオンに声をかけた騎士団員は、目の前で固まる上司に驚きの表情を浮かべている。

「2~3ヶ月前……、侍…女? ものすごく可愛い……。ルイーズ?」
「おい、お前! 余計なことを言うな!」
「余計な……、こと? シオン、お前は何か知っているのか?」
「……知らないよ」

 シオンがリオンから顔を背けたとき、外出していたブライスが戻って来た。

「おい、リオン! 伝令が来てるぞ!」
「伝令? 何があった!!」

 リオンはブライスから手紙を奪い取ると、急いで中身を確認した。手紙に視線を落としたままのリオンから指示を待つ騎士団員達。そんな張り詰めた空気の中、リオンが皆に向けて言葉を放った。

「……皆! 聞いてくれ! 明朝には出発する! 屋敷に戻るから準備を急いでくれ!!」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

私の容姿は中の下だと、婚約者が話していたのを小耳に挟んでしまいました

山田ランチ
恋愛
想い合う二人のすれ違いラブストーリー。 ※以前掲載しておりましたものを、加筆の為再投稿致しました。お読み下さっていた方は重複しますので、ご注意下さいませ。 コレット・ロシニョール 侯爵家令嬢。ジャンの双子の姉。 ジャン・ロシニョール 侯爵家嫡男。コレットの双子の弟。 トリスタン・デュボワ 公爵家嫡男。コレットの婚約者。 クレマン・ルゥセーブル・ジハァーウ、王太子。 シモン・ノアイユ 辺境伯家嫡男。コレットの従兄。 ルネ ロシニョール家の侍女でコレット付き。 シルヴィー・ペレス 子爵令嬢。 〈あらすじ〉  コレットは愛しの婚約者が自分の容姿について話しているのを聞いてしまう。このまま大好きな婚約者のそばにいれば疎まれてしまうと思ったコレットは、親類の領地へ向かう事に。そこで新しい商売を始めたコレットは、知らない間に国の重要人物になってしまう。そしてトリスタンにも女性の影が見え隠れして……。  ジレジレ、すれ違いラブストーリー

【完結】ヒーローとヒロインの為に殺される脇役令嬢ですが、その運命変えさせて頂きます!

Rohdea
恋愛
──“私”がいなくなれば、あなたには幸せが待っている……でも、このまま大人しく殺されるのはごめんです!! 男爵令嬢のソフィアは、ある日、この世界がかつての自分が愛読していた小説の世界である事を思い出した。 そんな今の自分はなんと物語の序盤で殺されてしまう脇役令嬢! そして、そんな自分の“死”が物語の主人公であるヒーローとヒロインを結び付けるきっかけとなるらしい。 どうして私が見ず知らずのヒーローとヒロインの為に殺されなくてはならないの? ヒーローとヒロインには悪いけど……この運命、変えさせて頂きます! しかし、物語通りに話が進もうとしていて困ったソフィアは、 物語のヒーローにあるお願いをする為に会いにいく事にしたけれど…… 2022.4.7 予定より長くなったので短編から長編に変更しました!(スミマセン) 《追記》たくさんの感想コメントありがとうございます! とても嬉しくて、全部楽しく笑いながら読んでいます。 ですが、実は今週は仕事がとても忙しくて(休みが……)その為、現在全く返信が出来ず……本当にすみません。 よければ、もう少しこのフニフニ話にお付き合い下さい。

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。

真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。 一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。 侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。 二度目の人生。 リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。 「次は、私がエスターを幸せにする」 自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。

【完結】溺愛される意味が分かりません!?

もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢 ルルーシュア=メライーブス 王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。 学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。 趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。 有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。 正直、意味が分からない。 さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか? ☆カダール王国シリーズ 短編☆

【完結】空気にされた青の令嬢は、自由を志す

Na20
恋愛
ここはカラフリア王国。 乙女ゲーム"この花束を君に"、通称『ハナキミ』の世界。 どうやら私はこの世界にいわゆる異世界転生してしまったようだ。 これは家族に疎まれ居ないものとして扱われてきた私が自由を手に入れるお話。 ※恋愛要素薄目です

処理中です...