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最終章 旅立ち
4 再来
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出発当日の朝。
家族はルイーズから中々離れられず、出発の予定時間から一時間程が過ぎていた。皆、一言だけと決めていた別れの挨拶を何度も繰り返すため、見かねたローラに止められたようだ。ルイーズは、リアムとミシェルの耳元で「必ず会いに来る」と告げると、笑顔で二人を抱きしめた。そうした状況のなかで、家族と使用人、そしてエリーに見送られながらブラン家を出発した。
旅の道中一日目は、家族の顔を思い出し、切ない表情になっていたが、三日目には気持ちを切り替えたのか、まっすぐ前を見るルイーズの顔があった。また、そんなルイーズを気遣ってなのか、レアが馬車の横を付き添って移動した。
「ルーちゃん、あと少しで屋敷に着くぞ」
「はい」
リリーに会える嬉しさなのか、ルイーズの顔は綻んでいた。
前回この地に来たときは、クレメント家の屋敷の壮大さに驚いたが、今回は街並みから屋敷に続くまでの道を楽しんでいるようだ。それからほどなくして、ルイーズを乗せた馬車は門を潜り、なだらかな坂を上っていった。
その頃のクレメント家では。
「お父様、私のワンピースおかしくないですか?」
「可愛いぞ、リリーは何を着ていても可愛い」
「いえ、そういう事ではなく……でも、ありがとうございます」
「なんだ、緊張しているのか?」
「はい。少しだけ」
玄関前には、辺境伯とリリーを先頭に、執事のロバートやメイドのメアリーが並んでいる。
「お父様! 馬車が見えたわ。あれはルーちゃんの乗った馬車かしら?」
「そのようだ。レアが、馬車と並走して進んでいる」
「リリーお嬢様、落ち着いてください。また〈おせき〉が出ますよ。あまり興奮してはなりません」
「ごめんなさい……あ、門を潜ったわ!」
馬車が玄関前に到着したようだ。リリーは、ルイーズがドアから出てくる姿を見ると駆け出し抱きついた。ルイーズは、驚きながらも笑顔でリリーを抱きしめた。
「ルーちゃんが本当に来てくれた! ありがとう!」
「リリーちゃん、お久しぶりです。お手紙を沢山書いてくれてありがとう。嬉しかったです」
「お手紙は、お兄様の分も書いたの。お父様にお手紙を出すのも、会いに行くのも禁止されていたから」
「そう……なのですか?」
「うん。少し可哀想だった」
「さあ、皆の所へ行こう!」
二人は、レアに呼びかけられ、皆の待つ場所まで歩みを進めた。
「ルイーズちゃん、リリーのために来てくれてありがとう。ルーベルトから手紙をもらったんだ。王宮への推薦を蹴ってまでこちらに来てくれたんだってな。本当にありがとう」
「リリーちゃんとの約束ですから。それに、こちらこそ受け入れてくださり感謝いたします。精一杯務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします」
「ああ、こちらこそよろしく。さあ、長旅で疲れただろう。部屋で少し休んでくれ。メアリー、部屋の案内を頼む」
「かしこまりました」
メアリーに案内され通された部屋は、レアとリリーの部屋と同じフロアーのようだ。ルイーズは、慌てた様子でメアリーに尋ねた。
「メアリーさん、こちらが私に割り当てられたお部屋ですか?使用人部屋とは違うようですが?」
「こちらで間違いはありませんよ。リリーお嬢様は、まだ体調が万全ではありません。近いお部屋の方が、都合が良いのです」
「そうですか。リリーちゃんのお世話は、今はどなたが?」
「レア様と私が、交代でお世話をしております」
「乳母の方は、まだ回復されていないのでしょうか?」
「そのようです。お年を召されていらっしゃいますから、あの件をきっかけに長引いているようです」
「そうでしたか……」
ルイーズに用意された部屋は、可愛らしく装飾されていた。誰が見ても使用人部屋とは思はないだろう。薄紅色のカーテンやクッションを見て、本人が戸惑うのも仕方がない。しかし、メアリーの発言から追求するのは控えたようだ。
「それでは、晩餐のお時間になりましたら、お呼びに参ります」
「よろしくお願いします」
夕刻になり晩餐の席に案内されると、クレメント家の三人が着席をして待っていた。皆、ルイーズとの食事が待ち遠しかったようだ。四人は食事が始まると、思い思いに料理と会話を楽しんだ。
「ルイーズちゃん、リリーの侍女に関する話なんだが、 乳母のナタリーが回復するまでは負担を掛けてしまうが、侍女兼ガヴァネスとしてリリーの面倒を見てはもらえないだろうか?」
「ガヴァネスですか? 私は淑女科を卒業してはいませんが、よろしいのでしょうか?」
「ルーちゃん、私は淑女科を卒業はしているが、リリーに淑女の何たるかを教えるのは無理だ。それに、あんなことがあってから、リリーの側に仕える者を決めかねていてね。メアリーも考えたんだが、今は侍女長として使用人の取り纏めを任せているんだ。まあ、それも期間限定だが」
「そうでしたか。私でよろしければ、お引き受けいたします」
「ありがとう。ルイーズちゃん、よろしく頼むよ。リリー良かったな!」
ルイーズから満足のいく返答をもらった三人は、ほっとした表情だ。こうしてルイーズの仕事に新たな業務が追加された。
晩餐も終わり部屋に戻ろうとするレアに引き留められたルイーズ。
「ルーちゃん、少し良いだろうか? 兄上のことなんだが……、今、父上の代わりに遠征に出ているんだ。この遠征が終われば、父上の許しが出ると言って何やら頑張っているようだ。それだけ知っておいてほしかったんだ」
話しを聞いて頷き返すルイーズを見て、レアからはほっとした雰囲気が漂った。
家族はルイーズから中々離れられず、出発の予定時間から一時間程が過ぎていた。皆、一言だけと決めていた別れの挨拶を何度も繰り返すため、見かねたローラに止められたようだ。ルイーズは、リアムとミシェルの耳元で「必ず会いに来る」と告げると、笑顔で二人を抱きしめた。そうした状況のなかで、家族と使用人、そしてエリーに見送られながらブラン家を出発した。
旅の道中一日目は、家族の顔を思い出し、切ない表情になっていたが、三日目には気持ちを切り替えたのか、まっすぐ前を見るルイーズの顔があった。また、そんなルイーズを気遣ってなのか、レアが馬車の横を付き添って移動した。
「ルーちゃん、あと少しで屋敷に着くぞ」
「はい」
リリーに会える嬉しさなのか、ルイーズの顔は綻んでいた。
前回この地に来たときは、クレメント家の屋敷の壮大さに驚いたが、今回は街並みから屋敷に続くまでの道を楽しんでいるようだ。それからほどなくして、ルイーズを乗せた馬車は門を潜り、なだらかな坂を上っていった。
その頃のクレメント家では。
「お父様、私のワンピースおかしくないですか?」
「可愛いぞ、リリーは何を着ていても可愛い」
「いえ、そういう事ではなく……でも、ありがとうございます」
「なんだ、緊張しているのか?」
「はい。少しだけ」
玄関前には、辺境伯とリリーを先頭に、執事のロバートやメイドのメアリーが並んでいる。
「お父様! 馬車が見えたわ。あれはルーちゃんの乗った馬車かしら?」
「そのようだ。レアが、馬車と並走して進んでいる」
「リリーお嬢様、落ち着いてください。また〈おせき〉が出ますよ。あまり興奮してはなりません」
「ごめんなさい……あ、門を潜ったわ!」
馬車が玄関前に到着したようだ。リリーは、ルイーズがドアから出てくる姿を見ると駆け出し抱きついた。ルイーズは、驚きながらも笑顔でリリーを抱きしめた。
「ルーちゃんが本当に来てくれた! ありがとう!」
「リリーちゃん、お久しぶりです。お手紙を沢山書いてくれてありがとう。嬉しかったです」
「お手紙は、お兄様の分も書いたの。お父様にお手紙を出すのも、会いに行くのも禁止されていたから」
「そう……なのですか?」
「うん。少し可哀想だった」
「さあ、皆の所へ行こう!」
二人は、レアに呼びかけられ、皆の待つ場所まで歩みを進めた。
「ルイーズちゃん、リリーのために来てくれてありがとう。ルーベルトから手紙をもらったんだ。王宮への推薦を蹴ってまでこちらに来てくれたんだってな。本当にありがとう」
「リリーちゃんとの約束ですから。それに、こちらこそ受け入れてくださり感謝いたします。精一杯務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします」
「ああ、こちらこそよろしく。さあ、長旅で疲れただろう。部屋で少し休んでくれ。メアリー、部屋の案内を頼む」
「かしこまりました」
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「メアリーさん、こちらが私に割り当てられたお部屋ですか?使用人部屋とは違うようですが?」
「こちらで間違いはありませんよ。リリーお嬢様は、まだ体調が万全ではありません。近いお部屋の方が、都合が良いのです」
「そうですか。リリーちゃんのお世話は、今はどなたが?」
「レア様と私が、交代でお世話をしております」
「乳母の方は、まだ回復されていないのでしょうか?」
「そのようです。お年を召されていらっしゃいますから、あの件をきっかけに長引いているようです」
「そうでしたか……」
ルイーズに用意された部屋は、可愛らしく装飾されていた。誰が見ても使用人部屋とは思はないだろう。薄紅色のカーテンやクッションを見て、本人が戸惑うのも仕方がない。しかし、メアリーの発言から追求するのは控えたようだ。
「それでは、晩餐のお時間になりましたら、お呼びに参ります」
「よろしくお願いします」
夕刻になり晩餐の席に案内されると、クレメント家の三人が着席をして待っていた。皆、ルイーズとの食事が待ち遠しかったようだ。四人は食事が始まると、思い思いに料理と会話を楽しんだ。
「ルイーズちゃん、リリーの侍女に関する話なんだが、 乳母のナタリーが回復するまでは負担を掛けてしまうが、侍女兼ガヴァネスとしてリリーの面倒を見てはもらえないだろうか?」
「ガヴァネスですか? 私は淑女科を卒業してはいませんが、よろしいのでしょうか?」
「ルーちゃん、私は淑女科を卒業はしているが、リリーに淑女の何たるかを教えるのは無理だ。それに、あんなことがあってから、リリーの側に仕える者を決めかねていてね。メアリーも考えたんだが、今は侍女長として使用人の取り纏めを任せているんだ。まあ、それも期間限定だが」
「そうでしたか。私でよろしければ、お引き受けいたします」
「ありがとう。ルイーズちゃん、よろしく頼むよ。リリー良かったな!」
ルイーズから満足のいく返答をもらった三人は、ほっとした表情だ。こうしてルイーズの仕事に新たな業務が追加された。
晩餐も終わり部屋に戻ろうとするレアに引き留められたルイーズ。
「ルーちゃん、少し良いだろうか? 兄上のことなんだが……、今、父上の代わりに遠征に出ているんだ。この遠征が終われば、父上の許しが出ると言って何やら頑張っているようだ。それだけ知っておいてほしかったんだ」
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