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最終章 旅立ち
3 ルイーズの願い
しおりを挟む屋敷へ戻ったルイーズは、ルーベルトの執務室へ続く廊下を歩いていた。その表情からは、緊張しているのが感じ取れる。きっと、進路の話をするのだろう。ドアをノックして、部屋の中に入ったルイーズは、ルーベルトに声を掛けた。
「お父さ「待ってくれ!」ま……」
「トーマス! 直ぐにエイミーを連れてきてくれ!」
ルーベルトは、ルイーズの言葉を遮ると、トーマスにエイミーを呼びに行かせた。そのままルイーズにソファーへ座るように勧めると、自身は机の周りを行ったり来たりと落ち着かない様子だ。二人の間に沈黙が続く中、執務室にはエイミーとトーマスが来たようだ。
「あなた、何事ですか?」
「急に呼び出して悪かった。恐らく、正気の沙汰ではいられない気がするんだ」
「そう…ですか。ルイーズどうかしたの?」
エイミーが、ルイーズに声を掛けた。
「進路のことでお話があります」
「そう。あなた、話を聞いてあげてくださいな」
エイミーに言われると、ルーベルトは黙ったままソファーに腰掛けた。
「今日、教員のマノン先生から、首席での卒業が確定したこと、そして王宮への推薦状が渡されることを伝えられました」
「ルイーズ、おめでとう! 貴女は本当に頑張っていたものね」
「お母様、ありがとう」
「それで、何か迷っていることがあるのかしら?」
「はい。王宮への推薦は、心惹かれるものでしたが、辞退したいと思っています」
それまで黙って二人の話を聞いていたルーベルトが口を開いた。
「何故、辞退するんだ? 心惹かれるなら、推薦状はもらっておいたほうが良い。働きたいと思っていても、誰しもが働ける職場ではないんだぞ」
「はい。ありがたい話だと思っています。でも、卒業後は侍女として、クレメント家の御息女にお仕えしたいと思っています」
「ハッ? クレメント? 御息女の侍女?」
「長期休暇にクレメント家でお世話になったときに、何度酷い目にあっても『大丈夫』と答える彼女を支えたい、お力になりたいと思ったのです。その後もお手紙でやり取りをさせていただいています。辺境伯爵様と姉のレアさんにも、侍女の件はお伝えしています。勝手なことをして申し訳ございません」
「あんなに頑張っていたのに、良いのか? その努力が実って、推薦してもらえるんだぞ? それに、辺境なんか行ったら、中々会えないじゃないか!」
「お父様、ごめんなさい。どうか、行かせてください」
「…………」
ルーベルトは、両手で顔を覆い項垂れてしまった。エイミーに、背中をとんとんされても復活できそうにない。
「ルイーズの中では、もう決まっているのね。でも、お父様には時間が必要みたい。落ち着いたら、またお話ししましょう」
「分かりました」
ルイーズは、ルーベルトを気にしながらも部屋を退出した。ドアが閉まる音を聞くと、ルーベルトが顔から両手を外した。
「最後の言葉はだめだ。泣きそうだ。ハァー、彼奴の喜ぶ顔が目に浮かぶよ」
「でも、あなたが私を呼んだ時点で、こうなることは分かっていたのよね?」
「…………」
「フフッ。気持ちの整理がついたら、言葉を掛けてあげてね」
♦
両親に自分の希望を伝えた日から数日後。
ルイーズは、ルーベルトから『いつでも戻ってきなさい』と言われたようだ。その翌日には、マノン先生に推薦の辞退を告げ、辺境行きを報告した。
「ルイーズとクレアの進路が決まってほっとしたわ~。それにしても、こんなにぎりぎりに決まるなんて思わなかった」
「長期休暇明けには決まってる人もいたからね」
「「心配かけてごめんね」」
ミアとエリーに、ルイーズとクレアが謝ると、ミアが疑問を投げかけた。
「クレアは何故すぐに、王宮行きを決めなかったの?」
「姉に、教員になりたいと伝えたの。でも、外で侍女の仕事を経験するように言われたわ。それで返事が遅れたの」
「そっか」
「だけど、決まって良かったわ……。でも、これからは、中々会えないわね」
エリーの言葉に、しんみりとした空気が流れた。
それから、二週間後の卒業式は、つつがなく執り行われた。ルイーズは、両親に見守られながら、首席卒業者の一人として挨拶をした。毎年、淑女科の首席卒業者が代表として挨拶をする。しかし、女学院長とマノン先生から、後輩に残す言葉を伝えてほしいとの依頼があり、慌てながらも何とか原稿を書き上げて、今日の日を迎えた。挨拶の途中で、エリーとルーベルトのすすり泣く声に気づいたが、なんとか無事に終了したようだ。
「何かあったら、必ず集まりましょう」
「何がなくても、ね」
「そうね」
「皆、学院生活は本当に楽しかったわ。ありがとう」
エリーとミア、クレアとルイーズの四人は、抱きしめ合いながら再会を誓いあった。
ルイーズが屋敷に戻ると、家族と使用人の皆からお祝いの言葉を告げられた。ルイーズの辺境行きは全員に周知されていたため、その夜は遅い時間まで皆と別れの挨拶を交わしたようだ。
翌日の正午近くにブラン家を訪ねる者がいた。五名の騎士を引き連れた、レアとクロードだ。
「ブラン子爵、申し訳ない。もっとゆっくり来るはずが、気が急いてしまって早く着いてしまった」
「早過ぎます。今日は客室を用意しますから、泊まってください」
レアとルーベルトの会話を聞いて、その場にいたリアムとミシェルが慌てだした。
「姉さま、明日には出発してしまうのですか!?」
「ねえさま? ……グスッ」
「二人とも、今日は一緒にいられるわ」
その後、三人に申し訳なさそうな顔を見せるレアが、リアムとミシェルの二人から〈ルイーズと必ず会えるようにすること〉を約束させられたようだ。
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