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最終章 旅立ち
2 道筋
しおりを挟む今日は、侍女科の試験最終日ということもあり、帰宅時間が早いようだ。ルイーズとエリー、そしてクレアとミアの四人は、昼過ぎには女学院を出て修道院へと向かった。
修道院に向かう間、ルイーズが三人にリアムのことを打ち明けた。父親と彼の会話を聞いたこと、今度彼に会うときは、成長した自分でいたいことなど。珍しく赤裸々に語るルイーズが、最後は大切な人だと告げると、何故か三人は喜んだ。
「ルイーズ、応援するわ」
「会えないのは辛いけど、今は頑張り時ね」
クレアとミアの言葉を聞きながら、何度も頷くエリー。
「話を聞いてくれてありがとう。何だか落ち着かなくて」
その後も四人は、花畑を見ながら会話をして、修道院までの道を楽しんだ。
ルイーズとエリーが初めて修道院を訪れた日。二人は、医務室の周りに日常生活で役立つ薬草を植えたいと思ったようだ。後日、修道院長と女学院長の二人に話を通した二人は、月に1・2回こうして修道院を訪れている。いつの頃からか、そこへミアとクレアも加わった。今日は、医務室前に植えたローズマリーとラベンダーを収穫するようだ。四人は、医務室前に着くとエプロンをして、作業に取り掛かった。
「ローズマリーすごいことになっているわね」
「そうね。今日は、多めに切り取っても大丈夫ね」
「籠、足りないかな~、私、調理場に行ってくる!」
籠を取りに行ったはずのミアが、すぐさま戻ってくるなり、エリーに何かを聞いているようだ。
「ねえ、あそこにいる男性って、もしかしてルイーズの……?」
ミアの問いに驚きながらも、男性を見ると頷くエリー。三人は、ルイーズに声を掛けようとしたが、ルイーズは地面を見たまま作業を続けている。
「えっ、見るのもだめなの?」
「見たら、近づきたくなるでしょう?」
「そっか……」
「でも、彼…少し近づきすぎよね。会わないって、誓ったのよね」
「気持ちが溢れすぎて、足が前に進んじゃうのよ。彼、そんな顔してるじゃない。切ないわ~」
ミアとクレアの話を聞かなくても、ルイーズは気づいているのだろう。ルイーズ自身、応接室での会話を聞かなかったら、駆け寄っていたかもしれない。しかし、彼の姿が視界に入れば、気持ちが揺らぐ。
「クレア、ミア作業を続けましょう」
エリーの呼びかけに、二人は持ち場に戻ったようだ。
四人は、作業が終わるまで夢中で手を動かした。途中、空気の変化を感じたルイーズは、顔を上げて周りを見渡すも、リオンの姿は見当たらなかった。
ルイーズは、帰り際に修道院長から呼び止められ、植木鉢を渡された。
「今日、訪問された方からルイーズちゃんに。初めて見るけど、綺麗なお花ね」
「……ありがとうございます」
ルイーズは、植木鉢を受け取りながら、辺境の花畑を思い出しているようだ。屋敷に戻ると、部屋の窓台に置いた薄紅色のその花を、しばらく眺めていた。
♦
長期休暇も返上で過ごした最終学年。気がつけば、卒業を目前に控えていたある日。ルイーズとクレアは、教員のマノン先生から事務室に来るようにと声を掛けられた。二人は、急いで事務室へと向かった
「遅くなりました」
「大丈夫ですよ。二人ともこちらに来てください」
「はい」
マノン先生は、二人が目の前に来ると、押さえていた感情を露わにするかのように、笑顔になった。
「二人とも、おめでとうございます。ルイーズさん、クレアさん、本当に頑張りましたね。あなたたちの…努力が実を結び……」
マノン先生は涙を流し、言葉に詰まっているようだ。クレアに背中を擦られ、落ち着いた先生から告げられらた言葉は、ルイーズとクレアの首席・次席での卒業が確定したというものだった。
「上位の成績を修めた卒業生には、王宮への推薦状が渡されるの。二人とも、良く考えた上で、後日お返事をください」
「「はい」」
二人は、事務室を退出した後も思いつめたような顔で廊下を歩いていた。
「ねえ、ルイーズ。私、前に王宮で働きたいと言ったことがあったでしょう?」
「ええ、クレアはだいぶ前から、王宮で働くことを目指していたわよね」
「うん。姉に憧れて侍女科に進んで、目指すなら最高の場所で仕事をしてみたいと思っていたの」
「うん」
「でも、王宮と聞いても……今はしっくりこないというか、私の目標はやっぱり姉なのよね」
「クレア、マノン先生に今の気持ちを伝えたほうが良いわ。先生なら、クレアと一緒に最良の答えを見つけてくれると思うの」
「そうよね。姉に相談してみるわ」
クレアは、顔つきが和らいだようだ。
「ルイーズは、王宮で働く?」
「王宮で働けたら、侍女としては成長できるのかもしれないけど……私は、お仕えしたいと思う方の下で働きたい。それは……、王宮では…ないわ」
「ルイーズは、もう答えが見つかっているみたいね」
「……そうね。両親を説得しないと」
先ほどとは打って変わって、二人の顔には笑みが浮かんでいた。
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