【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~

青依香伽

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最終章 旅立ち

1 それぞれの思い

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 カルディニア王国では、長い年月を経てようやく平穏な日々を取り戻した。王宮では、王家主催のパーティーが開かれ、陛下から全貴族への謝罪と周知が行われた。50年前の問題説明から解決まで、詳細が伝えられたようだ。

 第三王女に関しては、幽閉中に赤子を出産し、その後帰らぬ人となったこと。そのとき生まれた赤子は、当時の王妃が秘密裏に、この国の伯爵家に託したという内容までもが語られた。当の伯爵家はというと、既に取り潰され、その際に第三王女の娘と孫娘の存在が明らかになった。娘は、この世の人ではなかったが、孫娘はこの一年で王立学園の風紀を乱したことが問題となり、皮肉にも祖母と同じ扱いを受けることとなった。その際に取り上げた宝石は二つ。どちらも黒ずんだ赤い色をしていたそうだ。

 時を同じく隣国のロードリアス王国では、第一王子が病に倒れ、第二王子が王太子位を継承した。これらは、カルディニア王国との連携を図った第二王子の勝利と言えるだろう。しかし、カルディニア王国の伯爵家と結託して国の乗っ取りを企てていた第一王子と侯爵家の後処理で、しばらくは忙しい日々を過ごすことになるのだろう。

 パーティーの翌日。

 ブラン家では当主の顔をしたルーベルトが、家族と前子爵の時から仕えている使用人を集めて、陛下が語った内容を聞かせていた。

「最後に、これは陛下から個別に聞いた話だが、第三王女の日記を前王妃の関係者が持っていたそうだ。そこには、父上の名前もあったことから私に話があった。第三王女は、男系継承のこの国の制度を変えることができれば、自分が父親の跡を継げると思っていたそうだ。第一、第二王女が嫁いでいないのなら、自分がと思ってしまったのだろう。そう思うようになった原因は、伯爵家なんだが。そんなことを考えていた時に、前王妃様がご懐妊され、陛下が誕生した。傷ついていた彼女は、そんな時に父上の存在を知り、実らぬ恋をして失恋したそうだ。そんな話を聞いても許せることではないが。皆には、第三王女がそんな思いを抱えていたという事だけ知っておいてほしい」

 誰も口を開かず、頷いた。沈黙が続く中、ドアをノックする音に気づいたトーマスが、ドアを開けると使用人が立っていた。その者がトーマスに何かを耳打ちしているようだ。トーマスもまた、同じようにルーベルトに耳打ちをする。

「皆、話しは以上だ。休みの日に悪かったな」

 急いで皆を部屋から退出させるルーベルト。

「あなた、何かあったのですか?」

 心配そうに尋ねるエイミーに、「彼がきた。エイミーも来るか」と告げるとエイミーは頷き、二人は急いで応接室に向かった。

 ルイーズは、部屋へ戻る途中で見覚えのある馬を引き連れたモーリスを見かけた。驚きながらも、もしかしてと期待するルイーズは急いで応接室を目指した。応接室の前に着くと、身なりを整えドアをノックしようとしたが、中から聞こえてくる会話に手を出すのを躊躇った。

「どうしても、会わせてはもらえませんか? 少しだけで良いんです、お願いします」
「今はだめだ。君の御父上からも手紙が届いた。あんなことくらいって思っているかもしれないが、彼奴が…すまない、君の御父上が怒っているのは内容じゃない。それは分かるか?」
「はい」
「それに、今ルイーズは侍女になるために必死に頑張っている。気持ちを乱さないでやってほしいんだ」
「…………」
「今、君は次期当主として、彼奴に認めてもらえるように精進しないとな」
「……分かりました。認めてもらえるまでは、会いません。でも、お二人に認めてもらえたらそのときは、求婚することを認めてください」
「認め……たらな」

 渋々だが、返事をするルーベルトと、どうにか言質を取ることができてほっとするリアム。そんな二人のやり取りを聞いていたルイーズは踵を返し、自身の部屋に向かった。

「お嬢様……」

 ローラは、応接室に急いで向かうルイーズを気にかけ後を追ってきたようだ。


「会わせてあげても良かったんじゃないかしら」
「中途半端な態度を取っているようじゃだめだ。そういうところは、彼奴を見習ってほしい。それに、少し会えないぐらいでだめになるなら、他の相手でも良いんじゃないか? それに辺境に行ったら、中々会えないじゃないか……」

「あなた……、本音はそれよね」

「これくらいのこと良いじゃないか。ルイーズと一緒にいられる時間は、あと少しかもしれないんだぞ」

「そうね」

 ♦

 モーリスから馬の手綱を渡されたリアムに声を掛けるローラ。

「ルイーズお嬢様は、明後日の午後、修道院を訪問いたします……お話されることは叶わないかもしれませんが。突然のお声がけ、大変失礼いたしました」

 お辞儀をして急いで去っていくローラに、ありがとうと呟くと、リアムはブラン家を後にした。


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