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第6章 問題解決に向けて
8 遠征帰還パーティー(前日)①
しおりを挟む遠征帰還パーティーの前日
遠征帰還パーティーに参加する者たちが、次々にクレメント家を訪れていた。門から屋敷まで続く長い緩やかな上り坂を、何台もの豪華な馬車が上ってくる。招待客の中には、遠方から来るものもいるため、前乗りする者もいるのだろう。
辺境伯が開催するパーティーであれば、参加者も多く、規模も大きい。その光景を、部屋の窓から見ているルイーズは、多くの参加者がいることに驚いているようだ。
「エリー、リアム……すごいわよ。二人とも、外を見て」
ルイーズは、その光景を視線から外すことなく、ソファーに座りお茶をしている二人に話し掛けた。二人も窓に近づき、外の光景を確認している。
「姉上、明日はもっと人が増えますよ」
「そうね。前日でこうなら、当日はすごい人よね。同じ伯爵家でも、うちとはパーティーの規模が全然違うわ」
しばらくの間、三人は窓から見える馬車の流れを眺めていた。
♦
シャロン姉妹の部屋で夕食を済ませた後、部屋へ戻ると軽く身支度を整えるルイーズ。
「リアム、私リリーちゃんのところに行ってくるわね。昼間に会えなかったから、少し気になって」
ルイーズは、自身の体調が回復してから、リリーとの約束通り毎日のように部屋に訪れていた。その甲斐あって、リリーの体調もかなり回復したようだ。今日は昼食後に会う約束をしていたようだが、リリーがお昼寝中のため引き返してきたようだ。
「姉上、もう遅い時間ですし、今日は人が多いですから僕もついて行きます」
「ありがとう。それなら一緒に行きましょう。同じ年頃のリアムが行けば、リリーちゃんも喜ぶと思うわ」
「そうでしょうか……」と答えながらも、嬉しそうなリアム。
二人は、リリーのいるレアの部屋に向かう途中で、いつもとは違う空気の重さを感じているようだ。ルイーズは、廊下の四方を確認するかのように視線を向けている。二人は顔を見合わせると、手をつなぎリリーの部屋に急いで向かった。
部屋の前に着くなり、ドアをノックしても返事がないため二人は中へ駆け込んだ。ベッドを見ると、最近は笑顔で迎えてくれていたリリーの姿がどこにも見当たらない。
焦った様子の二人は、部屋の中を探し始めるが見つからないようだ。その時、浴室の方から微かに音が聞こえてきた。二人は、音の存在を確認するかのように、顔を見合わせ頷きながら走り出した。
浴室の扉を開けると、一人の侍女が眠っているリリーを浴槽に入れようとしているところだった。ルイーズとリアムに見られて焦った侍女は、リリーを急いで浴槽に放り込んだ。ルイーズとリアムは、侍女の切羽詰まった様子から、危険だと感じ咄嗟に動きだした。
「姉上はリリーさんを!!」
「…っ!わかったわ!」
ルイーズは、侍女とリアムを相対させたくないと思ったのか、一瞬迷いを見せたがすぐにリリーの元へ駆けつけた。湯が張られた浴槽から、必死にリリーを引き上げると、何度も名前を呼び掛けた。身体を打ちつけた様子もなく、浴槽に沈み込む前に助けることができたのだが、リリーは目を閉じたままだ。
「誰か―――!! お願い!! 誰か来て――――――!!」
ルイーズの叫び声が響き渡る中、その声に気づいたリオンとクロードがリリーの部屋に駆け込んできた。二人は、開け放たれた浴室のドアに気づき中へ入ってくると、中の光景を目にした途端に動きだした。
「クロード、リアムを頼む!」
頷くクロードを確認すると、リオンはすぐさまリリーに駆け寄った。ルイーズからリリーを受け取ると、急いでベッドに向かい横にさせた。リアムは、後ろからついて来たルイーズに事情を聞いているようだ。
「何があったんだ?」
「私たちが部屋に来たとき、リリーちゃんの姿が見当たらなくて…そのとき浴室から音がしたから…向かったら、あそこにいた侍女が、私たちに気づいた途端に…リリーちゃんを浴槽に放り込んで……その後、すぐにリリーちゃんを引き上げたけれど、目を閉じたままで……」
「レアはいなかったのか?」
リオンの問いに、何度も頷くルイーズ。その時、浴室から侍女を羽交い絞めにしたクロードとリアムがこちらに近づいてきた。
「クロード、その侍女をすぐにシリルに引き渡したら、じいさんを呼んできてくれ。それからリアム、ルイーズがびしょ濡れだ。すぐに部屋へ連れていってくれ」
クロードは頷くと、すぐに部屋から出ていった。リアムもルイーズを連れて、急ぎ部屋に戻っていった。
ルイーズは、部屋へ戻ると動きやすい服装に着替えて髪を一つに結わいた。リアムのいる部屋に向かいリリーのところに戻ることを告げて部屋を出ていった。
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