【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~

青依香伽

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第6章 問題解決に向けて

5 花畑の記憶 ①

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 翌日の早朝、ブラン姉弟がいる客室に、リオンが訪ねてきた。

「リアム、おはよう。朝早くからすまないな。ルイーズ…嬢はいるだろうか?」

「おはようございます。リオンさん、まだ7時前ですよ……もう…、早すぎます。今、呼んできますから、待っていてください」

「ありがとう」

「あ、そうだ……今日は二人きりなんですから、ちゃんと話してくださいね」

「ああ、分かってる」

リアムは奥の部屋にいるルイーズを呼びにいった。

「リアム、誰かきたの?」

「リオンさんです。姉上を誘いにきました」

「……でも、朝はリアムと庭園をお散歩する約束だし、お断りしてくるわ」

「騙してごめんなさい。昨夜、リオンさんから姉上を誘いに来る話は聞いていました……姉上もリオンさんのこと、気になっているんですよね?」

「…………」

「僕は、先に朝食を食べて待っています。だから、リオンさんに付き合ってあげてください」

「……うん」

 リアムに背中を押され、ルイーズは戸惑いながらもリオンと出かけることにしたようだ。笑顔のリアムに見送られ、二人が屋敷から外へ出ると、クロードが馬の手綱を引いて二人を待っていた。既に、馬には鞍も取り付けられて、準備万端なようだ。

「……馬に乗るのですか?」 

「出かける前に伝えられず、すまなかった。乗るのは怖いか? 馬車が良かったら、直ぐに用意する」

「いえ、楽しみです」

 リオンは、ルイーズの返答を聞いて、安堵したようだ。ルイーズを軽々と馬に乗せ、自分もその後ろに跨ると、クロードに目配せをしてからゆっくりと馬を歩かせた。

 辺境に来てからの数日間は、色々なことがあり過ぎた。本来の目的である乗馬は、既に諦めていたようだ。それが、ここに来て急に願いが叶ったルイーズは、とても浮かれているようだ。揺れる身体も気にすることなく、遠くの景色を楽しんでいる。馬上から見る眺めが新鮮なのだろう。

「気分は悪くないか?」

 声のする方へ振り向いたルイーズは、そこでようやくリオンに抱えられていたことを思い出したようだ。真っ赤になりながら頷くルイーズを、優しい眼差しで見つめるリオンは、本当に嬉しそうだ。

「少しだけ飛ばしても良いか?」 

「……はい」

 リオンの体温を背中に感じとったルイーズは、胸の鼓動を抑えられずにいるようだ。


 しばらく走ったところで小道に入ると、辺り一面には白や薄紅色の花々が咲き乱れていた。それらを視界に捉えたルイーズは、得も言われぬ懐かしさを感じているようだ。

 黙り込んだルイーズを心配そうに見るリオン。

「この花畑は、昔からあるのですか?」

「ああ」

「……そうですか」

小道の先にある大木の側で、馬から下りた二人。

「ここには、10年前に一緒に来たことがあるんだ」

「ごめんなさい……覚えていなくて」

「いや、良いんだ。またこうやって、一緒に来ることができた」

 二人は花畑の周りを歩きながら、話をしているのだろう。ルイーズは、時々しゃがみ込むと、花の近くに生えている草を見ているようだ。

「これは……ハーブかしら?」

「それは、君の御祖父様からいただいたものかもしれないな」

「御祖父様から?」

「ああ、その草だけでなく、ここに咲いている薄紅色の花も、お土産に頂いたものなんだ」

「元々は、白いお花……だけですか?」

「ああ、君がここに来たときは、白い花畑だった」

「そうですか……、この薄紅色の花は、初めて見ました」

「ああ、俺もここで初めて目にした。花に詳しいわけではないが、花弁の形からして、異国のような雰囲気だな」

 ルイーズは、優し気な薄紅色の花を見ながら、これらをお土産に渡した祖父の思いを、漠然とだが感じとっているようだ。


 その後、二人は大木がある場所まで戻ると、リオンは、持ってきたブランケットをその根元近くに敷き、ルイーズを呼び寄せ一緒に腰を下ろした。

「11年前に、ブラン家の前当主である御祖父様と君が、この辺境の地に来たことは聞いたと思うんだが……」

「はい」

「その当時、俺は11歳で、君は6歳だった。母が里帰りを兼ねて、出産のために妹のレアと一緒に隣国の生家に帰省していたんだが、俺は後継者教育や剣の稽古があったから、一人屋敷で過ごしていた。そんな時、いつも辺境には一人で来ていた君の御祖父様が、君を連れてクレメントの屋敷にやって来たんだ。

 昔から、剣豪と言われる君の御祖父様と、剣一筋の祖父は仲が良かったらしくて、会うとよく剣の稽古をつけてもらっていたんだ。その時も、稽古を見てもらえる喜びと、妹と同じ年頃の君がいたから嬉しかった。

 ここへも、その時に来たんだ。君が帰る日の前日に、花が好きだという君に喜んでほしくて、ここへ連れてきた。君はずっと楽しそうに笑っていて、本当に可愛かった……だから、俺は離れるのが寂しくて、ずっと一緒にいたくて『結婚しよう』って言ったんだ」

「けっ…こん……?」

「ああ、五つも年下の幼い君に……と思うかもしれないが、当時の俺は、約束しておかないと……そう焦るほどに、離れたくなかったんだ」

「そう、ですか……」

 幼い頃の話とはいえ、リオンの〈求婚した〉という事実に、ルイーズの胸は煩いほどに高鳴っていた。


「だが、その翌日……最終日に、君が記憶を失うきっかけになった事件が起きた。
その日は朝早くから、祖父の二人と俺と君の四人で、市井にお土産を買いに行ったんだ。二人が会計をしている間、店を飛び出した俺と、それを追いかけてきた君が、外へ出た瞬間に襲われた。今だから、分かったことだが……その時に狙われていたのは…自分だったと思う。巻き込んでしまった君には、本当に申し訳なかった。

その後、背中を切りつけられた俺と、気を失った君は、市井の病院に運び込まれた。俺の処置が済んだ後、幼い君は記憶が曖昧になりながらも、ずっと側で俺の腕を擦ってくれていた。

その時に、君の手から感じる体温に、心が救われたんだ。悲しみや辛さよりも、これからは強くなって、この子を守りたいって……そう思ったんだ」


 自分でも、気づかない間に涙がこぼれていたようだ。頰を伝う涙に気づいたルイーズは、ポシェットからハンカチを取り出そうとしたとき、横からリオンがそっと涙を拭ってくれていた。



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