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第5章 辺境の地へ
13 目覚め
しおりを挟むリオンとリアムがルイーズのお世話をするようになってから三日目の朝。
ルイーズがようやく目を覚ました。少しの間、重たそうな瞼を何度もゆっくりと上下に動かし、意識がはっきりするのを待っているようだ。首を軽く左に向けると、リアムがすやすやと寝息を立てて眠っている。今度は首をゆっくり右側に向けると、流れるような美しい銀色の髪が視界に入ってきた。リオンは、椅子に腰掛け、ベッドに突っ伏したまま寝てしまったようだ。
ルイーズは、戸惑った表情を見せるも、リオンの寝姿に何故か懐かしさを覚えたようだ。無意識なのだろうが、リオンに握られている手を軽く握り返している。瞼に力を入れてぎゅっと閉じるも、ルイーズの目には涙が滲んでいるようだ。
ルイーズの手の動きに気づいた様子のリオンは、ベッドから顔を上げると、涙を堪えたルイーズの顔を見て狼狽えた。
何かがが頭を過ぎったのか、リオンはゆっくりと手を離した。
「すまない…………気分はどうだ?……今、水を持ってくる」
動揺するリオンを見つめるルイーズ。
リオンは卓上に用意された水をコップに注ぎ入れ、それをルイーズの口元に運んだ。
「ありがとう」
ルイーズは、リオンにお礼を伝えるも、その後の言葉が続かないようだ。
「ああ……」
その時、隣で眠っていたリアムが、目を覚ましたルイーズに気がついたようだ。
「姉上? 起きたの??」
リアムはまだ眠たそうな顔つきだが、目覚めたルイーズの顔をじっと見つめている。
「なんで泣いているんですか……? どこか痛いですか? リオンさん……、姉に何をしたんですか?」
ルイーズは、リオンを疑うリアムを嗜めた。
「リアム…違うの。……今、お水を飲ませてもらっていただけよ」
「……そう、ですか……リオンさん疑ってごめんなさい」
「いや、良いんだ。俺は爺さんを連れてくる。リアム、後は頼んだ」
リオンからその後を頼まれたリアムは、頷きながらも急いでベッドから降りた。小走りでクローゼットに向かい身支度を終えると、ルイーズの側に戻ってきた。
「姉上、気分はどうですか」
「ありがとう。まだ……、身体は動かしづらいけど、気分はそこまで悪くないわ」
「そうですか、良かったです。お医者さんが来るまで横になって待っててくださいね」
「リアム、ありがとう」
♦
それからしばらくすると、医者を連れたリオンが部屋に戻ってきた。
「目が覚めたようじゃな、気分はどうだ?」
「まだ身体は怠いですが、気分は悪くありません」
「そうか、そうか。良かった、良かった。念のために、今日も横になってゆっくり過ごすんじゃ。無理をしてはいかんぞ」
「はい」
「よし、大丈夫そうじゃ。リオン、しばらくは、消化のよい食事を用意してやるんだぞ」
「わかった」
診察を終えた医者は、リリーの部屋に向かったようだ。
医者が部屋から退出した後、リオンはベッドの横にある椅子に腰かけた。
「さっきは、驚かせてすまなかった」
首を横に振るルイーズ。
「覚えていないと思うが、昔も同じように倒れたことがあったんだ。その時のことを思いだしたら、心配で……、どうしても離れられなかった」
「私が泣いたことを気にされてるのですか?」
静かに頷くリオン。
「最初は、リオンさんが隣にいることに驚きましたが……、あの時、何だか懐かしい気持ちになって……、それで泣いてしまったのです」
「そうか、嫌がって泣いたわけではないんだな……」
嫌がられたわけではないと分かり、ほっとするリオンは、ルイーズの手に手を重ねた。
「リオンさん、やはり姉を泣かせたんですね……それに、姉に触れないでください。二人とも、僕がいるのを忘れないでください」
リオンが驚いて横を見ると、怒った顔のリアムが立っていた。
「……リアム……すまない」
「リアム、忘れていないわよ」
いつものルイーズに戻ったことがわかると、安心したリアムはルイーズに微笑んでからリオンに向き直った。
「リオンさん、姉の食事をお願いしてきてください。お医者様も、消化のよいものと言っていました。野菜を細かく切ったスープなどが良いと思います」
「……今日のお世話は代わってもらえないだろうか」
「だめです」
項垂れるリオンに、容赦のないリアム。
「二人とも、随分仲良くなったんですね」
ルイーズの言葉を聞いた二人は、目を見合わせたあと、顔をそむけた。一緒にお世話をするうちに、気安く話せる仲になったようだ。
ルイーズも穏やかな表情で二人を見ている。
その時、ドアをノックする音が聞こえた。
「リオン、ちょっと良いか?」
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