【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~

青依香伽

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第5章 辺境の地へ

11 心の傷

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二人の叫び声を聞いたリオンは、急いで部屋の中に駆け込んだ。
視界にレアとリアムを捉えると、その近くには床に倒れているルイーズがいた。
驚いたリオンは、すぐさま駆け寄りルイーズを抱きしめた。

「何があった !?」

リオンがレアとリアムに問うも、床に膝を突き、困惑した表情の二人は首を横に振るだけで、理由が分からないようだ。

「リオン、床にぬいぐるみが落ちてる。多分、それが原因じゃないのか。とにかく今は、ルイーズ嬢を横にしてやったほうが良い。俺は、急ぎ医者を連れてくる」

ブライスはリオンに言葉を投げると、急いで部屋を出て行った。

リオンはルイーズを抱きしめたまま、レアとリアムにぬいぐるみには触れないように伝えると、急ぎ足で自分の部屋に向かった。


その頃、エマとエリーは自分たちにも手伝えることはないかと、リリーの部屋に向かって廊下を歩いていた。そんな二人の目の前を、急いだ様子のリオンが通り過ぎた。二人は、リオンに抱えられたルイーズを見て、驚き声を掛けるも、リオンには聞こえていないようだ。二人は、返事をしないリオンに不安になると、リリーの部屋へと急ぎ向かったようだ。

二人がリリーの部屋に到着すると、開かれたままのドアからは、リリーの背中を擦るレアと、大きな布を何かに被せているクロードとリアムの姿があった。

「レアさん、リオンくん、何があったの? 今、リオンさんがルイーズを抱えて急いでどこかに向かって行ったわ。ねえ、ルイーズに何があったの!」

「エリー落ち着きなさい! 心配なのはわかるけど、この状況を見なさい」

「あ……、ごめんなさい」

「エマさん、エリーさん。姉上が倒れました。おそらく、ここにあるぬいぐるみが関係してると思います。リオンさんは、…誰も触れないようにと言って、姉を部屋に連れて行きました。それから……ブライスさんが…お医者様を連れてきてくれるって……」

気丈に振る舞っていたリアムだが、姉を心配するあまり不安になったのだろう。そんなリアムをエリーが抱きしめた。

「リアムくん、ごめん。よく頑張ったね。後でルイーズのところに行こうね」

俯きながら、何度も頷くリアム。二人とも、泣きそうな顔をしている。そんな二人を見ていたエマが振り返ると、レアとリリーを見つめた。

「リリーちゃんは大丈夫だったの?」

「ああ、ルーちゃんが床に倒れたときの音で驚いたようだが、また眠り始めた」

「そう……レアはそのままリリーちゃんの側にいてあげて。私はルーちゃんの様子を見てくるわ」
「頼む」

クロードは、布を巻き付けたくまのぬいぐるみを抱えながら、部屋を出て行った。その様子を見ていたエマは、エリーとリアムを部屋に戻らせると、ルイーズの元に向かったようだ。

エマがリオンの部屋の前に辿り着くと、ドアの前ではシリルが部屋の中のリオンに向けて話し掛けていた。

「シリルさん、何かあったんですか?」

「リオンが、ドアを開けないんだ……」

「えっ⁇ 何をやってるんですか! 未婚の男女ですよ。具合が悪くても、二人きりになんてしないでください」

「そうなんだけど……、まあ、リオンは大丈夫だよ。無体な真似はしないと思う……」

「当たり前です。ルーちゃんに何かしたら許しませんよ」

「どうしたんだ?」

二人のところに、医者を連れたブライスとクロードが来たようだ。

「あー、リオンがドアを開けないんだ」

「はっ⁉ あいつは何をやってるんだ。……ていうか、何がしたいんだ」

「そう、言ってやるな。リオンは……、色々こじらせているんだ」

「……よくわからないけど、とにかくお医者様に診てもらいましょう」

「ハア~、仕方ない。やるしかないな」


突然何を思ったか、ブライスが勢いをつけて足でドアを蹴破った。周りが唖然とする中、開いたドアから部屋の中に足を踏み入れるブライス。三人も、それに続いて部屋の中に入っていく。

そこには、ベッドへ横になるルイーズと、その横でルイーズの手を握るリオンがいた。四人が話しかけるも、全く気づく様子のないリオン。

「……どうやら、俺たちの声は聞こえていなかったようだな」
「そうみたいだね……」

シリルとクロードは、尋常ではないリオンの姿に驚きを隠せないようだ。しかし、そんな二人を余所に、ブライスがベッドに近づくと、リオンの肩に手を置き力強く掴んだ。

「リオン、どうしたんだ? しっかりしろ!」
「…………」

ブライスに怒鳴られ驚いた顔のリオンは、ようやく部屋の中にいる者たちに気づいたようだ。


「話は後だ。今は医者に診てもらうのが先だ」


リオンとブライスは、クロードの言葉で我に返った。



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