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第5章 辺境の地へ
6 リリーを看る
しおりを挟む「リオンさん、起きてください。妹さんが目を覚ましました」
深い眠りについていたリオンは、自分の名を呼ぶリアムに目の焦点を合わせると、言われたことを反芻しているようだ。そして内容を理解すると、突然ソファーから立ち上がり、リリーの元へ急いで駆け寄った。
「リリー、分かるか?」
「……おにい…さま……?」
「気分はどうだ? 起き上がれるか? 何があった?」
「…………」
「リオンさん、落ち着いてください。妹さんは、今、目を覚ましたばかりです。そんな問いただしても、すぐには答えられません」
「ルイーズ……、すまない」
リオンはハッとした表情でルイーズを見て謝ると、リリーに視線を戻してから手を握った。ルイーズは、敬称なしで呼ばれたことに一瞬驚いたが、リオンを見ると、本人はそのことさえ気づいていないようだ。
きっと、それだけリリーのことで動揺しているのだと、ルイーズは思ったようだ。
「リアム、レアさんの所に行ってくるから、ここにいてね」
「姉上、僕が行ってきます。他に何か必要なものはありますか?」
「レアさんを呼びに行った後、お水とコップ、あとは…、洗面器にぬるま湯とタオルを数枚と清潔なガーゼをもらってきてほしいの」
「わかりました。行ってきます」
ルイーズから必要なものを聞くと、リアムは急いで部屋を出て行った。ルイーズは二人の方に向き直る。リリーはまだ完全に目を覚ました訳ではないようだ。うつらうつらとしながら、リオンを見ている。
「リオンさん、妹さんに侍女か乳母はいますか?」
「ああ、乳母はいるんだが……、昨日執事に確認したら、リリーの乳母は半月前に階段から転落して、今は静養しているようだ。急ぎ、侍女を付けるように申しつけたが、まだ決まらない状況なんだ」
「そうでしたか……」
見たところ、リアムとリリーは同じ年ごろのようだ。そんなリリーが、一人で寂しい思いをしていたのかと思うと、ルイーズはやるせない気持ちになったようだ。
「リオンさん、滞在期間中は私に妹さんのお世話をさせていただけませんか」
「……しかし、君に侍女の仕事をさせるわけには……」
「私は、侍女になるためにまだ勉強中ですが、お役にたてることもあると思うんです」
返事に迷うリオンを尻目に、ルイーズはリリーの手を自分の手で包み込んだ。自分よりも少し小さな手は、カサついていてひんやりとしている。リオンやレアとは違う、薄紫の髪色に、透き通るような白い肌。今は血色が悪いが、早くお世話をして元気な姿にしてあげたいとでも思っているのだろう。リリーもルイーズに手を触れられていると、少しだが穏やかな呼吸になっている。心なしか、先ほどより瞬きの回数も増えているようだ。
しばらくしてから、リアムがレアとメイドのメアリーを連れて部屋に戻ってきた。レアを呼びに行く途中で、メアリーにお水や洗面器の用意をお願いしたようだ。ルイーズはそれらを受け取ると、リオンとリアムに少しの間だけ廊下で待つように頼んだ。二人が廊下に出たことを確認すると、ルイーズはリリーの顔を覗き込んだ。
「少し身体を拭きますから、不快に思うところがあったら、私の方を見てくださいね」
瞬きをしながら返事を返すリリー。ルイーズは、その様子を見つめると、身体を優しく拭きはじめた。そして、表情が和らいでくると、ガーゼに含ませた水をリリーに飲ませた。
「ルーちゃん、ありがとう。リリーの顔が昨日とは全然違う」
レアに微笑み頷くルイーズは、レアの後ろに控えていたメアリーに視線を合わせた。
「メアリーさん、廊下にいる二人を呼んできてもらえますか」
「かしこまりました」
リオンが廊下から部屋に入ってくると、リリーの側に駆け寄った。ルイーズは、その場から離れてドア付近にいるリアムの所に歩み寄った。
「リアム、ありがとう」
「姉上、お疲れさまです。僕もお役に立てたようで良かったです」
顔を見合わせ頷き合う二人は、近くにいるレアに声を掛けた後、リリーの部屋を後にした。廊下に出ると、リアムが小声でルイーズに何かを話している。
部屋に戻ると、リアムからソファーで待つように言われたルイーズ。少し経つと、隣の部屋から小さな封筒を持ったリアムがこちらに戻ってきた。
「姉上、父上からです。これを読んでください」
封筒を渡されると、封を開けて手紙を取り出す。手紙は厚みからして二、三枚あるだろうか。
「何故、手紙なのかしら……?」
「父上は、直前まで姉上に伝えるべきか迷っていたそうです」
「……そう」
ルイーズは、リアムに聞きたいことが沢山ありそうだが、一先ず手紙を読み始めたようだ。
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