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第4章 修道院
13 クレメント兄妹の来訪
しおりを挟むトーマスとモーリスが急ぎ玄関口に向かうと、そこには髪と目に同じ色合いを持った二人の男女が凛然とした表情で待機していた。トーマスは二人に挨拶を交わしてから、ルーベルトが控えている応接室に案内した。
「突然の訪問にご対応いただき、感謝いたします。私は辺境伯爵家の嫡男 リオン・クレメントと申します。隣にいるのは妹のレアです」
「ご紹介いただき、ありがとうございます。私はブラン子爵家の当主でルーベルト・ブランと申します。以後お見知りおきを。それで、本日はいかがされましたか」
どこか緊張した様な表情の二人は、シンプルな挨拶を交わしてから、すぐさま本題に入った。
「昨日、御息女と修道院でご一緒させていただきました。その際、妹のレアが御息女を辺境の屋敷に招待いたしました。突然の申し入れに、ブラン子爵も驚かれていると思い、本日は参上いたしました」
「そうでしたか……ルイーズが、クレメント辺境伯爵家の御子息、御息女と親交があるとは知りませんでした。どの様ないきさつでそのような話になったのかお聞きしても?」
ルーベルトがリオンに問いかけたその時、ルイーズが応接室を訪れた。ドアをノックして中へ入ると、リオンとレアの二人と目が合ったようだ。
「お話の最中に申し訳ございません。長期休暇について、父への説明が終わっていなかったので、私からお話させていただいてもよろしいですか?」
「ルイーズ、急に部屋に入って来てはお客様に失礼だよ」
「申し訳ございません」
ルイーズとルーベルトの話を聞いていたレアが、二人に話しかけた。
「ルーちゃん、急に訪ねてすまない。私は、ルーちゃんともっと仲良くなりたいと思って、我が家へ誘ってしまったんだ。屋敷には妹が一人でいてね、いつも寂しい思いをさせてしまっている。その妹が、私たちの帰省だけを楽しみに待っているんだ。そこへ、今回はルーちゃんも一緒に行ってくれたら、妹がとても喜ぶと思う。ブラン子爵、どうか長期休暇を我が家で過ごす許可をいただけないだろうか。」
レアの真剣なお願いを聞いて、ルーベルトは迷っているようだ。その様子を後ろから見ていたトーマスがルーベルトに声を掛けた。
「旦那様、奥様達もお呼びいたします。よろしいですね」
「ああ、そうだな……え、たちって、エイミー以外に誰を呼ぶんだ、おいトーマス!」
足の速いトーマスはもう廊下に出ているようだ。
「……失礼いたしました。今、家内も来ますので、少しお待ちください」
ルーベルトに言われて頷くリオンとレア。しばらくすると、トーマスがエイミーとリアム、そしてミシェルと侍女のローラを連れて執務室へと来たようだ。
リオンとレアに挨拶をする三人。その横では、ローラがルイーズの作ったフルーツケーキと紅茶を並べている。挨拶を終えたエイミーは、二人に着席を促して、ケーキを勧めた
「今日、ルイーズが作ったフルーツケーキなんですよ。よろしかったらお召し上がりになってください」
「ありがとうございます。いただきます」「いただきます」
二人は早速ケーキに手を伸ばした。
「ルーちゃん、美味しいよ」「……とても美味しい」
レアとリオンに、ケーキを褒められて嬉しいルイーズは、はにかみながらお礼を伝えた。その様子を面白くなさそうな顔で見ているルーベルトを脇から小突くエイミー。
「ねえたまのケーキおいしいよね。いつもいっぱいつくってくれるの」
「それは良いな」
「うん!」
ケーキを食べながらおしゃべりをするリオンとミシェル。先ほどまでの緊張感が薄らいだようだ。その後、ケーキを食べ終えると、ルーベルトが話し始めた。
「長期休暇のお話ですが、ご迷惑ではないでしょうか」
「こちらとしては、ルイーズ嬢に来ていただけるのであれば嬉しい限りです」
「…………」
この話は断ろうとでも考えていたのか、中々承諾しないルーベルト。
「姉上、長期休暇はどこかにお出かけになるのですか」
「そうなの。レア様から辺境伯爵家にご招待していただいたの」
「……そうなのですか」
ルイーズから長期休暇の予定を聞いて少し寂しげなリアム。その様子を見ていたルーベルトは目を光らせた。
「長期休暇にルイーズがいないと、兄弟が寂しがりますので今回は」
「あなた……」
「旦那様」
二人に断りをいれようとした時、エイミーとトーマスに呼ばれたルーベルトは、二人に目を合わせると固まり項垂れた。
「ご心配されるのはごもっともです。ですが、私も護衛としてついていきます。危険な目には合わせませんので、どうかご安心ください」
すかさずリオンが隙を突いた。
「こちらこそ、ルイーズをよろしくお願いいたします」
エイミーとトーマス、そして壁際に立っていたローラは、リオンとレアにこうべをさげた。
こうして、ルイーズの辺境伯爵家への旅が確定した。
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