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第4章 修道院
12 両親への相談
しおりを挟む修道院から屋敷に戻った夕刻、ルイーズは修道院で聞いた情報を、一心不乱に日記へ書き綴っていた。脳内を占めていた情報を、日記に書きだすことで、思考の波にのまれそうな自分を落ち着かせたようだ。
日記を書いている最中に、自分の記憶が欠けていることを聞かされた時の衝撃が、頭を過ぎった。しかし思い出そうとしても、いつの記憶がないのか分からない状態のルイーズは、悩むことをやめたようだ。悩み過ぎて自分を苦しめても、良いことはないと思ったのだろう。
その日記を何度か読み直すと、次はLノートに自分の気持ちを書いていく。嬉しかったことの欄に、《乗馬をレアさんに教えてもらえること》そして、願いの欄には《女学院に通えるくらいには上達して、モーリスの負担を軽くしたい。そして、いつかは馬に乗って颯爽と走ってみたい》と書き、最後に《いつかはエリーとの大事な思い出を取り戻したい》と記した。
その後ルイーズは、ローラに部屋へ来てもらい、ミシェルの侍女になってもらいたいことを伝えたようだ。その話を聞いたローラは、初めこそ納得しなかったが、懇々とルイーズに説得されて、一時間後には折れた。
ローラとしては、侍女になるため頑張るルイーズの成長を、側で見届けたい気持ちが強かったようだ。困ったときには、直ぐに手を差し伸べられる距離にいたかったのだろう。
ルイーズも、そんなローラの気持ちを感じて嬉しく思っていたため、決心ができなかったようだ。しかし、二人の世話で忙しいローラの現状を知ったからには、このままにはしておけないと思ったのだろう。ローラもお年頃だ。料理人見習いのジョージとのデートが買い出しのみと聞いたルイーズは、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
明日は、父のルーベルトに相談という名目で時間をもらっている。その時に相談しようと心に決めて、この日は考えるのをやめたようだ。
♦
修道院に訪問した日の翌日、ブラン家はいつもと変わらない穏やかな朝を迎えていた。
今日は、午後からルーベルトと約束をしている。それまでの間に、家族と使用人の皆にアフタヌンティー用のお菓子を作るようだ。調理場へ向かったルイーズは、料理長のトミーにドライフルーツを分けてもらいフルーツケーキを作り始めた。トミーの話では、ミシェルの最近のお気に入りだそうだ。ケーキを作り終えたルイーズは、紅茶のセットをティートロリーにセットすると、トミーにお礼を伝えて自分の部屋に戻った。
午後になると、ローラが部屋にやってきた。二人は無言で頷き合い、ルーベルトの執務室に向かった。今から侍女の話をするのだろう。
執務室に着くと、ドアをノックして部屋に入るルイーズとローラ。部屋の中には、ルーベルトとエイミーがソファーに腰かけており、その後ろには執事のトーマスと侍女長のマーサが控えていた。
「お父様、お母様。お時間をいただきありがとうございます」
「大丈夫だよ。さあ、ソファーに座って」
「はい」
ソファーに座ったルイーズは、早速、相談事を切り出した。
「お父様、お母様。今日は二つほどお話があります。まず一つ目は、ミシェルの侍女についてです。お母様と侍女長で、お話が進んでいることは聞いておりますが、ミシェルの侍女にはローラになってほしいのです。私が侍女科に進んだ時点で、この話をするべきでした。ローラと離れがたく、ここまで引き延ばしてしまったこと、申し訳ございませんでした。ミシェルには、信頼できるローラが侍女として付いてくれたら、私も安心です。私は自分のこともそれなりにですが、できるようにはなりましたので、侍女を付けていただかなくても大丈夫です。私の願い聞いていただけますか?」
ルイーズの発言を聞いて、まず話始めたのはエイミーだった。
「ルイーズは本当に良いの? 私もマーサも、ローラがミシェルの侍女になってくれたら安心はできるわ。でも、ローラからは、ルイーズが卒業するまでは側で見守りたいと聞いていたの。ローラも納得しているの?」
「はい、奥様。昨夜お嬢様からお気持ちをお聞きして、私も納得いたしました。しかし、ミシェルお嬢様の侍女になった後も、お嬢様に何かあった時は、お手を差し伸べることはお許しください」
ローラはエイミーに、お辞儀をしながら懇願した。
「そうね、ルイーズも一人で何でもできるようになったと言っても、まだ心配だわ。ローラ、こちらからもお願いするわ。その時は、よろしくお願いしますね」
「はい、奥様。かしこまりました」
ローラの返事を聞いて、ほっと胸を撫でおろしたエイミーは、ルーベルトの方に向き直り確認した。
「あなた、よろしいですか?」
「そうだね。ミシェルのことは、ローラに任せるのが得策だろう。ルイーズのことは心配だが、しばらくはそれで様子を見よう」
ルーベルトとエイミーから承諾してもらえたルイーズは、ほっと胸を撫でおろした。
「お父様、それでは二つ目のご相談なのですが、女学院の先輩のレア・クレメント様から長期休暇に辺境伯家へご招待されました。私は是非伺いたいのですが、よろしいですか?」
「何故、クレメント家の御令嬢から誘われることになったんだい?」
「それは、私が乗馬に」
ルイーズが乗馬の件を話そうとしたその時、モーリスが執務室にノックをして入ってきた。
「旦那様、失礼いたします。お話し中の所、申し訳ございません。今、クレメント辺境伯爵家のリオン・クレメント様とレア・クレメント様がお越しになられました。お約束はないかと思いますが、応接室にお通ししてもよろしいですか」
「モーリス、お二人は今屋敷にいるのかい?」
「はい、玄関でお待ちいただいております」
「わかった。知らせてくれてありがとう。トーマス、モーリスと一緒に行って対応お願いするよ。私もすぐに向かおう」
「かしこまりました」
ルーベルトとモーリスの会話を聞いていたトーマスが、直ぐに動きだした。
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