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第4章 修道院
11 辺境へのお誘い
しおりを挟む「そうだわ、エリーから聞いたのだけど、レアに良いこと教えてあげる」
「何だ?」
「ルーちゃん、乗馬を習いたいそうよ。エリーから、誰か適任者がいたら紹介してあげてほしいって、前から頼まれていたのよ。でも、ご家族には言えないらしいから、安全な場所で安全な指導をお願いしたいのだけど、レアどうかしら?」
「いつからでも良いぞ」
即答のレアに、笑いが零れるエマ。その隣では、レアを直視していたリオンが俯き様に何やら考え込んでいるようだ。
その様子を見ていたエリザベスが、エマの服の袖を引きながら小声で話し掛ける。
「エマ、何を考えているの? 御家族に知らせないなんて駄目よ」
「それは大丈夫よ。リザ、見て。二人とも乗り気よ。きっとこれがきっかけで、状況がまた変わるわ。それに、ルーちゃんもエリーも、知りたいはずよ。私だったら、守られてるだけなんていやだわ。二人に無理強いするつもりはないけど、やりたいと思うことはやらせてあげたいし、知りたいのなら教えてあげたい」
「もう、エマ……」
エマの言い分に、言葉を失い何も言い返せないエリザベスを見て、キースとアレックスが声を掛けた。
「良いんじゃないか。これからのことを考えたら、できることは多いほうが良い。様々な状況に対応できた方が安心だ。ご両親だって、いつでもどこでも守れるわけじゃないんだ」
「そうだね」
二人からも同じような言葉を聞いたエリザベスは、目を閉じてから頷いた。
♦
自分のいない間に、そんな話がされているとは知らないルイーズが、イリスと一緒に修道院室へ戻って来た。
「休憩ありがとうございました。医務室でエリーの様子を見ることもできて安心しました」
「そう、それは良かったわ」
ルイーズの穏やかな表情を見て安堵したエリザベスが、話しだそうとしたその時、レアが待ちかねたようにルイーズに話し掛けた。
「ルーちゃん、乗馬の話を聞いた。私なら、予定が合えばいつでも教えてあげられるがどうだろうか」
レアの突然の提案に驚きはあるが、嬉しそうな表情のルイーズ。
「本当に良いのですか? もちろん、私がレアさんの予定に合わせますので、よろしくお願いします」
ルイーズの返事を聞いて、満足そうに微笑みながら頷くレア。
「でも、私の馬だと大きくて落ち着きがないんだ。ルーちゃんに合った馬は……屋敷に戻れば、静かな馬に乗ることもできるんだが……どうだろうか、長期休暇は私と一緒に辺境に行かないか? あそこなら、思う存分練習もできるぞ」
「私が行ってもよろしいのですか? ……でも、先ずは両親に相談してみます。返事はそれからでも良いでしょうか?」
「ああ、もちろんだ」
「ありがとうございます。今夜にでも話してみます」
笑顔で頷き合うレアとルイーズ。それを横目に見ていたリオンが、アレックスを凝視している。その視線に気づいたアレックスは、苦笑いしながらリオンに告げた。
「君は学生じゃないから、長期休暇はないよ」
アレックスの言葉に納得できないリオンは、キースを見やるや否や言葉を発した。
「以前から頼んでいた休暇申請を取らせてくれ」
「……そうだな。この半年、休みという休みを取っていないしな。アレックス、辺境の様子も気になる。それに、辺境伯家の嫡男を長い期間こちらに留めているんだ。一度戻った方が良いだろう」
「それを言われると……そうだね、リオンからも休暇願いが出ていたしね」
リオンは二人の言葉を聞くと、後ろにいるレアに振り向きざまに伝えた。
「レア、俺も護衛としてついていく」
「兄上も帰れるのか! そうか、リリーが喜ぶぞ。あとはルーちゃんが一緒に行ければ言うことないな」
「……ああ、そうだな」
リオンの帰省を喜ぶレアと、そんなレアに優しいまなざしを向けるリオン。
そんな二人とは離れたところで、アレックスとエマが宝石について話していた。
「先ずは実物を見せてください。宝物庫にでも保管してるんですか?」
「こうなるから、宝石の話はまだしたくなかったんだ。今は厳重に管理している。見せるのは無理だよ。何が起こるか分からないものを見せるわけにはいかない」
「それでは、もう少しこちらで宝石について調べてみます。確証はありませんが、気になることがあるので」
「わかった。それなら今は、宝石について語るのはやめておこう」
「そうですね」
二人の間で何やら確約が取り交わされたようだ。
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