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第4章 修道院
8 修道院での再会
しおりを挟むエリザベスが、ルイーズに彼ら三人を紹介してくれるようだ。その前にルイーズに自己紹介をさせようと、エリザベスが背中を軽く叩き、合図を送っている。
「お初にお目にかかります。ブラン子爵家が長女、ルイーズです。どうぞお見知りおきくださいませ」
ルイーズは彼らの様子から、自分よりも身分が相当上だと判断したようだ。
淑女科に在籍していた際に、徹底的に学ばされた王族に対する綺麗なカーテシーを披露するルイーズ。侍女科に移ってからは、自分が仕えることになる貴族家の主に対するカーテシーを猛練習していたため、不安ながらも身体が記憶していることを信じて、王族に対するカーテシーを行ったようだ。貴族とは面倒だが、ここで間違えれば紹介してくれたエリザベスに迷惑がかかるのだ。ルイーズも、そのことが頭を過ぎったために緊張しているのだろう。
それを様子を見ていたエリザベスは、上手にできた妹を褒めるかのように微笑みながらルイーズの背中をさすった。
「ルーちゃん、こちらの方から紹介するわね。こちらはリオン・クレメント様、辺境伯家の御子息で、レアのお兄様よ」
銀色の髪に、紺碧と紫を混ぜたような夜空色の目をした美丈夫だ。先ほど怪我の手当てをしたときには、それどころではなかったのだろう。どうやら怪我の手当てをした相手だとは気づかなかったようだ。そして、リオンと目が合うと、ルイーズは目の色に見惚れてしまっているようだ。
「レアさんの……、先ほどは、急に肌に触れてしまい、大変失礼いたしました。その後、傷の具合は大丈夫でしたか?」
「ああ、先ほどは手当をしてくれてありがとう。ガーゼを当ててくれた後、すぐに止血したから大丈夫だ」
「そうでしたか。それは良かったです」
会話が終了した後も、中々ルイーズから目を離さないリオンに、周りは戸惑っているようだ。そこで、エリザベスは注意を引きつけるべく、咳払いをした。それに気づいたのか、リオンがルイーズから目をそらした。
「気を取り直して……ルーちゃん、次はこちらの方ね。キース・エバンス様、公爵家の御子息で、いつも私たちとこちらの方々との橋渡し役をしてくれている方よ。これからはキース様とお話をさせていただくことが多いと思うわ」
「キース・エバンスだ。よろしく頼む」
「ルイーズです。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
こちらは、一つに結わいた紺色の長髪と、水色の目が涼やかな美人さんだ。三人掛けソファーの奥に座っている、金髪碧眼の貴公子然とした美青年と、顔の作りが少し似ているようだ。
「最後に、こちらはカルディニア王国第一王子のアレックス殿下よ」
「初めまして、アレックス・カルディニアです。どうぞよろしく」
顔は知らなかったが、名前は知っていたのだろう。その名を聞いた瞬間、まさか修道院でこの国の第一王子と会うとは思いもしなかったルイーズは、少しばかり緊張した。
「ルイーズ・ブランです。どうぞよろしくお願いいたします」
ルイーズは、自分の挨拶に納得できなかったのだろう。マナーの授業で習った挨拶を思い返しているようだ。その時、イリスが皆に声を掛けた。
「さあさあ、自己紹介も済んだようだから、こちらに座ってお話したらどうかしら」
「そうですね。ルーちゃんも緊張したでしょう。ソファーに座ってゆっくり話しましょう」
イリスの提案にエリザベスも頷き、ルイーズをソファーに座らせた。
その時、それまで黙って様子を伺っていたレアが、兄であるリオンに話しかけた。
「兄上、さっきはすまなかった」
「ああ、大丈夫だ。怪我の事は気にするな。さっきは、俺もちゃんと話を聞けなくて悪かった。リリーのことは、今度会って話をしよう」
「わかった」
どうやらクレメント兄妹は仲直りをしたようだ。レアは安心したような表情で、ルイーズに向き直ると御礼を伝えた。
「ルーちゃん、兄の怪我を手当てしてくれてありがとう。感謝する」
「私は大したことはしていませんから。でも、お兄様大丈夫そうで良かったですね」
「ああ」
「レアにルーちゃん、そろそろ良いかしら」
「はい」
「すまん」
エリザベスの呼びかけに、ルイーズとレアはこれから大事な話があることを思い出し、皆の方へ向き直った。
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