【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~

青依香伽

文字の大きさ
上 下
38 / 84
第4章 修道院

4 修道院へ行く ②

しおりを挟む

「おはよう、リザ。早かったわね。レアも来ているの?」 

 エリザベスに答えながら、辺りを見回しレアを探すエマ。

「レアはまだよ。何かあったのかもしれないわ。これから人も増える時間だし、先に院長にご挨拶をして、中で待たせてもらいましょう。エリー、ルーちゃん行きましょう」

 建物内は、静けさの中にも柔らかな空気を纏っている。皆同様の事を思っているのだろう。心なしか表情が穏やかになっているようだ。
 
 エリザベスを先頭に、他の三人もその後ろをついていく。慣れた足取りで歩くエリザベスは、どうやら院長室に向かうようだ。ルイーズとエリーはというと、落ち着いた様子ながらも視線は上・横・斜めと忙しない。初めての場所であるから無理もないのだが。

 そうこうしている間にも、院長室の前に着いたようだ。エリザベスがノックをすると、「どうぞ、お入りください」と室内から女性の声が聞こえた。挨拶を返し、エリザベスが入室すると、それに他の皆も追随する。

「ご無沙汰しております、修道院長様。本日はお忙しい中お時間を頂きましてありがとうございます」
「久しぶりね。ご挨拶ありがとう。でも、様はいらないわ。院長でいいわよ」
「畏まりました。しかし、後輩の前ですのでご挨拶の時だけはそう呼ばせていただきます」
「そうだったわね、今日は後輩さんを紹介してくれるというお話だったわね。後ろにいる方たちね」
 二人の親しいやり取りを眺めていた二人は、院長からの視線に気付くと自己紹介を始めた。

「はじめまして、シャロン家のエリーと申します。お目にかかれて光栄です」
「はじめまして、ブラン家のルイーズと申します。お会いできて嬉しく存じます」

「二人とも、ご挨拶ありがとう。こちらこそ、お会いできて嬉しいわ。私は修道院長のイリスです。よろしくお願いしますね。さあさあ、皆こちらに座ってちょうだい。ほら、エマちゃんもこちらにいらっしゃい」

 穏やかな笑顔で迎えてくれた修道院長との初対面は和やかに進んでいった。しばらくの間、五人で世間話を楽しんでいたその時、ドアをノックしてレアが部屋に入ってきた。

「遅くなりました。申し訳ございません。ご無沙汰しております、修道院長」
「レアちゃん、お久しぶりね。少し元気がないようだけど、体調は大丈夫かしら?」

 ソファーから立ち上がり、入室したレアに近づき声を掛けるイリス。

「大丈夫です。ご心配おかけして申し訳ございません」
 イリスへ謝罪するレアに、エリザベスが話しかけた。
「レア、何かあったの?」

「ああ、ちょっと。ここに来る途中で兄と会ったんだが、少し言い合いになってしまってな……まあ、能筋には話しても無駄だった」
「…………」
「……そう」

 レアを見ながら、もの言いたげなエリザベスと呆れるエマ。何かあったのか心配そうにレアをみる三人を見つめるルイーズとエリー。

「私の事で話を中断させてしまい申し訳ありません」
 レアの謝罪に大丈夫よ、と頷き返すイリス。

 その時、ルイーズがレアに近づき、彼女の手をそっと掴んで持ち上げた。手に付着している赤い染みを見つけたようだ。自分のハンカチを急ぎポケットから取り出すと、赤い染みを押さえながら拭き取っている。

「レアさんの血ではないようですが……、少し傷がついています。痛みはありませんか?」

 ルイーズに手当をしてもらいながら、自分の手とルイーズの顔を交互に見るレア。

「ありがとう、大丈夫だ。ルーちゃん感謝する」
「良かったです。でも消毒はした方が良いですよ。修道院長様、医務室に行ってきても宜しいでしょうか」
「ありがとう。そうしてくれると助かるわ」

「では、行ってまいります」
「ルイーズ、私も行くわ」

 先ほど院長室に来るまでの間、エリザベスに院内を案内してもらった二人は、医務室も確認していたようだ。侍女科に移ってからの二人は軽い怪我をすることが度々あった。その時、怪我を軽くみてはいけないことをマノン先生から言い聞かされていたようだ。
 
 部屋を後にした二人は、静かに、それでも急ぎながら医務室に向かった。来た時に通った廊下では、まばらだが人が多く点在していたため、遠回りだが途中から右側の廊下を渡って医務室に向かった。無事に医務室に辿り着いた二人は、消毒液やガーゼ、タオルを貸してもらい急ぎ院長室に戻っていった。

「お祈りの時間は終わっているはずだから、これから何か作業をするのかしら。思ったよりも人が多いのね」
「そうね。こちらに来た時はこんなにも人がいるなんて思わなかったわ......ねえ、エリー。あそこに座り込んでる人がいるのだけど、大丈夫かしら……ちょっと行ってくるわ」

 二人のいる場所から、二十メートルほどのところに、ベンチに腰掛け背を丸くしながら座っている人が見える。ルイーズが近づくと、そこには口の端から血を流している男性がいた。

「大丈夫ですか。口の端から血が流れています。ちょっと失礼します」

 男性の口元にガーゼを当て、出血している部分を軽く押さえる。

「まだ痛いですか? この先にある医務室で、傷口を見てもらったほうが良いですよ」

 ルイーズに傷口を押さえられている男性は、目を丸くしながら驚いた様子でルイーズの顔を見ている。それはそうか、見知らぬ女性がやってきたと思ったら、突然口元を押さえられたのだ。驚きしかないだろう。しかし、それだけではないようだ。男性の顔がみるみる赤く染まっていく。もうそろそろ口元から手をどかしてあげた方が良いのでは……と思った矢先に、エリーがルイーズに話しかけた。

「ルイーズ、その方、早く医務室で傷口を見てもらった方が良いわ」

エリーの言葉に頷いたルイーズは、男性に医務室に付き合うか聞いているようだ。

「大丈夫、直ぐに医務室に行くから心配しないでくれ……親切に…ありがとう」

 男性の言葉に安堵したルイーズは、お辞儀をしてその場を去った。

 だから、その後ろ姿をずっと目で追う男性の視線には気づかずにいた。



    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

私の容姿は中の下だと、婚約者が話していたのを小耳に挟んでしまいました

山田ランチ
恋愛
想い合う二人のすれ違いラブストーリー。 ※以前掲載しておりましたものを、加筆の為再投稿致しました。お読み下さっていた方は重複しますので、ご注意下さいませ。 コレット・ロシニョール 侯爵家令嬢。ジャンの双子の姉。 ジャン・ロシニョール 侯爵家嫡男。コレットの双子の弟。 トリスタン・デュボワ 公爵家嫡男。コレットの婚約者。 クレマン・ルゥセーブル・ジハァーウ、王太子。 シモン・ノアイユ 辺境伯家嫡男。コレットの従兄。 ルネ ロシニョール家の侍女でコレット付き。 シルヴィー・ペレス 子爵令嬢。 〈あらすじ〉  コレットは愛しの婚約者が自分の容姿について話しているのを聞いてしまう。このまま大好きな婚約者のそばにいれば疎まれてしまうと思ったコレットは、親類の領地へ向かう事に。そこで新しい商売を始めたコレットは、知らない間に国の重要人物になってしまう。そしてトリスタンにも女性の影が見え隠れして……。  ジレジレ、すれ違いラブストーリー

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

【完結】ヒーローとヒロインの為に殺される脇役令嬢ですが、その運命変えさせて頂きます!

Rohdea
恋愛
──“私”がいなくなれば、あなたには幸せが待っている……でも、このまま大人しく殺されるのはごめんです!! 男爵令嬢のソフィアは、ある日、この世界がかつての自分が愛読していた小説の世界である事を思い出した。 そんな今の自分はなんと物語の序盤で殺されてしまう脇役令嬢! そして、そんな自分の“死”が物語の主人公であるヒーローとヒロインを結び付けるきっかけとなるらしい。 どうして私が見ず知らずのヒーローとヒロインの為に殺されなくてはならないの? ヒーローとヒロインには悪いけど……この運命、変えさせて頂きます! しかし、物語通りに話が進もうとしていて困ったソフィアは、 物語のヒーローにあるお願いをする為に会いにいく事にしたけれど…… 2022.4.7 予定より長くなったので短編から長編に変更しました!(スミマセン) 《追記》たくさんの感想コメントありがとうございます! とても嬉しくて、全部楽しく笑いながら読んでいます。 ですが、実は今週は仕事がとても忙しくて(休みが……)その為、現在全く返信が出来ず……本当にすみません。 よければ、もう少しこのフニフニ話にお付き合い下さい。

前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。

真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。 一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。 侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。 二度目の人生。 リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。 「次は、私がエスターを幸せにする」 自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。

【完結】空気にされた青の令嬢は、自由を志す

Na20
恋愛
ここはカラフリア王国。 乙女ゲーム"この花束を君に"、通称『ハナキミ』の世界。 どうやら私はこの世界にいわゆる異世界転生してしまったようだ。 これは家族に疎まれ居ないものとして扱われてきた私が自由を手に入れるお話。 ※恋愛要素薄目です

婚約者様は大変お素敵でございます

ましろ
恋愛
私シェリーが婚約したのは16の頃。相手はまだ13歳のベンジャミン様。当時の彼は、声変わりすらしていない天使の様に美しく可愛らしい少年だった。 あれから2年。天使様は素敵な男性へと成長した。彼が18歳になり学園を卒業したら結婚する。 それまで、侯爵家で花嫁修業としてお父上であるカーティス様から仕事を学びながら、嫁ぐ日を指折り数えて待っていた── 設定はゆるゆるご都合主義です。

処理中です...