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第3章 侍女科

8 合同授業(お茶会)②

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 お茶会は、予定通りに開始された。学院内での催しのため、時間厳守がお約束である。

 淑女科の生徒たちは、全員が制服を着用して、時間前から席に着いていたようだ。お茶会を楽しむというよりは、授業に対する意識が高いのだろう。

 侍女科の生徒たちは、マノン先生から淑女科の装いについては聞いていなかったようだ。
きっと色とりどりな光景の中で、給仕をすると思っていたのだろう。

 彼女たちは何か考えるような顔つきだったが、自分たちの着用している黒いメイド服と白いエプロン姿を確認すると、迷いがなくなったのか、速やかに動き始めた。

 ルイーズたちの四人も、担当テーブルに着き、紅茶を給仕する。今回担当するのは、クレアのようだ。
 クレアが紅茶を出し終えた後、エリーにはそのまま残ってもらい、ルイーズとクレア、ミアの三人は控室に戻っていった。

 ルイーズとミアが、茶葉とお菓子の確認をしていると、後ろからクレアが話しかけてきた。

「ねえ、私たちのテーブルなんだけど……、ティースタンドの下段を見て。サンドイッチが既にないわ。あの方、何だかすごい勢いで食べてるわよね」

「……あんなきれいな人が……。すごいわね。エッ、もしかしてこれって何かの罠? 引っ掛け? ……かしら」

「本当ね。すごい勢いで食べてるわ。普通にお腹が空いているのかしら?私、軽食を補充してくるわ」

 どうやらルイーズが、軽食の補助に向かうようだ。貴族令嬢があんなに食べるなんて、三人も想定外だったのだろう。三人は急いで軽食を準備する。

 スコーンとクロテッドクリーム、そしてサンドイッチ。それらをティーワゴンに乗せて運ぶようだ。ルイーズは、急ぎ足でテーブルに向かった。テーブルに着くと、上級生に丁寧に声を掛けて、ティースタンドのお皿にサンドイッチとスコーンを補充する。

「ありがとう。もう少し頂くよ」

 辺境伯令嬢のレアは、補充したばかりのサンドイッチを手に取りながら、ルイーズにお礼を伝えた。

「もしかして、君がルーちゃん?」

「はい。エマさんからは、そう呼ばれています。ルイーズと申します」

「そう。ルーちゃん、ありがとう。朝から剣の稽古をしていたから、お腹が空いてしまってな。助かったよ」

「剣……、ですか。あ、申し訳ございませ……。喜んでいただけて良かったです。どうぞごゆっくり召し上がってください」

 レアの言葉に躊躇ったのか、少したどたどしかったが、レアにも丁寧に接することができて良かったのではないだろうか。

 しかし、その様子を心配そうに見守るエリー。ルイーズが補充を終えて、控室の方に向かって行くと、エリーはレアの横にいるエマをじっと見つめた。

 エリーのもの言いたげな様子に気付くと、エマは声を出さずに『ごめん』と口を動かした。

 その後、クレアとエリーが配置を交換し給仕をして、ルイーズとミアが補充を繰り返した。
 他の侍女科の生徒たちも、大きな失敗をすることはなく、無事に終えられたようだ。こうして初めての合同授業(お茶会)は終了した。


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