【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~

青依香伽

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第2章 ルイーズの気持ち

8 丘の上の修道院 ①

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「院長先生は、私が学院に通っていた時は、教員だったの。
グレース先生とお呼びしていたのよ。歳は離れているけれど、お姉様のような存在だったわ。
美しいだけではなく、知的で優雅で、それでいて寛容で……。学院に入学して教えを受けたとき、こんなにも素晴らしい人がいるのかと、感動したことを覚えているわ。私たちの世代では、憧れていた人が多いのではないかしら」

「そうなのですね」

「ごめんなさいね。一人で話し過ぎたわ。とても懐かしくなってしまって」

「いえ、そういう話を聞きたいです。学院にもようやく慣れてきて、まだ分からない事ばかりなので」

「そうよね」

「——お母様、一つお聞きしてもいいですか?」

 ルイーズは、何となく人に聞くのが躊躇われることを、エイミーに尋ねることにした。

「何かしら? もう何十年も前の話だから、私のわかる範囲でよければ答えるわ」

「——上級生たちが、丘の上の修道院に身体を向けて、ひっそりと祈るところをよく見かけるのです。信仰心が篤い方たちなのでしょうか。上級生たちは、あの場所に出向かわれたことがあるのでしょうか。私は、まだ訪れてことがないので、伺ってみたいと思っていたのです」

 ルイーズにとって、あの修道院は神聖な場所というイメージしかなかった。小高い丘の上に建つ象牙色の修道院は、その麓にある学院から見上げれば、寛容で温かな雰囲気だ。

 エイミーには、ルイーズの言っていることがすぐに分かったようだ。

「——ルイーズは、このカルディニア王国で、50年程前に起きた問題を知っているわよね」

「はい」

「その当時、婚約を破棄された方や、家を勘当された方の多くが、あの修道院に駆け込んだの」

 エミリーから、その後の彼女たちの様子を少し聞いただけでも、ルイーズは悲しくなった。もちろん、不遇な立場になり駆け込む人がいることは知っている。

 しかしルイーズには、彼女たちがどんな気持ちだったかなんて計り知れない。自分と同年代の少女たちが、抱えたであろう苦しみや辛さを思ったら、祈らずにはいられないのだろう。どうか、安らかな日々を過ごせていますようにと。

 祈っていた上級生たちの中には、元々信仰心の篤い者もいるかもしれない。しかし、少女たちの話を聞いて、知っている者たちがいるのかもしれない。おそらく高位貴族たちは知っているのだろう。ルイーズが知らなかったのは仕方がない。それだけ避けられていた話題なのだから。

「……祈りを、捧げていた人たちの気持ちがよくわかります」

 エイミーは、部屋を退出するルイーズを見ながら呟いた。

「私の時と同じように、学年が上がるにつれて、知ることが増えてくるのでしょうね。ルイーズにも、その時はどうか受け止めてほしいわ。どうか皆が心穏やかに過ごせますように」


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