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第2章 ルイーズの気持ち
6 始動
しおりを挟むルイーズが自身の決心を両親に語った翌日。
ルイーズは、父親から侍女科への転科を認めてもらえたようだ。
話し合いの後、執務室で起こったであろうことを知らないルイーズは、少しばかり戸惑ったが二人に感謝した。もちろんトーマスにも御礼を伝えた。
今日はいつもより早い時間に学院へ到着した。
ルイーズは教室に入ると、授業の準備を整えてから事務室へと向かった。同じ階にあるため、始業時間までには戻ってこられるだろう。
多くの光が差し込む教室に比べると、事務室へ続く廊下は控えめな光を放っている。
ガラスシェードの照明と、窓から差し込む微かな光が、床のモザイク柄を照らしている。優し気なクリーム色の壁と、ダークブラウンの重厚なドアが相まって、凛とした空気を放っている。
室内からは教員の声が聞こえてきた。
ルイーズは昂ぶる気持ちを抑えつつ、ドアをノックした。
「お入りください」
ルイーズは、「失礼いたします」と言いながら室内に入った。
「おはようございます。早い時間から申し訳ありません。本日は、事務手続きに関する書類を頂きたく参りました」
丁度よく、淑女科の教員がいたようだ。
「何の書類かしら」
「淑女科から、侍女科に転科するための書類です」
教員は、戸惑いながらルイーズに尋ねた。
「ブランさん、あなたは確か、婚約者がいたわよね」
「はい。まだ、手続きの最中ですが、婚約は白紙になります」
「そうだったの……。それは残念だったわね」
「先生、お気遣いありがとうございます。でも、婚約のことでしたら、私は大丈夫です。
……もしかして、成績の関係で転科出来ないということもありますか」
「断定はできないけど、成績は大丈夫だと思うわ。あとは面接ね。それから、このことを御両親はご存じなのかしら」
「はい、知っています。転科することにも、許可をもらえました」
「それなら、面接だけど……侍女科の先生の予定を確認してからになるわね」
そんなやり取りを、離れた場所から見ていた人物がいた。
「ソフィア先生、少しよろしいかしら」
「院長先生、どうされましたか」
「その面接、今から三人で行いましょう」
「よろしいのですか?他の先生方は……」
「大丈夫よ。成績はクリアしているのよね? それにしばらくの間、他の先生たちの予定が空かないと思うわ」
「……。そうですね、分かりました。それから、ブランさんの成績については大丈夫です」
三人は、部屋の隅にある対面のソファーに腰をかけると話し始めた。
ルイーズは、二人からの質問に対し、答えられることには全て答えた。そして、婚約が白紙になってから今日までのことを正直に打ち明けた。
全て聞き終えた院長は、ルイーズと目を合わせると穏やかな口調で伝えた。
「そう、決意は固そうね。
それなら、私からは一つだけ……中々に難しいことだけど、今の気持ちを持ち続けて。その気持ちを忘れなければ、大丈夫よ」
「……はい」
ルイーズは、院長の温かな人柄に包まれて安堵した。
「それでは、侍女科への転科をお認めになるということでよろしいですね、院長先生」
「はい、許可します」
院長はルイーズに許可を伝えると、ソフィア先生を見て頷いた。
「かしこまりました。それではブランさん、そろそろ時間ですから、教室に戻るように」
「はい、ありがとうございました」
ルイーズは、二人にお辞儀をしてから事務室を後にした。
今日ここで、許可がでるとは思わなかったのだろう。
ルイーズは、新しい道を歩み始めることに、胸の高鳴りを抑えられずにいた。
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