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第2章 ルイーズの気持ち
3 エリーの助言
しおりを挟む「エリー、聞いてほしいことがあるの」
「どうしたの」
「先日のことだけど、エリーが淑女科から侍女科に転科する話をしてくれたでしょう?『将来の仕事につながる学びがしたい』と。話を聞いたとき、すごいと思ったわ。恥ずかしいけど、私…こんな状況になるまで、自分の将来について考えたこともなかったの。もう決まっていることだから。でも、婚約の話が無くなったことで、これからのことを考えてはいるのだけど、自分には何が出来るのか、何をしたいのかが分からないの」
「それは仕方がないわ。ルイーズの中では、将来の方向性が決まっていたのだから。
それが無くなって、戸惑うのも無理はないわ。それに何が出来るのかって話だけど……、初めは、今やっていることや出来る事、興味があること何でも良いと思うのよ。もちろん得意なことや好きなことでもね。例えば、時間がある時は何をしたい? 眠る前にふと考えることはなに?」
エリーに問われ、考えるルイーズ。
「家族やエリー、大切な人のことを考えることが多いわ。リアム、ミシェルともっと遊んであげたい。お菓子を作って食べさせてあげたい。毎日、母の部屋にお花を飾ってあげたい。父ともっと話をしたい。エリーと街にお買い物に行きたい。それから……昨晩はオスカーのことも考えたわ」
「そう…、最後はどうかと思うけど……。ルイーズは、人のお世話をするのが元々好きなのね。二人に接する姿を見て、母性が強いとは思っていたけれど。相手に何かをしてあげたいという気持ちは、相手の笑顔が見たい、幸せになってほしい、という思いからきているのよね、きっと……」
「そうね、幸せでいてほしいと思っているわ。そのために、自分は何が出来るのか——」
ルイーズは、エリーから言われたことで、心にあった何かが少しずつ繋がっていくような感覚を覚えていた。〈大切な人たちのために行動すること〉エリーのように〈自身のために前向きに行動すること〉自分には、前者だけだと思っていたルイーズは、自分の心を少しだけ理解できたようで嬉しくなった。
「誰かのために、なんて中々思えることではないのよ。それってすごいことだと思うわ。……でも、まずは自分のことを一番に考えてほしい」
「そうかしら……、でも、ありがとう」
徐々に弱まってしまったため、後半の言葉はルイーズには届かなかったようだ。
エリーは、いつも他者を優先するルイーズに、まずは自分の気持ちを大切にしてほしいと願っているようだ。
「私、御祖母様のハーブ園で、ハーブを育てたいの。そんなことを言っても、認めてもらえる訳がないから、両親の言いつけ通り、学院の淑女科に入学したの。父は婚約者を見つけることを諦めてはいないから、淑女科にこだわっていてね。だから、従姉妹に協力してもらって、彼女の侍女になる約束をしてから、侍女科に転科したいと父を説得したわ」
「そうだったの。エリーの御祖母様は、領地でハーブを育てているのよね。それなら、最終的には侍女ではなく、ハーブ園で働きたいということなのね」
「そうなの。侍女科では医療や薬草学を学べるわ。その他にも様々な経験ができる。だから本当に楽しみなの。ルイーズには偉そうなことを言ってしまったけど、実際には自信がなくて不安だったの。——ルイーズも、今やりたいことが見つからなくても、色々な経験をしていくうちに見つかるかもしれないわ」
「うん、ありがとう。大丈夫、心配しないで。何だか、今とても清々しい気分なの。屋敷にも戻ったら、私もお父様に話してみるわ」
ルイーズの晴れやかな笑顔を見て、エリーはほっとした表情を浮かべた。
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