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第2章 ルイーズの気持ち
2 ルイーズの思い
しおりを挟む婚約を白紙にすることが決まってから二日後の朝
ルイーズは馬車に乗って女学院に向かっていた。この時間は読書や考え事をしたり、景色を見てゆったりとした時間を過ごす。
自宅から女学院までの道程は、緑豊かな緑色から爽やかな空色の景色に変わっていく。ルイーズは今、そのゆったりと流れる色の変化を楽しんでいるようだ。
休日を挟んだことで、屋敷では穏やかなひとときを過ごせた。家族と過ごして心に余裕が出たルイーズは、馬車の中で昨日までの出来事を思い返していた。
(他の貴族家では許されないことかもしれないけど、折角与えられた貴重な時間。私に何ができるのか考えたい)
本来の貴族としての在り方を追いやるように、頭を横に振るルイーズ。
固定観念や先入観から解放されたいのだろうが、それらを手放すのは簡単なことではないだろう。
今までは《決められた道を歩むのが当たり前》だと思っていたルイーズにとって、自分の道を作ることに、戸惑いと迷いが生じるのは仕方のないことだ。
考えに耽る中、エリーと母親の言葉が何度も何度も頭を過ぎった。
♦
しばらくして、馬車の窓から外の景色を眺めると、乳白色の建物が視界に入ってきた。その場所に続いている広い並木道を進めば、ルイーズの通うカルディニア王国女学院だ。
少し進んだところで、馬車はそのまま学院の門を潜り、広いエリアに馬車を停める。
ルイーズは開けられたドアから降りると、御者のモーリスに「ありがとう」と御礼を伝えた。
「とんでもないことです。ルイーズお嬢様、本日は一旦お屋敷に戻ります。授業が終わるころに、乗降場でお待ちしております」
「わかったわ、お迎えよろしくね」
今日は母親が馬車を使うのだろう。モーリスは馬を休憩させてから屋敷に戻り、また馬を交代して用事を済ませてから、学院に迎えに来てくれる。
お辞儀をして見送るモーリスに別れを告げると、ルイーズは入口に向かって歩き出した。
(屋敷から通える距離だと思って選んだ通学だけど、皆のことを考えたら、入寮を検討したほうが良かったかもしれないわね)
そんなことを考えながら歩いて行くと、学校の入口に辿り着いた。
校内に入ると清廉な空気が漂っている。その空気を肌身に感じると、自然と気が引き締まるようだ。
廊下を歩き、一階奥にある自分の教室へ向かうと、クラスメイトに挨拶をして席につく。椅子に腰かけ、先日作成した〈Lノート〉を通学カバンから取り出すと、先ほどまで考えていたことを思いつくまま書き記していく。
* * * * *
馬車通学-自分以外の家族が使用するときモーリスが往復(お父様は乗馬も可能)
寮-家族や皆に中々会えない(帰宅は週に一回)
* * * * *
(自力で通学する手段でもあれば良いのだけど——)
ルイーズが何やら考えている間に、クラスメイト達が教室に入ってきたようだ。その中にはエリーもいて、ルイーズに声を掛けてきた。
「ルイーズ、おはよう。今日も早いわね」
「おはよう、エリー。この前はハーブとクッキーをありがとう。美味しくいただいたわ。
それに、母がとても喜んでいて、お礼を言っていたわ」
「それは良かったわ。おば様も、起き上がれる時間が増えたのかしら。またお邪魔したときにでも、体調が良ければご挨拶がしたいわ」
「ありがとう、母もきっと喜ぶわ」
二人の母親は、女学院の同窓で仲が良かったようだ。お互いを屋敷へ招き入れ、お茶をするような仲である。娘たちも同年齢ということで、何度も引き合わされるうちに友情が芽生え育まれた。そのため、お互いの母親のこともよく理解しているようだ。
廊下の方から教師の足音が聞こえてくると、エリーは「また、後でね」と囁いて、急いで席に着いた。
♦
午前の授業が終わり昼食の時間。ルイーズとエリーは、裏庭のベンチでお弁当を食べていた。食堂で食べる時もあれば、天気の良いときは裏庭で昼食を食べる。
今日は込み入った話があるためか、裏庭に来たようだ。
「エリー、この間は私のことで心配を掛けてごめんなさい。
あの後、屋敷に帰ったら、おじ様とオスカーが来ていたの。オスカーが、私のことを『女性として見ることが出来ないから、婚約解消をして欲しい』と言ってきたわ。私はおじ様に、白紙を提案してそれが受け入れられたのだけど……。白紙の話が出てからオスカーの様子がおかしくて……。どうしても、解消か破棄が良かったみたい」
黙ってルイーズの話を聞いていたエリーが、眉間に皺を寄せながら、疑問を口にした。
「解消か破棄が良いだなんて、意味が解らないわ。何を考えているのかしら。でも、無事に婚約白紙できて良かったわ。ルイーズにとっては、これで良かったのよね」
「ええ。お互いに恋愛感情はなかったし、婚約も白紙にすることに決まったからほっとしたわ」
「そう……、それなら良かった。安心したわ」
婚約について話し終えたルイーズは、今悩んでいることをエリーに相談するために、話を切り出した。
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