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本編

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「その理屈だと、もし優に運命の番が現れたら僕は優を解放してあげないといけないってことだよね。優がやったみたいにして、僕の方から別れを切り出さないといけないのかな?『幸せになってね』って、なんの躊躇いもなく僕から優を奪ったαとの婚約を祝福しなくちゃだめかな?優はそうしてほしいと思ってる?」

 ゆっくりとした動きで、でも的確に五紀のペニスが俺の前立腺を解すようにじわじわとしたピストンを繰り返す。焦らす目的というよりは俺のことを気遣っているような動きに感じて、腹の奥が熱くなる。今、五紀はどんな顔をしているのだろうと俺はまぶたの裏に五紀の顔を思い出しながら描く。

「っ、っ……ぅ♡ん、あ……っ」

「優はそれを望むのかもしれないけれど……僕には到底無理な話なんだ。どこか僕の知らないところで幸せになる優のことを、とても許せそうにない。何故だかわかる?」

 五紀が苦しそうに吐き出す言葉の意味を、その理由を俺は理解できなかった。仮に俺に運命の番が現れたとしても、きっと相手の方から願い下げだろう。こんな見劣りのするΩを受け入れてくれる人間なんて、それこそ五紀と……遠藤くらいなんだと俺はわかっている。俺を形成した過去の記憶が痛いくらいに俺にそう教えてくれているのだから。

 五紀はずっと俺に問いかけるような口調で話しているのに、全然俺の返事を期待していない。俺の後ろ髪を掴んで頭を押さえているその手の圧からは、決して喋るなと言われているように感じる。最初に五紀と会話することを拒否したのは俺だったが、いざこうして突っぱねられると無性に悲しく思ってしまう。俺は本当に自分勝手でどうしようもない人間だった。


「お互いのチョーカーの鍵を交換して身に付けるようにしたあの日から、“優がαと番う未来“は消えてなくなったんだよ。だってそんな運命は僕が捻じ曲げてしまったから。僕も優もね、一生αなんかと番になったりしない」

「っ……っあ♡ぁあ゛、うっ♡♡」

「運命の番なんていう相手が僕に現れて、優には僕が結婚したそうにでも見えたのかな?だったらそれは僕の失敗だったね……本当はこの週末で、優のことが大切だってちゃんと話をしようと思ってたんだ。僕は『大丈夫だから』なんて言って優を安心させようとしたけれど、きっとそんなんじゃ優は余計なことを考えちゃうかなって分かっていたから」

 気付けばいつの間にかパンッと肌と肌がぶつかり合う音が響くほどの激しさで俺は五紀に貫かれていた。ずるずると俺の中を出入りする五紀のペニスに孔の縁の肉がぴたりとくっ付いて捲れているのがわかるほど何度も何度も中を擦られて、気持ちの整理をする間もなく俺はペニスから精を吐き出して達してしまった。凄まじい快感に思わず背中を反らせてしまうと、より気持ちの良いところに五紀のペニスが当たって深い快感を味わうことになった。

「あ、あ゛……っ♡ぅ、うぁ゛~~♡♡」

「でも、もう良いんだ。話して分かり合うなんて、元々僕の性に合ってなんかいなかったんだってよく分かったから。どれだけ抗おうとしても結局、血は争えないね……たとえΩに生まれても僕は所詮、篠宮だった。人を物のようにしか扱えず、欲しいものは他者を踏み台にしてでも手に入れる、そんな父親と同じ血が流れているんだと実感したよ」

 五紀の家族の話は漠然としか聞いたことがない。本人からというよりは、周りの噂から耳に入った情報でしか俺は五紀の家族のことを知らなかった。子供の頃によく五紀の家へ遊びに行っていたが両親は必ずと言って良いほど不在だったし、どうして両親がいつも家にいないのか聞くことは五紀に辛い思いをさせるかもしれないと子供ながらに気を遣っていたのもある。五紀の両親が実の息子に対して薄情なのは感じていたし、五紀の孤独も知っていた。孤独を埋め合うようにして遊びに没頭したあの頃がふと脳裏に過ぎる。


 家柄関係なしに近所の大人から可愛がられるほど社交的で親切な五紀を知っている。

 面倒だと口にしながらも、学生の頃から会社の手伝いを真面目にして自分の立場を自分で築いた五紀を知っている。

 来なくて良いと何回言っても友人の少ない俺を気にして、片道1時間はかかる俺の大学まで暇さえあれば来てくれた五紀を知っている。

 優しい五紀を知っている。

 同じΩからも指を差されるような俺に分け隔てなく接してくれたのは五紀だけだった。五紀の全てを知っているわけじゃないが、それでも五紀が自分勝手な人間じゃないと知るには充分すぎるほどの時間を共に過ごしたんだ。
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