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18話「夜の帳に-2」
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わたくしの頭上ほどの高さにある美しい悪魔の横顔を見つめても、彼が何を考えているのかを読み取ることさえできない。わたくしが今まで出会った中で一番美しい容姿を持つ悪魔……美しさは時に恐怖心さえも人に抱かせるのだと身をもって感じた。嫌悪の滲んだグースの表情を思い出すだけでも体が震えそうになる。
悪魔の考えていることを読み取ろうだなんて、到底無理な話よね。そもそもの価値観さえ違うんだもの。……けれど、悪魔にとっても契約は大切な意味を持つのね。
「……鬱陶しい」
溜息のように言葉を吐いたグースは、右手を上げてその長い指で音を出した。
パチン――。
その音が空気に吸い込まれていくのと同時に、ざあざあと激しく降っていた雨の音が止む。わたくしの体を打っていた不快な感覚もなくなり、わたくしはふと視線を空へと向けた。
「……うそ」
月を隠すように覆いかぶさっていた黒い雲が溶けるようにサーっと消えていき、隠れていた眩い金色がわたくし達を照らした。灯りなんて必要ないほどの月の光に、わたくしは目を瞬かせてグースを見た。
「これは……?」
「見てわからないか?……人間は環境によって感情や体調を左右される脆弱な生き物だからな。お前の聞くに耐えない悩みとやらも、環境を変えれば少しはマシになるかと思ってな」
「それとも朝にしてやった方がよかったか?」まるで大したことのない雑談をするかのようにグースは言う。天候さえも自由に変えてしまえる程に悪魔の力は強大なのだと、わたくしは今更、ようやく理解ができた。固まっているわたくしを目だけで確認したグースは、小さく口元に笑みを浮かべる。
「今更、怖気付いたのか?」
小馬鹿にするようにそう言う悪魔に、わたくしは考えるよりも先に口を開いていた。
「っそ、そんなわけないわ!悪魔なんかに気後れする程度の器ではございませんもの!!」
「……いかにもアホらしい答えだな。それよりお前、そろそろ区切りをつけたらどうだ?俺が以前言った通り、お前の計画は失敗に終わっただろ」
悪魔の力に頼って、ノアをこの世から消す……?先ほどの悪魔の力から考えれば、ノアの存在ごとこの世から消してしまうことだって可能だと思った。わたくしが自分で考えてあれこれ計画するよりもずっと楽だとわかっている。
「この先も今回と同様に、お前がどれだけ力を尽くしても全てが無駄に終わる。なんならより酷い結果になるだろうな」
月の光に照らされた美しい悪魔……もう這い上がれないほどの苦しみの中にいる人間は、思わず手をとってしまうんでしょう。どれだけの人間の魂を彼は手に入れられたのかしら。甘い罠だとわかっていて、それでもきっと縋ってしまったんだわ。
控えめにポタ……と髪から落ちていく小さな滴が濡れた大理石に弾ける様子を見つめながら、わたくしはほとんど無意識に呟いていた。
「……怪異だわ」
口に出すと自分の中でも意見がまとまってくる。眉を潜めて怪訝な顔をしている悪魔へと、詰め寄るようにしてわたくしは言葉を続けた。
「そうよ、怪異よ!学園の怪異の噂!!まだ全部試していないわ」
“図書室には憎い相手を呪い殺せる本がある”なんていう怪異の噂を実行して、何かの手違いでこの悪魔を召喚してしまったことが事の始まり。けれど逆に考えれば、悪魔が召喚できたということは、あながち学園の怪異の噂も胡散臭いものばかりではないのかもしれない。
「本当に“憎い相手を呪い殺せる本“が存在するかもしれないし、他の怪異の噂だってノアの殺害に役立つかもしれないわ!」
悪魔の考えていることを読み取ろうだなんて、到底無理な話よね。そもそもの価値観さえ違うんだもの。……けれど、悪魔にとっても契約は大切な意味を持つのね。
「……鬱陶しい」
溜息のように言葉を吐いたグースは、右手を上げてその長い指で音を出した。
パチン――。
その音が空気に吸い込まれていくのと同時に、ざあざあと激しく降っていた雨の音が止む。わたくしの体を打っていた不快な感覚もなくなり、わたくしはふと視線を空へと向けた。
「……うそ」
月を隠すように覆いかぶさっていた黒い雲が溶けるようにサーっと消えていき、隠れていた眩い金色がわたくし達を照らした。灯りなんて必要ないほどの月の光に、わたくしは目を瞬かせてグースを見た。
「これは……?」
「見てわからないか?……人間は環境によって感情や体調を左右される脆弱な生き物だからな。お前の聞くに耐えない悩みとやらも、環境を変えれば少しはマシになるかと思ってな」
「それとも朝にしてやった方がよかったか?」まるで大したことのない雑談をするかのようにグースは言う。天候さえも自由に変えてしまえる程に悪魔の力は強大なのだと、わたくしは今更、ようやく理解ができた。固まっているわたくしを目だけで確認したグースは、小さく口元に笑みを浮かべる。
「今更、怖気付いたのか?」
小馬鹿にするようにそう言う悪魔に、わたくしは考えるよりも先に口を開いていた。
「っそ、そんなわけないわ!悪魔なんかに気後れする程度の器ではございませんもの!!」
「……いかにもアホらしい答えだな。それよりお前、そろそろ区切りをつけたらどうだ?俺が以前言った通り、お前の計画は失敗に終わっただろ」
悪魔の力に頼って、ノアをこの世から消す……?先ほどの悪魔の力から考えれば、ノアの存在ごとこの世から消してしまうことだって可能だと思った。わたくしが自分で考えてあれこれ計画するよりもずっと楽だとわかっている。
「この先も今回と同様に、お前がどれだけ力を尽くしても全てが無駄に終わる。なんならより酷い結果になるだろうな」
月の光に照らされた美しい悪魔……もう這い上がれないほどの苦しみの中にいる人間は、思わず手をとってしまうんでしょう。どれだけの人間の魂を彼は手に入れられたのかしら。甘い罠だとわかっていて、それでもきっと縋ってしまったんだわ。
控えめにポタ……と髪から落ちていく小さな滴が濡れた大理石に弾ける様子を見つめながら、わたくしはほとんど無意識に呟いていた。
「……怪異だわ」
口に出すと自分の中でも意見がまとまってくる。眉を潜めて怪訝な顔をしている悪魔へと、詰め寄るようにしてわたくしは言葉を続けた。
「そうよ、怪異よ!学園の怪異の噂!!まだ全部試していないわ」
“図書室には憎い相手を呪い殺せる本がある”なんていう怪異の噂を実行して、何かの手違いでこの悪魔を召喚してしまったことが事の始まり。けれど逆に考えれば、悪魔が召喚できたということは、あながち学園の怪異の噂も胡散臭いものばかりではないのかもしれない。
「本当に“憎い相手を呪い殺せる本“が存在するかもしれないし、他の怪異の噂だってノアの殺害に役立つかもしれないわ!」
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