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15話「屈辱の舞踏会-8」
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舞踏会の入場の順番は、身分によって大まかに分けられている。身分が低い者が先に会場に入場し、身分の高い者はそんな彼らの後に入場することになっている。
そして、上級貴族であるわたくしと第二皇子であるスパーク様は、最後から一つ前の入場と決まっていた。
学園には舞踏会の会場として専用に用意されている広間がある。その広間に通じる広い廊下、大きな扉の前で警備を行っている騎士が一礼をした。
「レイチェル様とスパーク皇子殿下ですね。……どうぞ、ご入場ください」
参加者の名前が記名されているであろうリストを確認した騎士が、大きな扉を開く。会場のシャンデリアの眩い光がわたくしの視界を埋め尽くす。眩しさに一度目を閉じて、それからゆっくりと目蓋を開いた。
堂々と胸を張り、一歩踏み出そうとしたところで隣にいたスパーク様に腰を掴まれ引き寄せられる。
「っ、?あの……」
「大丈夫、僕に全部任せればいいさ」
いつものように軟派な態度のスパーク様の横顔に、わたくしは仕方がないとされるがままに歩き出す。
会場の中のたくさんの目がわたくしを刺すように見てくるけれど、こんなのは慣れているから問題ない。ヒソヒソと交わされる噂話も、耳に入れるまでもない戯言ばかりよ。引き寄せられた腰をなるべく気にしないようにして、わたくしは自分の足でしっかりと歩く。
「お飲み物をどうぞ」
会場の中央に来たところで燕尾服を着た使用人が、ワイングラスと飲み物が入っている大きなガラスの瓶をワゴンに乗せてやってくる。慣れた手つきでワイングラスの中に注がれる赤茶色の液体を見ながら、わたくしは一時の間ぼうっとしてしまった。
わたくしの分のワイングラスを手に持つスパーク様に名前を呼ばれたことで我に返り、「ありがとうございます」と彼の手からグラスを受け取る。ふわりと果実の香りが鼻腔をくすぐった。
……フルーツティーかしら?苺の香りがするわね。
そうぼんやり思った時、コツン……と控えめにグラスがぶつかる音がした。ふと手元を見ればスパーク様がわたくしのグラスに彼のグラスを合わせているのが確認できた。これは――乾杯?
「スパーク様、まだウェルター様が来ていないのに乾杯なんて――」
「いいの。これは僕ときみだけの乾杯だから」
無礼ですわ……そう続けようとした言葉に割り込むようにそう言って、スパーク様は機嫌が良さそうにわたくしへ微笑んだ。
舞踏会での乾杯は参加する中で一番身分の高い方を待ってからというのが決まり事なのにと、わたくしは彼の軽々しい行動に溜息を吐きそうになるけれど、それも見られている手前グッと堪えた。スパーク様の手は相変わらずわたくしの腰に添えられていて、彼の横顔を見れば妙に機嫌が良さそうだった。本当に、人をからかって遊ぶのが好きな人ね……。
――ワッ、と。
一瞬歓声のように周りの貴族たちが声を上げ、そして一瞬で静まり返った。彼らの視線の先を確認するために振り返れば、たった今入場した……ウェルター様とノアの姿が目に入ってきた――。
そして、上級貴族であるわたくしと第二皇子であるスパーク様は、最後から一つ前の入場と決まっていた。
学園には舞踏会の会場として専用に用意されている広間がある。その広間に通じる広い廊下、大きな扉の前で警備を行っている騎士が一礼をした。
「レイチェル様とスパーク皇子殿下ですね。……どうぞ、ご入場ください」
参加者の名前が記名されているであろうリストを確認した騎士が、大きな扉を開く。会場のシャンデリアの眩い光がわたくしの視界を埋め尽くす。眩しさに一度目を閉じて、それからゆっくりと目蓋を開いた。
堂々と胸を張り、一歩踏み出そうとしたところで隣にいたスパーク様に腰を掴まれ引き寄せられる。
「っ、?あの……」
「大丈夫、僕に全部任せればいいさ」
いつものように軟派な態度のスパーク様の横顔に、わたくしは仕方がないとされるがままに歩き出す。
会場の中のたくさんの目がわたくしを刺すように見てくるけれど、こんなのは慣れているから問題ない。ヒソヒソと交わされる噂話も、耳に入れるまでもない戯言ばかりよ。引き寄せられた腰をなるべく気にしないようにして、わたくしは自分の足でしっかりと歩く。
「お飲み物をどうぞ」
会場の中央に来たところで燕尾服を着た使用人が、ワイングラスと飲み物が入っている大きなガラスの瓶をワゴンに乗せてやってくる。慣れた手つきでワイングラスの中に注がれる赤茶色の液体を見ながら、わたくしは一時の間ぼうっとしてしまった。
わたくしの分のワイングラスを手に持つスパーク様に名前を呼ばれたことで我に返り、「ありがとうございます」と彼の手からグラスを受け取る。ふわりと果実の香りが鼻腔をくすぐった。
……フルーツティーかしら?苺の香りがするわね。
そうぼんやり思った時、コツン……と控えめにグラスがぶつかる音がした。ふと手元を見ればスパーク様がわたくしのグラスに彼のグラスを合わせているのが確認できた。これは――乾杯?
「スパーク様、まだウェルター様が来ていないのに乾杯なんて――」
「いいの。これは僕ときみだけの乾杯だから」
無礼ですわ……そう続けようとした言葉に割り込むようにそう言って、スパーク様は機嫌が良さそうにわたくしへ微笑んだ。
舞踏会での乾杯は参加する中で一番身分の高い方を待ってからというのが決まり事なのにと、わたくしは彼の軽々しい行動に溜息を吐きそうになるけれど、それも見られている手前グッと堪えた。スパーク様の手は相変わらずわたくしの腰に添えられていて、彼の横顔を見れば妙に機嫌が良さそうだった。本当に、人をからかって遊ぶのが好きな人ね……。
――ワッ、と。
一瞬歓声のように周りの貴族たちが声を上げ、そして一瞬で静まり返った。彼らの視線の先を確認するために振り返れば、たった今入場した……ウェルター様とノアの姿が目に入ってきた――。
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