【R-18▶︎BL】レプリカントの恋心

きやま

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王子の代替レプリカント

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 たどり着いた自室の扉を静かに開いて中へ入れば、一人部屋にしては広すぎるほどの空間が広がっていた。本棚には童話や歴史書など数多くの本が並び、使い古された少し小さめな木製の机には細かな彫刻が施されている。王族の紋章が彫られた小さな剣や盾が壁に立てかけられている横、大きなベッドには先客がいた。

 耳を傾ければ、か弱いが確かな呼吸音が聞こえてくる。王子はいつものようにベッドへ近づき、寝ている彼の胸へそっと耳をあてた。トクントクンと確かな鼓動が聞こえることを確認すると、ほっと安堵の溜息を吐く。

「よかった、今日も生きてる」

 目を閉じた彼はぴくりとも動かないが、心臓の鼓動が彼が生きていることを証明している。王子は彼の眠っているベッドへ腰をかけ、いつものように寝ている彼の顔を眺めた。月夜に照らされた美しい金髪。閉じた睫毛は長く、瞳が見えなくてもその顔立ちが華やかで繊細だとわかる。薄く色づいた形の良い唇が魅力的な、儚くも美しい男性。

――彼は、彼を見つめている王子と同じ顔をしていた。


「今日はね、ウェルデ嬢に褒められたよ。君が国王になるのが楽しみだって。君が婚約破棄したことにもう未練はないみたい。君のことを恨んでないから大丈夫だよ」

 王子は優しい声で寝ている彼に話しかける。反応は返ってこないが、構わず言葉を続けた。

「アーノルドもね、君のことを愛してるみたい。毎晩体を求められるのって、愛だよね?君も、アーノルドのことが好きだよね?だから、最近思ったんだ」

 王子は頬を赤く染めながら花が咲いたように笑って言った。

「アーノルドに告白しようかなって。そ、そうしたら君もアーノルドも幸せだよね?きっと嬉しいよね?君は目が覚めたらアーノルドと晴れて恋人同士だし、アーノルドは君のことがずっと好きみたいだから……全部、うまくいくよね?」

 少し不安の乗った声色には、同時に期待も滲んでいた。ぬるりとアナルから漏れて臀部を濡らす精液の感覚に、王子はハッとしてベッドから立ち上がる。


「ベッド、汚すところだった……危ない。じゃあ、ちょっと湯浴みしてくるね。……明日も君の代わり、ちゃんと頑張るから」

 “だから早く目を覚まして“と誰にも聞こえないほど小さな声で呟き、王子改めレプリカントは浴室へと向かった。
 王子はベッドの上で変わらず目蓋を閉じたまま、何の反応もない。




 レプリカントとは、人間によって意図的に造られた生き物のことを示す。レプリカントに心はない。なぜならレプリカントは人間を模倣して造られただけの、ただの器なのだから。
 レプリカントの体は、そのレプリカントを造った錬金術師の精気で動いている。そのため、彼らに食事や睡眠は必要ない。彼らは生みの親である錬金術師の命が尽きない限り、昼夜を問わず活動することができるのだ。いっときは戦力として重宝されたレプリカントだが、現在は禁忌とされている。その存在は災いをもたらすとされ、国王は全ての錬金術師にレプリカントを造ることを禁じた。

 “だからお前は本来、存在してはいけない”

 王子の身代わりとして造られたレプリカントは、生まれた時から何度もそう言い聞かせられている。『目を覚さない王子の身代わり』として造られたレプリカントは、禁忌の中の唯一の例外だった。王子が原因不明で長らく眠ったままになっていることを隠すための、国王の嘘で生まれたレプリカント。彼はどこまでも教えられた通りに動き、王子らしく振る舞った。


「お前のトランとしての振る舞い、悪くないようだな。引き続きミスなく進めるように」
「はい」
「アーノルド、精気のリンクに問題はないのだな?レプリカントの体に異常は?」

 天井近くの壁の細長い窓から日差しだけが差し込んでいる何も無い室内にて、白い布を身に纏った男たちに囲まれるようにしてレプリカントは椅子に座っていた。レプリカントの目の前にいるアーノルドは、国王の言葉に「問題ありません」と淡々とした様子で答えた。

「レプリカントの様子に変化はないです。体の異常もないかと」
「そうか。アーノルドの仕事に不安はないが、レプリカントだと国民には絶対にバレてはいけないから気になってな」

 ほっほっほ、とわざとらしい笑い声をあげた国王は、アーノルドの肩を数回ほど手で叩いた。

「それじゃあワシらは行くから、レプリカントの管理を引き続き頼むぞ。アーノルド」

 国王はレプリカントに背を向け、男たちを引き連れて優雅な足取りで去っていった。足音が聞こえなくなった頃、アーノルドは乱暴に頭を掻きながら大きく溜息を吐く。


「あのクソジジイ、いちいちうるせえんだよ……トランの父親じゃなけりゃとっくに殺してるところだ」

 何もない室内に二人きりで取り残され、レプリカントは内心そわそわとしていた。アーノルドと日中に二人きりになれる機会は滅多にない。夜は声を発することさえ禁じられているため、告白をすることはできない。レプリカントは意を決し、控えめにアーノルドに声をかけた。

「あ……アーノルド。その、……言いたいことがあるんだけれど」
「……ああ?お前の体におかしい部分はないだろうが。話すことなんざ……」

「好きですっ」

 レプリカントの告白は、か細く震えた声だった。あるはずの無い心臓が脈打っているような、妙な高揚感と緊張感がレプリカントの体を震わせている。どうしてかアーノルドの顔を見ることができず、レプリカントは自分の爪先を眺めた。そんな告白の言葉を聞いたアーノルドは、目を見開いてレプリカントをただ見つめている。

「いつからかわからないけれど、アーノルドのことを見ているだけでドキドキするようになって……、それで……っ。アーノルドも、僕……トランのこと、好きだよね?だから、ちゃんと付き合いたくて……」

 言葉は尻すぼみになったが、確かにアーノルドに自分の想いを伝えられたことにレプリカントは安堵していた。これでようやく恋人として、堂々とアーノルドと会うことができるのではないかと。夜の営みも、ひょっとしたらもっと甘い時間になるかもしれないと思いを巡らせた。……しかし、そんな期待はアーノルドの言葉であっけなく砕かれる。


「はあ?お前俺のこと舐めてんのか?お前何様だよ?なあ、誰のおかげでお前は今こうして生かされてるかわかってんのか?」

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