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第36話『はじめての抵抗心』

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「アレぇ回収してこい」

 奴隷商団の団長が、エリィを指差してそう言った。

「あいよォ」

 リョウがゆっくりと歩き、エリィへと近付いていく。
 彼女が――”奪われる”。

(いや、なにを考えてるんだボクは)

 そうだ、むしろエリィに酷い目に遭わさればかりだった。
 彼女さえいなければボクはこんな状況に陥っていない。

 結局、食事も水ももらえてないし、出会わなければよかった。
 彼女がどうなろうと、知ったこっちゃあないだろう。

(本当にそれでいいのか?)

 また奪われていいのか?
 またボクは奪われる側なのか?

(――イヤだ! ボクはっ、エリィのことを……!)

 ボクは気づくと失言・・していた。
 声を挟んでしまっていた。

「あ、の!」

 瞬間、空気が凍ったのがわかった。
 団長たちの顔から笑みが消えた。

 なに、やってんだボクは?
 そう頭の冷静な部分がささやくが、もう遅い。

「なんだァ、テメェ文句あんのかァ?」

 リョウの鋭い視線がボクを射抜く。
 ボクは恐怖で縮こまった。

 なんで引き止めてしまったのか。
 早くも後悔がやってくる。

 けど、仕方ないだろ!? 口が勝手に動いたんだ!
 ボクの意思じゃない!

 理由なんて自分でもわからないのだ。
 独占欲か、所有欲か。

 はたまた、ひな鳥が最初に見たものを親と思うのと同じ。
 この世界で最初に出会ったのが彼女だったからか……。

 頭の中で、ごちゃごちゃした感情が入り交じっていた。
 けれど、唯一……。

(――奪われたくない)

 そう思ったことだけは事実だった。
 リョウが長いため息を吐いた。

「まァた、だんまりかよォ。テメェみてえなクズ野郎に、オレがありがたァい教示を述べてやろォかァ?」

 リョウはいっこうに答えようとしないボクへしびれを切らした。
 魔銃の銃口をこちらへと向けた。


「――クズは死ね」


 そのとき「団長!」と横合いから声が飛んできた。
 引き金に振れていたリョウの指が止まる。

「こ、これを見てください! 鑑定結果が上がった、のですが」

「なんじゃぁい、どうしたぁ?」

「いえ、それが……」

 団長に駆け寄った奴隷商人の手には、インスタントカメラのような見た目をした魔導具があった。
 彼はそこから排出された金属板を団長へと手渡している。

「こいつぁ!」

「いったいどうしやしたァ、団長ォ?」

 漏らした団長の声に、リョウが反応する。
 いったいなにごと!?

「そいつを殺すんはちぃとばかし、早いかもしれんぞぉリョウ。もしかするとそのあんちゃん、ずいぶんとおもしろかぁ男かもしれぬ」

「そうですかァ? オレァただのクズに見えますけどねェ」

 理由はわからないが、もしかすると助かるかもしれない!?
 それにふたりの発言は、ある意味で両方とも正解だ。

 団長の言うとおり、ボクはこの世界において普通ではない。
 そもそもがこの世界の住人ではないし、飛び抜けた職業レベルを持っている。

 と同時に、リョウの言葉はボクの本質を突いている。
 さすがは奴隷商人だけあって、人を見る目はあるらしい。

 さっき『鑑定結果』と言っていたな?
 まさかさっきの魔導具は、他人の職業レベルを読み取る装置だったのか?

 会話の裏で、ボクみたいな弱そうな男にまで徹底している。
 隙も容赦もない。

「あんちゃんよぉ、さっきから質問ばっかで申し訳ないんやけどのぉ、もうちぃとばかし付き合ぅてくれんかぁ? イエス・オア・ノーの簡単な問題じゃけぇ。いやなぁに、いくつもとは言わん。たったひとつだけ答えてくれりゃぁ、それでいぃ」

「……ほん、と、うに?」

「もちろんだとも! 答えてくれりゃぁ、わしらはあんちゃんを生きて返そう! もちろん、リョウたちにも手ぇは出させんと約束しよう」

 ボクはすぐさまその言葉に飛びついた。
 生き残れるなら、なんだってしてやる!

「じゃあ聞くけぇのぉ。あんちゃん。そこで伸びとぉテオオザルは、あんちゃんが奴隷化テイムした魔物かぇ?」

 え? そんな簡単な質問でいいのか!?
 ボクはてっきり『職業レベルが高い理由』なんかを聞かれると思っていたのだが。

 つまり、あの魔道具で読み取られたのはボクの職業レベルではない?
 テオのステータスを確認しただけ、ということか?

 そういえばNPCたちにステータスウィンドウが見えているのか、ボクは知らない。
 もし、わざわざ調べないとそれすらわからないのだとすれば……。

(――これは、使える)

 ボクは『こんなことで命が買えるなら』とコクコク頷いた。
 団長は「ふむ」とあごに手を当てて考える。

「のぅ、リョウ? これをどう捉えるかのぉ?」

「つまり、こいつァオレたちの同業者。奴隷商ってェことですかァ」

 リョウはその表情を引き締めていた。
 アーサルトにマジックを向けられてすら、出さなかった緊張の色がそこにはあった。

「そいつァ――マズイですね」

「『鑑定器』でもそう出とるのぅ。ほれ、見てみぃ」

 団長がリョウへと金属板を手渡す。

「Lv.12、職業『テイマー』。本当にそいつがそのテオオザルを奴隷化したのか、はたまた奴隷化したものを譲られただけかはわからねェですが、奴隷商人であることは間違いねェですね」

 いやいや、なんでそうなる!?
 俺はただのテイマーで、同業者ってわけじゃあ……。

(……あっ)

 そうか、この世界においてソレ・・は同じ意味なんだった!?
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テイマー職は奴隷商!?
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