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第28話『宙を舞う腕』
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これは……スキル<詠唱>か?
SPと時間を消費することで次に放つマジックの威力を底上げできる。
あるいは彼は最初から、たった一撃ですべて決めるつもりだったのかもしれない。
奴隷商人たちは油断から、まんまと時間稼がせてしまった形だ。
「くははッ! 悪くねェ。見せてもらおうじゃねェか」
リョウは楽しそうに笑う。
だが、周囲の奴隷商人たちにはたまったもんじゃなかったらしい。
実際、<詠唱>が使われる場合なんてのはかなり限られているのだ。
ゲーム時代の知識だが、基本的には普通に魔法を放つだけで事足りる。
つまり、その”例外”が対象となるマジックなのだが……。
大きく分けて2種類が考えられる。
大規模召喚マジックと、大規模殲滅マジック。
そして今の状況で使われるなら、間違いなく後者。
「ちょ、リョウさん!? あんた、こっちにもとばっちりくるじゃないすか!?」
「勘弁してくださいッスよ!?」
「奴隷にゃ興奮しねぇ(キリッ)、とか言って助けられる可能性なんか残すから相手がやる気に……」
あちこちから泣き言が聞こえてくる。
もしかして、さっきまで奴隷商人たちが余裕そうだったのは他人ごとだったからか?
「やっぱ、わざわざ反撃される危険を冒して、犯すとか絶対おかしいよ!」
「まったく、俺には理解できねえな!」
「ホンマやで! ワイも1回真似しよ思たけどな、あんな無理やで!? 相手に殺される可能性ある思たら、勃つもんも勃たなくなるっちゅーねん! ジブンの精神おかしいで!?」
「リョウさん好きよぉん! ア・タ・シを抱いててぇんっ!」
「黙ってろミスター・ビッグマンティス!」
「いやん! ミス・オオカマキリって呼んでぇんっ!」
途中から飛んでくる言葉に、変なものが混じりはじめていた。
と、ボクは気づく。
泣き言を言っているのは新人や、一部の人間だけだった。
ほかの奴隷商人たちは、ただそれに乗っかってるだけだった。
「これやばいやつッスよね? あぁぁっ、どっ、どうすればいいんッスか!?」
そうやって慌てる新人を、周囲の奴隷商人が見てクスクスと笑っている。
しかし、ボク自身はまったくもって新人に同意だった。
もっと焦ってなんとかしようと動いて、対処しろよ!
なにせ、止めてくれないとボクたちだって巻き込まれ兼ねないのだ。
エリィの父はボクたちの存在にに気づいていない。
つまり、範囲殲滅マジックでまとめて吹き飛ばされる可能性が非常に高い。
(ひぃいいいっ! い、イヤだ! 死にたくないっ!)
ボクは必死に奴隷商人を心の中で応援する。
まぁ、テレパスみたいな超能力があるわけでもなし、そんな声援が届くことはないが。
いや待て、マジック<テレパス>ならあったかも?
って、間に合わない!
「待たせたなクソ人間どもがぁっ! おまえら全員、ブチ殺してやるぅうううっ!」
詠唱の完了したエリィの父が腕を上げ、リョウへと向ける。
彼の手のひらから膨大な魔力が……強烈な閃光が発せられた。
閃光は巨大な光の剣を形作っていた。
「おいおい、いいのかよォ? 同族まで一緒に殺すつもりかァ? それとも、奴隷に堕ちたエルフはもうエルフじゃねェってかァ?」
「はッ、お前らクズと一緒にするなよ」
エリィの父は先ほどの仕返しか鼻で笑った。
それから仲間たちへやさしく呟く。
「僕は絶対に仲間を見捨てたりなんかしない。安心してみんな。この魔法は、僕の敵のみを殺す魔法だ」
そしてエリィの父が、マジック発動のキーワードを口にする。
空気が震えた。
「くらえ! 跡形も残らず消え去れ、クソ人間共がぁああああああっ! マジック<ジ・エクスカリ――」
――パンッ。
言い切るよりも先に、乾いた音が響いた。
リョウの手にあった魔銃から、魔力の残光が立ち上っていた。
くるくるとなにかが宙を舞っていた。
一拍遅れて、それが『ボトリ』と鈍い音を鳴らして地面へ落下した。
それは――エリィの父の、腕だった。
「……あ?」
わけがわからない。
そんな呆然とした声をエリィの父は漏らした。
地面に転がっていた腕に握られていた、光の剣。
それがガラスの割れるような音を鳴らし、霧散して消えた。
「ぁああああああぐぅううううっ!?」
だが、エリィの父は強かった。
こぼれかけた悲鳴を噛み殺した。
すぐさま、無事なほうの片手で傷口を押さえていた。
すこしでも血の流出を防いでいる。
もとから、ここに表れた時点で重症だった。
これ以上血を流せば、いつ『状態:気絶』になってもおかしくないだろう。
そして、それはすべての終わりを意味している。
怒りと呆然が半分ずつの表情で彼は問うていた。
「なん、だ……なんだ”ソレ”はぁあああ!?」
エリィの父がなにを言いたいのか、ボクにははっきりわかった。
だって、ボクも同じ気持ちなのだから。
――なぜ魔銃からそんな威力の弾丸が出るのか?
「ソレ、ってェのはどれのことだァ? オレにはなにを聞かれてるのかさっぱりだなァ?」
リョウはすっとぼけた。
そのまま続けて言う。
「あァ、そうだった。お前はオレたちに抵抗した。だからよォ、罰を与えねぇといけねェなァ?」
「なにを、するつもりだ?」
エリィの父が無意識にか、怯んだように一歩下がっていた。
そりゃ、そんな反応になって当然だ。
レベル80を超えているのに、たった1発の弾丸で片腕を吹き飛ばされたのだ。
どう考えてもただの魔銃ではなかった。
SPと時間を消費することで次に放つマジックの威力を底上げできる。
あるいは彼は最初から、たった一撃ですべて決めるつもりだったのかもしれない。
奴隷商人たちは油断から、まんまと時間稼がせてしまった形だ。
「くははッ! 悪くねェ。見せてもらおうじゃねェか」
リョウは楽しそうに笑う。
だが、周囲の奴隷商人たちにはたまったもんじゃなかったらしい。
実際、<詠唱>が使われる場合なんてのはかなり限られているのだ。
ゲーム時代の知識だが、基本的には普通に魔法を放つだけで事足りる。
つまり、その”例外”が対象となるマジックなのだが……。
大きく分けて2種類が考えられる。
大規模召喚マジックと、大規模殲滅マジック。
そして今の状況で使われるなら、間違いなく後者。
「ちょ、リョウさん!? あんた、こっちにもとばっちりくるじゃないすか!?」
「勘弁してくださいッスよ!?」
「奴隷にゃ興奮しねぇ(キリッ)、とか言って助けられる可能性なんか残すから相手がやる気に……」
あちこちから泣き言が聞こえてくる。
もしかして、さっきまで奴隷商人たちが余裕そうだったのは他人ごとだったからか?
「やっぱ、わざわざ反撃される危険を冒して、犯すとか絶対おかしいよ!」
「まったく、俺には理解できねえな!」
「ホンマやで! ワイも1回真似しよ思たけどな、あんな無理やで!? 相手に殺される可能性ある思たら、勃つもんも勃たなくなるっちゅーねん! ジブンの精神おかしいで!?」
「リョウさん好きよぉん! ア・タ・シを抱いててぇんっ!」
「黙ってろミスター・ビッグマンティス!」
「いやん! ミス・オオカマキリって呼んでぇんっ!」
途中から飛んでくる言葉に、変なものが混じりはじめていた。
と、ボクは気づく。
泣き言を言っているのは新人や、一部の人間だけだった。
ほかの奴隷商人たちは、ただそれに乗っかってるだけだった。
「これやばいやつッスよね? あぁぁっ、どっ、どうすればいいんッスか!?」
そうやって慌てる新人を、周囲の奴隷商人が見てクスクスと笑っている。
しかし、ボク自身はまったくもって新人に同意だった。
もっと焦ってなんとかしようと動いて、対処しろよ!
なにせ、止めてくれないとボクたちだって巻き込まれ兼ねないのだ。
エリィの父はボクたちの存在にに気づいていない。
つまり、範囲殲滅マジックでまとめて吹き飛ばされる可能性が非常に高い。
(ひぃいいいっ! い、イヤだ! 死にたくないっ!)
ボクは必死に奴隷商人を心の中で応援する。
まぁ、テレパスみたいな超能力があるわけでもなし、そんな声援が届くことはないが。
いや待て、マジック<テレパス>ならあったかも?
って、間に合わない!
「待たせたなクソ人間どもがぁっ! おまえら全員、ブチ殺してやるぅうううっ!」
詠唱の完了したエリィの父が腕を上げ、リョウへと向ける。
彼の手のひらから膨大な魔力が……強烈な閃光が発せられた。
閃光は巨大な光の剣を形作っていた。
「おいおい、いいのかよォ? 同族まで一緒に殺すつもりかァ? それとも、奴隷に堕ちたエルフはもうエルフじゃねェってかァ?」
「はッ、お前らクズと一緒にするなよ」
エリィの父は先ほどの仕返しか鼻で笑った。
それから仲間たちへやさしく呟く。
「僕は絶対に仲間を見捨てたりなんかしない。安心してみんな。この魔法は、僕の敵のみを殺す魔法だ」
そしてエリィの父が、マジック発動のキーワードを口にする。
空気が震えた。
「くらえ! 跡形も残らず消え去れ、クソ人間共がぁああああああっ! マジック<ジ・エクスカリ――」
――パンッ。
言い切るよりも先に、乾いた音が響いた。
リョウの手にあった魔銃から、魔力の残光が立ち上っていた。
くるくるとなにかが宙を舞っていた。
一拍遅れて、それが『ボトリ』と鈍い音を鳴らして地面へ落下した。
それは――エリィの父の、腕だった。
「……あ?」
わけがわからない。
そんな呆然とした声をエリィの父は漏らした。
地面に転がっていた腕に握られていた、光の剣。
それがガラスの割れるような音を鳴らし、霧散して消えた。
「ぁああああああぐぅううううっ!?」
だが、エリィの父は強かった。
こぼれかけた悲鳴を噛み殺した。
すぐさま、無事なほうの片手で傷口を押さえていた。
すこしでも血の流出を防いでいる。
もとから、ここに表れた時点で重症だった。
これ以上血を流せば、いつ『状態:気絶』になってもおかしくないだろう。
そして、それはすべての終わりを意味している。
怒りと呆然が半分ずつの表情で彼は問うていた。
「なん、だ……なんだ”ソレ”はぁあああ!?」
エリィの父がなにを言いたいのか、ボクにははっきりわかった。
だって、ボクも同じ気持ちなのだから。
――なぜ魔銃からそんな威力の弾丸が出るのか?
「ソレ、ってェのはどれのことだァ? オレにはなにを聞かれてるのかさっぱりだなァ?」
リョウはすっとぼけた。
そのまま続けて言う。
「あァ、そうだった。お前はオレたちに抵抗した。だからよォ、罰を与えねぇといけねェなァ?」
「なにを、するつもりだ?」
エリィの父が無意識にか、怯んだように一歩下がっていた。
そりゃ、そんな反応になって当然だ。
レベル80を超えているのに、たった1発の弾丸で片腕を吹き飛ばされたのだ。
どう考えてもただの魔銃ではなかった。
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