25 / 50
第25話『オンチじゃないやい!』
しおりを挟むスタンプで遊びだした視聴者に「まったく」と嘆息する。
「お前らがおもちゃにしてるそれ、準備するの大変だったんだからな? 具体的にいうとあー姉ぇがお金出してくれて、あー姉ぇがイラストレーターさんを紹介してくれて、あー姉ぇがおこづかいをエサにわたしを説得したことでようやく実現したんだからな?」
>>全部アネゴやんけ!www
>>アネゴ、裏でそんなに働いてたのか
>>なんで逆におこづかいまで要求してんだよwww
まぁ実際、ほとんどあー姉ぇのおかげだ。
お金がなければコネもない俺をフォローしてくれた。
語学方面では逆に助けているので、必ずしも一方的というわけではないのだが。
それでも、デビューからこっちお世話になっていることのほうが圧倒的に多い。
「もうっ、あー姉ぇのせいで忙しいったらありゃしない」
>>なんでちょっと上から目線なんだよw
>>イロハちゃんがアネゴにだけ遠慮ないのエモい
>>唯一、素直に甘えられる相手なんやろうな
「なッ!? そ、そんなんじゃないから! まぁたしかに? ちょっとはお世話になってるし? 初収益が入ったらちょっとくらいなにかお礼してあげてもいいかなー? とは思ってるけど。……あっ、今のあー姉ぇにはオフレコね!? 絶対だよ! フリじゃなく、本当に伝書鳩しないでね!?」
>>これは間違いなく良妹
>>こういうサプライズいいぞ、もっとやれ
>>ツンデレたすかる
「ちっがーう!? あと、一応言っとくけど、メン限配信については『わたしがしない』ってだけでそれ自体を否定してるわけじゃないから。あの特別感と、普段は隠しているVTuberの一面が見れる希少性はなにものにも代えがたい! なんならお金のあるみんなは、ぜひ一度でいいから推しのメンバーになって限定配信を見にいってみて欲しい! まず、後悔しないから!」
>>『メンバーへようこそ!』
>>『メンバーへようこそ!』
>>『メンバーへようこそ!』
「なんで今の流れでわたしのメンバーになるんだよ!? わたしの配信はメン限配信ないっつってんだろーが! あーもうっ、感謝はしないからな!?」
>>イロハちゃんが俺の推しやからしゃーないw
>>いつも元気くれて、感謝してるのは俺たちのほうなんやで
>>どうしてもお礼したいなら1曲、歌ってくれてもいいよ♡
「おい今、歌えって言ったやつ! 名前覚えてるからな!? 定期的に歌配信しろって言ってくるやつだろ!」
>>歌配信しろ
>>歌配信しやがれ
>>歌配信して♡
「ぎゃぁあああ~、増えた!? ……え、音源? まぁ、あるけど。あーもうっ、わかったよ! 1曲だけ! 1曲だけだからな!? ええっと、音声ファイルは……」
くそう。「音源がないからムリ」と断れれば早いのだが、残念ながらある。
なぜそんなものを持っているのかって? あー姉ぇに渡されたからだよ!
『歌配信はする予定ないからいらない』と拒否したのに、あいつめぇ。
はっ!? まさかあー姉ぇはここまで見越して!? ……ないな。
「さすがに今回は翻訳しながら歌ったりしないからな? 普通の日本語の曲だから。それじゃあ……」
音楽が流れはじめる。
深呼吸して姿勢を正した。
イントロが終わる。
俺は大きく息を吸い込み、マイクに向かって声を送り出した――。
* * *
「……えーっと」
>>腹痛いwww
>>結局、棒読みじゃねーか!!!!
>>これゆっくり歌企画だったのかwww
「あっれー!? こんなにオンチなはずは!?」
前回、英語の曲を歌ったとき。
俺はこのチートじみた翻訳能力の影響でだろう、棒読みになってしまった。
だから今回は、そうならないように元から日本語の曲を選んだ。
にも関わらず結果は同じだった。
いったいなんだ?
歌っているときの、このもどかしさは。
まるで日本語から日本語へと翻訳しているような。
あるいはもっとべつのナニかから日本語へと変換しているのだろうか?
いや、今は考えても仕方ない。
それよりもまずは誤解を解かねば!
「ちがうんだよ、みんな! 信じて! 本当はもっとうまく歌えるんだ! わたしが推しの歌をこんなヘタクソにしか歌えないわけないだろ!? わたしの推しへの愛はこんなもんじゃない!」
>>おっ、おう、せやな
>>イロハちゃんにも苦手なことがあって安心した
>>できないことは素直にできないって言ってもええんやで
「ちっがーう!? 本当にわたしは――」
その日から俺に『オンチ属性』が追加された。
不本意だぁあああ!?
しかも、あー姉ぇから「知り合いのボイトレの先生、紹介したげるね」と憐みの視線を向けられた。
あー姉ぇに同情されたら終わりだよっ!
だが、俺は無言で頷くしかできなかった。
いつか必ず、見返してやる……!
* * *
そうこうしているうちに夏休みも終盤に差しかかっていた。
ずいぶんと期間が開いたが、参加者であるVTuberたちとのスケジュール調整や準備が完了する。
いよいよ夏のビッグイベントの開催だ。
コミケの話じゃないぞ?
夏休みの自由研究企画。
”VTuber夏の大研究発表会”が幕を開けた――。
0
お気に入りに追加
255
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
さくらと遥香
youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。
さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。
◆あらすじ
さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。
さくらは"さくちゃん"、
遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。
同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。
ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。
同期、仲間、戦友、コンビ。
2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。
そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。
イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。
配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。
さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。
2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。
遥香の力になりたいさくらは、
「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」
と申し出る。
そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて…
◆章構成と主な展開
・46時間TV編[完結]
(初キス、告白、両想い)
・付き合い始めた2人編[完結]
(交際スタート、グループ内での距離感の変化)
・かっきー1st写真集編[完結]
(少し大人なキス、肌と肌の触れ合い)
・お泊まり温泉旅行編[完結]
(お風呂、もう少し大人な関係へ)
・かっきー2回目のセンター編[完結]
(かっきーの誕生日お祝い)
・飛鳥さん卒コン編[完結]
(大好きな先輩に2人の関係を伝える)
・さくら1st写真集編[完結]
(お風呂で♡♡)
・Wセンター編[完結]
(支え合う2人)
※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる