7 / 50
第7話『はじめまして!』
しおりを挟む
俺はデビューに関して、あー姉ぇから説明を受けていた。
まず、モデルについて。
これまで使っていた真っ白なアカデミックガウン少女のイラストはすでに『イロハ』の代名詞になっている。
なので、デザインはほぼそのままでいったほうがいい、とのこと。
ただしその際はプロに依頼すべきだ、と言われた。
『姉ヶ崎モネ』は今でこそ大手事務所の所属だが、最初は2Dモデルを自作して個人VTuberとしてデビューした経緯がある。
それほどの画力を持ちながらも、あー姉ぇに言わせれば「あくまで趣味レベル」らしい。
「普通の個人勢デビューならそこまで気にしなくてもいいんだけどね。素材とかも全部フリーのやつでいいし。けどイロハちゃんの場合、期待値がちがうから」
そのセリフには経験者としての言葉の重みがあった。
個人勢と大手所属、酸いも甘いも噛み分けたゆえの実感がこもっている。
「その辺はコネあるから任せて」
しかしプロに依頼するとなると、かなりの費用がかかるんじゃ? と不安になる。
あいにくそんなおこづかいはない。
「それについては心配いらないよ。デビューに必要な費用は全部、あたしが出すつもりだから」
「え!? さすがにそこまでは。デビューしろって言ったのはたしかにあー姉ぇだけど」
「安心して。動画がバズったおかけで、予想外の収益が見込めたの。動画広告や投げ銭だけじゃなく、切り抜きもあたしたちに一部収益が入ってくるんだよ」
「へぇ~、知らなかった」
「そこから出すから大丈夫。イロハちゃんが自分で稼いだようなものだし遠慮しないでね。むしろ今まで見合ったお礼ができてなくて申し訳なく思ってたんだよね。小学生に現金渡すのもちょっと、だし」
俺としちゃあサイン以上に価値のある報酬もないわけで。むしろ、貰いすぎだとさえ思っていたのだが。
このあたりの価値観は人によりけりだな。
「あとはここだけの話、税金対策。もうちょっと経費としてお金使っときたいんだよね」
あー姉ぇはそう言って茶目っ気のある笑みを浮かべた。
曰く、VTuber業というのは税金対策の難しい職種なのだとか。そういう意味で俺への投資は非常に”割がいい”そうだ。
「言っとくけど、必要なのはモデルだけじゃないからね?」
あー姉ぇがモニターをこちらへ向けてくる。
そこにはデビューに必要なものがリストアップされていた。
「機材だけでもデスクトップパソコン、モニター、マイク、ヘッドホン、webカメラ、オーディオインターフェース……」
あー姉ぇが文字を指でなぞりながら読み上げる。
「画像編集ソフト、動画編集ソフト、モーショントラッキングソフト、配信ソフト……待機画面、配信画面、終了画面、オープニング動画、画面切り替え演出、待機BGM、配信中BGM、配信終了後BGM、ロゴ……」
「待って、頭が追いつかない」
「まだ序の口だよ? PCの設定、トラッキングの設定、配信ソフトの設定、一番大変なのは音声まわりの設定かな。あとトゥイッターのアカウントを作って事前に宣伝するのも必須。あ、宣伝用の画像や動画も用意しないとね」
「う、うん」
「もちろんMyTubeのチャンネルを開設しなきゃはじまらないし、自己紹介動画も撮らないと。デビュー配信の翌日はすぐにあたしのチャンネルとコラボして、そこから視聴者の導線引いて……いや、変則的だけどコラボ配信のあとに自己紹介動画を公開したほうが……ぶつぶつ」
「ひぇぇ~!?」
VTuberデビューってこんなに大変なのか!?
世の中には星の数ほどのVTuberがいると言われているが、みんなこれを乗り越えているのか!?
「安心して。今回はアドバイザーとしてあたしがいるし大丈夫。あたしがひとりで……まぁ、ちょっと人に手伝ってもらったりもしたけど、そのときのデビュー作業に比べれば億倍カンタンだよ。しかもスタートダッシュが確約されてる。なんてイージーゲーム。ふふふ……」
「ひっ!?」
「あたしもマネージャーから許可取れたしオールグリーンだね。早ければ1ヶ月後にデビューだから。……あ。準備中もこれまで同様コラボ配信は続けるからね? ネタの提供は途切れさせないのが命」
あー姉ぇの目が据わっていた。
今さら「早まったかも」と思ってももう遅い。
ガッチリと肩を掴まれていた。
魔王からは逃げられない。なぜかそんな言葉が頭に浮かんだ――。
* * *
そこからはバタバタだ。
なんたって、やることの多いこと多いこと。
意外にも一番大変だったのは、親の許可を得ることだった。
のちのち収益化するとき未成年者だけじゃダメらしく、あー姉ぇからは「必須」と言われていた。
最終的には、俺が学校のテストで1ヶ月間すべて満点を取ったら許可してもらえることになった。
……なじぇえ?
どうしてこんな展開になったのかはナゾだが、思い返せば俺が子どものころもこういう交換条件はあった気がする。
いつの時代も親が子どもに求めるものは大差ないのかもしれない。
とはいえ、言うは易く行うは難し。
小学校のテストといえどすべて満点を取ろうとすると、意外とこれが侮れなかった。
おかげで俺はデビュー準備と並行して学業に打ち込むハメになった。
……ハメに?
あれ? 小学生は学業が本業なのでは???
そんな疑問はさておき、俺はマジメに授業を受け予習復習をし――。
* * *
そして、ちょっと遅れて1ヶ月半後。
「――はじめまして、”翻訳少女イロハ”です!」
俺は本格的なVTuberデビューを果たしたのだった。
まず、モデルについて。
これまで使っていた真っ白なアカデミックガウン少女のイラストはすでに『イロハ』の代名詞になっている。
なので、デザインはほぼそのままでいったほうがいい、とのこと。
ただしその際はプロに依頼すべきだ、と言われた。
『姉ヶ崎モネ』は今でこそ大手事務所の所属だが、最初は2Dモデルを自作して個人VTuberとしてデビューした経緯がある。
それほどの画力を持ちながらも、あー姉ぇに言わせれば「あくまで趣味レベル」らしい。
「普通の個人勢デビューならそこまで気にしなくてもいいんだけどね。素材とかも全部フリーのやつでいいし。けどイロハちゃんの場合、期待値がちがうから」
そのセリフには経験者としての言葉の重みがあった。
個人勢と大手所属、酸いも甘いも噛み分けたゆえの実感がこもっている。
「その辺はコネあるから任せて」
しかしプロに依頼するとなると、かなりの費用がかかるんじゃ? と不安になる。
あいにくそんなおこづかいはない。
「それについては心配いらないよ。デビューに必要な費用は全部、あたしが出すつもりだから」
「え!? さすがにそこまでは。デビューしろって言ったのはたしかにあー姉ぇだけど」
「安心して。動画がバズったおかけで、予想外の収益が見込めたの。動画広告や投げ銭だけじゃなく、切り抜きもあたしたちに一部収益が入ってくるんだよ」
「へぇ~、知らなかった」
「そこから出すから大丈夫。イロハちゃんが自分で稼いだようなものだし遠慮しないでね。むしろ今まで見合ったお礼ができてなくて申し訳なく思ってたんだよね。小学生に現金渡すのもちょっと、だし」
俺としちゃあサイン以上に価値のある報酬もないわけで。むしろ、貰いすぎだとさえ思っていたのだが。
このあたりの価値観は人によりけりだな。
「あとはここだけの話、税金対策。もうちょっと経費としてお金使っときたいんだよね」
あー姉ぇはそう言って茶目っ気のある笑みを浮かべた。
曰く、VTuber業というのは税金対策の難しい職種なのだとか。そういう意味で俺への投資は非常に”割がいい”そうだ。
「言っとくけど、必要なのはモデルだけじゃないからね?」
あー姉ぇがモニターをこちらへ向けてくる。
そこにはデビューに必要なものがリストアップされていた。
「機材だけでもデスクトップパソコン、モニター、マイク、ヘッドホン、webカメラ、オーディオインターフェース……」
あー姉ぇが文字を指でなぞりながら読み上げる。
「画像編集ソフト、動画編集ソフト、モーショントラッキングソフト、配信ソフト……待機画面、配信画面、終了画面、オープニング動画、画面切り替え演出、待機BGM、配信中BGM、配信終了後BGM、ロゴ……」
「待って、頭が追いつかない」
「まだ序の口だよ? PCの設定、トラッキングの設定、配信ソフトの設定、一番大変なのは音声まわりの設定かな。あとトゥイッターのアカウントを作って事前に宣伝するのも必須。あ、宣伝用の画像や動画も用意しないとね」
「う、うん」
「もちろんMyTubeのチャンネルを開設しなきゃはじまらないし、自己紹介動画も撮らないと。デビュー配信の翌日はすぐにあたしのチャンネルとコラボして、そこから視聴者の導線引いて……いや、変則的だけどコラボ配信のあとに自己紹介動画を公開したほうが……ぶつぶつ」
「ひぇぇ~!?」
VTuberデビューってこんなに大変なのか!?
世の中には星の数ほどのVTuberがいると言われているが、みんなこれを乗り越えているのか!?
「安心して。今回はアドバイザーとしてあたしがいるし大丈夫。あたしがひとりで……まぁ、ちょっと人に手伝ってもらったりもしたけど、そのときのデビュー作業に比べれば億倍カンタンだよ。しかもスタートダッシュが確約されてる。なんてイージーゲーム。ふふふ……」
「ひっ!?」
「あたしもマネージャーから許可取れたしオールグリーンだね。早ければ1ヶ月後にデビューだから。……あ。準備中もこれまで同様コラボ配信は続けるからね? ネタの提供は途切れさせないのが命」
あー姉ぇの目が据わっていた。
今さら「早まったかも」と思ってももう遅い。
ガッチリと肩を掴まれていた。
魔王からは逃げられない。なぜかそんな言葉が頭に浮かんだ――。
* * *
そこからはバタバタだ。
なんたって、やることの多いこと多いこと。
意外にも一番大変だったのは、親の許可を得ることだった。
のちのち収益化するとき未成年者だけじゃダメらしく、あー姉ぇからは「必須」と言われていた。
最終的には、俺が学校のテストで1ヶ月間すべて満点を取ったら許可してもらえることになった。
……なじぇえ?
どうしてこんな展開になったのかはナゾだが、思い返せば俺が子どものころもこういう交換条件はあった気がする。
いつの時代も親が子どもに求めるものは大差ないのかもしれない。
とはいえ、言うは易く行うは難し。
小学校のテストといえどすべて満点を取ろうとすると、意外とこれが侮れなかった。
おかげで俺はデビュー準備と並行して学業に打ち込むハメになった。
……ハメに?
あれ? 小学生は学業が本業なのでは???
そんな疑問はさておき、俺はマジメに授業を受け予習復習をし――。
* * *
そして、ちょっと遅れて1ヶ月半後。
「――はじめまして、”翻訳少女イロハ”です!」
俺は本格的なVTuberデビューを果たしたのだった。
0
お気に入りに追加
255
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
さくらと遥香
youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。
さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。
◆あらすじ
さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。
さくらは"さくちゃん"、
遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。
同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。
ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。
同期、仲間、戦友、コンビ。
2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。
そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。
イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。
配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。
さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。
2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。
遥香の力になりたいさくらは、
「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」
と申し出る。
そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて…
◆章構成と主な展開
・46時間TV編[完結]
(初キス、告白、両想い)
・付き合い始めた2人編[完結]
(交際スタート、グループ内での距離感の変化)
・かっきー1st写真集編[完結]
(少し大人なキス、肌と肌の触れ合い)
・お泊まり温泉旅行編[完結]
(お風呂、もう少し大人な関係へ)
・かっきー2回目のセンター編[完結]
(かっきーの誕生日お祝い)
・飛鳥さん卒コン編[完結]
(大好きな先輩に2人の関係を伝える)
・さくら1st写真集編[完結]
(お風呂で♡♡)
・Wセンター編[完結]
(支え合う2人)
※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる