4 / 50
第4話『助っ人は小学生』
しおりを挟む
あー姉ぇは「配信者としての名前があるから、決して本名は言わないように」と釘を刺してきた。
ただし「あー姉ぇ」と呼ぶのはオッケーだそうだ。
「あたし、そっちも”あ”からはじまる名前使ってるから」
それで俺にも名前を考えろという話らしいが、ちっとも思いつかなかった。
昔からこういうのは苦手なのだ。
結局、そのままの名前で行くことにした。
さすがに苗字までは出さないが。
あー姉ぇが「本当にいいの?」と聞いてきたが、どうせ今回かぎり。
今どき実名で配信してる人なんて珍しくないし、そもそも本名だとも思わないだろう。
「準備はいい?」
そしていよいよ、配信開始の5分前。
俺はあー姉ぇの横に座り、渡された予備のマイクに向き合った。
「いくよ。さん、にぃ、いち……スタート!」
そのとき俺は、ん? あれ!? ととんでもないことに気づいたが、時すでに遅し。
配信ははじまってしまっていた。
声を出せば配信に乗ってしまう状況。
そして、あー姉ぇは――。
「”みんな元気ぃ~? みんなのお姉ちゃんだヨっ☆” 姉ヶ崎モネでーすっ☆」
>>アネゴ好きだぁあああ!
>>アネゴ好きだぁああああ!
>>アネゴ好きだぁあああああ!
コメント欄が絵文字や同一のコメントで埋まっていた。
え、なにこの人数。っていうか――。
「そしてそして?」
《”ぐるるる……どーもゾンビです”。あんぐおーぐです!》
ふたりのアニメ調のキャラクターが配信画面に並んでいた。
あー姉ぇ、配信者やってるって……VTuberじゃねぇかぁああああああ!?
というかあー姉ぇ、俺の推しのひとりじゃねーか!?
あいさつにも思わず、いつものクセで声を出しかけてしまった。
うわぁああああああ!?
最悪だ! 一線を超えてしまった! ファンとして失格だ!
推しの3D体を見てしまうだなんて!?
VTuberに中の人なんていない。
いないが、仮にそれに準ずるものを見てしまった場合、良かれ悪しかれ今後の見る目が変わってしまう。
純粋な気持ちだけでは楽しめなくなる。
俺はそれが本当にイヤなのだ!
だが、今はそんなことを言っている場合じゃない。
なにせ、コラボ相手は俺にとって推しの中の推し――イチ推しであるあんぐおーぐなのだから!
もう、なにがどうなってるのかわからない。
頭がぐちゃぐちゃだった。
姉ヶ崎モネとあんぐおーぐは仲がいい。
なにせ同じ大手事務所の所属だ。
日本部署とアメリカ部署という違いはあるが、コラボもはじめてじゃない。むしろ多いほう。
だから、ふたりで配信していること自体は、なにも不思議ではない。
不思議ではない、のだが。
なんで俺みたいな異物が混じってんだよぉおおお!?
「というわけで今日は、代役としてあたしのリア友に助っ人をお願いしてきたよっ☆ それじゃあ、自己紹介どうぞ!」
「へ、あぅ!? あの、その!?」
>>落ち着けwww
>>ロリ声かわいい
>>相変わらずアネゴ、無茶振りで草
混乱している間に、企画の説明も事情の説明も終わってしまっていた。
俺は、俺は……。
「あー姉ぇちゃああああああん! 聞いてない聞いてない聞いてない! VTuberってどういうこと!? 普通の配信者じゃなかったの!? わたし推しとリア友だったの!? 《あんぐおーぐちゃん大ファンです愛してますぅ~!》 なんでわたしここにいるのぉ~!?」
「うぇ!? イロハちゃん落ち着いて、落ち着いて!」
「これが落ち着いていられるかぁあああ!」
>>大暴走で草
>>ガチの放送事故だろこれwww
>>リア友VTuberヲタクで草
>>あー姉ぇ呼びかわいすぎん?
>>呼びかたアネゴじゃないのか
>>さらっと英語ウマすぎてヤバい
「とりあえず自己紹介しよ? ね?」
>>あのアネゴがタジタジなの珍しいな
>>これはレアなアネゴwww
>>アネゴを振り回すとはなかなかやりおる
「う、うん。あー、はじめまして。本日、推しがリア友だと知ってしまいました。推しVTuberの中身を見てしまいました。イロハです」
「じゃなくて、役割! 翻訳担当!」
「翻訳機……翻訳少女? です」
>>根に持ってて草
>>翻訳少女イロハ、把握
>>やさぐれてるのいいな
「この子、妹の同級生……というかあたしたちの幼なじみなんだけど、聞いてのとおり英語ペラペラなの。すごくない? だから今回は助っ人として来てもらいました。まさかあたしのファンだとは思ってなかったけど姉ぇー」
《アネゴ、お前またやらかしたのか? 爆笑なんだけど》
「おーぐ、笑ってる場合じゃないから姉ぇっ!? こっちは大変なんだよ!?」
コメント欄に「草」が溢れた。
俺にとっては笑いごとじゃないが!?
ただし「あー姉ぇ」と呼ぶのはオッケーだそうだ。
「あたし、そっちも”あ”からはじまる名前使ってるから」
それで俺にも名前を考えろという話らしいが、ちっとも思いつかなかった。
昔からこういうのは苦手なのだ。
結局、そのままの名前で行くことにした。
さすがに苗字までは出さないが。
あー姉ぇが「本当にいいの?」と聞いてきたが、どうせ今回かぎり。
今どき実名で配信してる人なんて珍しくないし、そもそも本名だとも思わないだろう。
「準備はいい?」
そしていよいよ、配信開始の5分前。
俺はあー姉ぇの横に座り、渡された予備のマイクに向き合った。
「いくよ。さん、にぃ、いち……スタート!」
そのとき俺は、ん? あれ!? ととんでもないことに気づいたが、時すでに遅し。
配信ははじまってしまっていた。
声を出せば配信に乗ってしまう状況。
そして、あー姉ぇは――。
「”みんな元気ぃ~? みんなのお姉ちゃんだヨっ☆” 姉ヶ崎モネでーすっ☆」
>>アネゴ好きだぁあああ!
>>アネゴ好きだぁああああ!
>>アネゴ好きだぁあああああ!
コメント欄が絵文字や同一のコメントで埋まっていた。
え、なにこの人数。っていうか――。
「そしてそして?」
《”ぐるるる……どーもゾンビです”。あんぐおーぐです!》
ふたりのアニメ調のキャラクターが配信画面に並んでいた。
あー姉ぇ、配信者やってるって……VTuberじゃねぇかぁああああああ!?
というかあー姉ぇ、俺の推しのひとりじゃねーか!?
あいさつにも思わず、いつものクセで声を出しかけてしまった。
うわぁああああああ!?
最悪だ! 一線を超えてしまった! ファンとして失格だ!
推しの3D体を見てしまうだなんて!?
VTuberに中の人なんていない。
いないが、仮にそれに準ずるものを見てしまった場合、良かれ悪しかれ今後の見る目が変わってしまう。
純粋な気持ちだけでは楽しめなくなる。
俺はそれが本当にイヤなのだ!
だが、今はそんなことを言っている場合じゃない。
なにせ、コラボ相手は俺にとって推しの中の推し――イチ推しであるあんぐおーぐなのだから!
もう、なにがどうなってるのかわからない。
頭がぐちゃぐちゃだった。
姉ヶ崎モネとあんぐおーぐは仲がいい。
なにせ同じ大手事務所の所属だ。
日本部署とアメリカ部署という違いはあるが、コラボもはじめてじゃない。むしろ多いほう。
だから、ふたりで配信していること自体は、なにも不思議ではない。
不思議ではない、のだが。
なんで俺みたいな異物が混じってんだよぉおおお!?
「というわけで今日は、代役としてあたしのリア友に助っ人をお願いしてきたよっ☆ それじゃあ、自己紹介どうぞ!」
「へ、あぅ!? あの、その!?」
>>落ち着けwww
>>ロリ声かわいい
>>相変わらずアネゴ、無茶振りで草
混乱している間に、企画の説明も事情の説明も終わってしまっていた。
俺は、俺は……。
「あー姉ぇちゃああああああん! 聞いてない聞いてない聞いてない! VTuberってどういうこと!? 普通の配信者じゃなかったの!? わたし推しとリア友だったの!? 《あんぐおーぐちゃん大ファンです愛してますぅ~!》 なんでわたしここにいるのぉ~!?」
「うぇ!? イロハちゃん落ち着いて、落ち着いて!」
「これが落ち着いていられるかぁあああ!」
>>大暴走で草
>>ガチの放送事故だろこれwww
>>リア友VTuberヲタクで草
>>あー姉ぇ呼びかわいすぎん?
>>呼びかたアネゴじゃないのか
>>さらっと英語ウマすぎてヤバい
「とりあえず自己紹介しよ? ね?」
>>あのアネゴがタジタジなの珍しいな
>>これはレアなアネゴwww
>>アネゴを振り回すとはなかなかやりおる
「う、うん。あー、はじめまして。本日、推しがリア友だと知ってしまいました。推しVTuberの中身を見てしまいました。イロハです」
「じゃなくて、役割! 翻訳担当!」
「翻訳機……翻訳少女? です」
>>根に持ってて草
>>翻訳少女イロハ、把握
>>やさぐれてるのいいな
「この子、妹の同級生……というかあたしたちの幼なじみなんだけど、聞いてのとおり英語ペラペラなの。すごくない? だから今回は助っ人として来てもらいました。まさかあたしのファンだとは思ってなかったけど姉ぇー」
《アネゴ、お前またやらかしたのか? 爆笑なんだけど》
「おーぐ、笑ってる場合じゃないから姉ぇっ!? こっちは大変なんだよ!?」
コメント欄に「草」が溢れた。
俺にとっては笑いごとじゃないが!?
0
お気に入りに追加
255
あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。

〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる