5 / 37
第二回 混乱、暴走、黒旋風。
二の二(無知な子を無理に、しゃぶり、騎乗 ★R-18描写あり)
しおりを挟む
/二
「おいら、泳げない! 泳げないけど! 水に入ってやった!」
いつまで経っても水から出てこない宋江を救ったのは、落とした張本人だった。
泳げない、泳げないんだと何度も喚いたが、大声を出して自分を奮い立たせると水中に突貫し、宋江を救った。
とはいえ浅瀬である。大男の腰ほどしか隠れない水嵩なのだが、それでも男は喚き散らしていた。
目的の魚だけを奪って逃げられたのに、黒い男はそれができる人間ではなかった。
「……すまない、私が悪いんだ。泳げないのに助けてくれてありがとう」
昼間なら水遊びになったが、夜風が拭き始める時間では笑ってはいられない。
「来なさい」
宋江は大男の手を引き、ギャアギャアと喚かれながら自宅へ連れ帰った。
すぐさま浴室の準備をしてやり、大男を押し込む。
そして着替え終えた宋江は、二日分ぐらいの食糧を使って、飯を用意した。
釣った魚を食べると男は言っていたが、のんびりした宋江に釣られた間抜けな魚は大男の腹には物足りないだろう。
幸い、米の貯蓄ならある。肉が無くても米があれば満足する筈だと、調理に掛かった。
人をもてなすことが趣味である宋江は、日頃から近所の者に料理や酒を振る舞っている。
だから黒い大男がどんな形であれ「飯を食わせてほしい」と頼んでくれば、いつでも迎え入れるつもりだった。
近所の者なら宋江を叩けば金と飯が出ることをよく知っている。
黒い大男は、宋江のその評判を知らない。本物のよそ者だということだった。
食卓に香立つ料理を並べる。すると、大男が浴室からしずしずと顔を出していた。
「…………」
「どうした? 体はしっかり浄めたか?」
「うー」
「うー? お風呂に入れたなら、ご飯を食べよう。おいで」
「……おまえ、やさしい。わあー!」
うー。わー。どんな意味がある言葉なのか判らない。
けど朱仝から「幼い子供は気持ちを言語化できないとき、とりあえず声を出して発散する」と語っていたことを思い出し、気にしないことにする。
浴室から飛び出してきた大男は上半身裸のまま。下衣を履かずに、腰に布を巻いて隠しているだけだった。
用意した宋江の衣服では小さすぎたからか。何かを着せてあげたかったが、席に着いて箸を持ったら止まらない。
「いただきます! うめえ!」
早かった。味わうにしても、もう少し時間を掛けるものだが早かった。
ガツガツと、炒め物を口に運んでいく。
食器を使っているが、使っていないようにも見える。皿に直接口を付けて、ずるずると料理を掻き込んでいくからだ。
(まるで、人の言葉を覚えた獣のようだ……)
思った矢先、大男は「うめえ、うめえ!」と喜び、笑う。
ニコニコと笑う無邪気さに、とても素直で愛嬌のある男なんだと思い知った。
「なあ。さっき言っていた『アニキ』という人は、どこに住んでいるのかな?」
「江州! ……あっ! アニキに手紙、おいら、出さない! 出さないぞぉ!」
「もう夜だ。大声は控えなさい」
「アニキに怒鳴られるから! ……から、手紙、おいら出さない……」
大男は叱咤に対し、素直に声を潜める。大きく逞しい体も小さく折り畳み、我慢していた。
子供のように正直で表情豊か。つい頭を撫でたくなってしまう。
ゆっくりと判りやすい言葉で、パクパクと食を進める男に尋ねた。
「私は宋江という名だ。この家で、一人で暮らしている。お前の名前を教えてくれ」
「李逵!」
「大声を出さなくても聞こえるよ。ここには私しか住んでないからね」
「……李逵!」
小声で話そうとする。ちっとも小声ではないが、彼なりの努力が感じられた。
「リキというのか。お前らしい、素敵な名前だね」
「……すてき?」
「私は良い音だと思う。それに、ちゃんと名前が言えて偉いね、李逵」
「……うん! 母ちゃんが付けた! 父ちゃんじゃなくて、母ちゃんが付けてくれた名前! 母ちゃん好きだから、おいらも、好き!」
「えっと……名前が好きなのかな。それともお母さんのことが好きという意味?」
「好き! あのね、好き!」
どっちだ。どっちもなのかもしれない。
李逵は全身の元気が余って口から発散するしかないらしく、話は全て大声になってしまう。
静かにしようと頼めば一瞬だけ静かにするのだが、飯を口に運ぶと、忠告も全てを忘れて「これうめえ!」と大声を上げて喜んだりもする。
自分に嘘が吐けない正直者なのだ。
話せば話すほど、無邪気な彼を好きになっていた。
一通り食事を終えた李逵が、まだ腹が減っているのか鼻をすんすんと動かした。
もう出て行かせるつもりだったが、台所に置いていた梨に気付き、席を立つ。
昼間に近所の女から貰い、釣り竿を取りに来たときに置きっ放しにした物だった。
「甘い果物! うー、良い匂いがする!」
「今日が一番食べ頃だと言っていたな。李逵は良い日に来た、なかなか無い物だぞ」
「えへへ! ……おいら、おいらが剥く! おいらがやる!」
子供が母親の仕事を手伝いたがるように、台所に立つ宋江の横へ巨体が駆け寄る。
飯のおかげかすっかり心を許した幼い子供が、甘えて宋江の隣に立った。
すんすんと梨の香りを嗅ぎ、体を寄せて早く早くと急いてくる。
しかし何度「子供のようだ」と思っても、見上げるほど大きい体には違いない。
何も羽織らない体は筋骨隆々で逞しい。
梨に向かって伸ばしてくる腕が怪力であることも、身をもって知っていた。
(力仕事なら雇ってもらえそうだ。……知恵は遅れているようだが聞き分けが良い子なら、豪腕を生かす仕事に就けそうじゃないか)
働きぶりを横で見ていると、李逵は手早く梨を剥いていく。
巨体とは裏腹に、手先が器用だった。
「母ちゃんに果物剥くの、おいらの仕事! これぐらいできる!」
自慢げに手早く皮を剥き、豪快に割る。そして片方を、宋江の口へと押し込んだ。
「むぐ。李逵、ありがとう」
「う? ……あり、がと?」
「食べさせてくれるなんて思わなかったから。美味しいね、李逵も食べなさい」
「……えへへへ! おいら、これぐらいできる! できるんだぜ!」
「もしかして、私より手先が器用かもしれないな?」
「うん! おいらの方がうまい!」
「そうなのか。なら今日は李逵に作ってもらえば良かったなぁ」
「……でも! でも! ……宋江……のアニキも、大したもんだぜ!」
「李逵。夜だから大声を出したらダメだぞ。ご近所に迷惑が掛かる」
「……うー!」
少し礼儀ができていないが、ニコニコと楽しそうに話す姿が非常に魅力的だ。
悪い子には思えない。
そう確信した宋江は、いくつか金を包むことにした。
(職が見つかるまで我が家に居るといい……と言いたいが、それは難しい。少し多めに金を渡して、今夜泊まれる宿を見つけてもらおう。真夜中になる前に、今日の宿を探しに行くよう言わなければ)
梨を飲みこんだ宋江は一旦、腰を下ろした。
金を渡して行かせるのは早い方がいい。けれど昼間から動き続けていたせいか、急な疲労に襲われる。休憩が必要だった。
そのまま数秒、気絶した。
「うー? 宋江のアニキ? どうしたんだよ?」
キョトンとした李逵に両肩を揺すぶられ、ようやく宋江は椅子の上で気を失ったことに気付いた。李逵もまさか数分のうちに宋江が眠ったとは、思わない。
「……李逵。金をやるから、今日の宿を……探しに行き……」
昼間から動き回ったからか、水浸しになったせいか、いや、これは。
体が急激に熱くなる。風邪を引いたか。いいや、もっと単純で、判りきった現象が起きる。
少しずつ、『あの時間』が近づいていた。
「李逵……少し、待っていなさい……」
立ち上がり、二階に向かおうとする。その足が、もつれた。
「アニキ!」
唐突に人が倒れかけたら、心優しい李逵はもちろん抱きとめる。
心配して顔を覗く李逵の大きな胸板に寄りかかりながら、何とか動こうとした。
だが、力が入らない。
どうしてこんなに急激に体温が上がっていくのか。なぜ震えてしまうのか。
理由など、考えるまでもない。今までも、そういうものだった。
(……酷い。どうしてあと数分! この子を見送るまで待ってくれないんだ!)
三ヶ月に一度、体が使いものにならなくなるのは判っていた。
飲みたくない粉薬を常備していた。大勢が笑いかけてくれても、敢えて一人で過ごせる釣りを選んだ。全部このときの為だった。
なのに、どうして。
食事をして、あと数分で彼を見送って、鍵を掛けて倒れる、つもりだったのに。
後悔しても遅い。宋江は薬を探した。
少しでも抑制し、せめて李逵がこの家から出て行くまでの間を堪えないと。
そして、気付いてしまう。
――胸に隠していたありったけの粉薬が、川に流れてしまったことに。
「宋江のアニキ?」
サアッと背筋が凍り、同時に、体の芯はドクドクと熱くなっていった。
「宋江のアニキ! 寝床、どこ?」
言葉も無く息が荒くなっていく姿を見て、李逵が動揺を始める。
彼の優しさを押し退けようとするが、巨体を動かせるほどの力は無い。
首を振るい、近づくなと訴える。
だが強引に太い腕を払うと反抗するように、ひょいっと宋江の体を抱きかかえた。
「アニキ、寝床、どこ? 連れて行ってあげる!」
李逵に抱き上げられ、宋江は息を呑んだ。間近の香りに頭が真っ白になる。
「んー? こっち? こっちの部屋?」
次第に体が震え始めた。
震えているが嫌悪は無い。体臭を嗅げば嗅ぐほど何とも言えない幸福感に包まれ、逞しい腕に縋りついてしまう。
そうしているうちに李逵は寝台のある部屋に見つけ、宋江を運んでいった。
「ぁ……ここは……違う……」
李逵が運んだ部屋は、未だ片付けられない亡き妻に与えた私室だった。
帰ってこない彼女を待つように清潔に保たれた寝台がある。
そんな事情を「一人で暮らしている」と聞かされた李逵は知る訳がない。寝台がここにあるのだから、ここが寝床に違いないと思って仕方がなかった。
「あ……。ぅん……」
体が寝台に下ろされ、李逵が離れていく。
快感までが遠退く気がして、宋江は寂しい気持ちに襲われた。性の快感に呑まれつつある証拠である。
「アニキ? 苦しい? 苦しいの、お腹? 背中?」
嗚咽をもらす宋江を見た李逵が困惑し、丸くした宋江の体を撫でた。
優しさでしてくれたことだと幼い表情を見れば判る。しかし、
「触ら、ぁっ、ぁあああ、ん、んっ!」
ただ触れられただけで、宋江は発情した声を上げてしまった。
「あ、アニキっ?」
ここから立ち去るように彼に告げなくては。
宋江は何度も深呼吸を繰り返し、顔を上げた。
荒い呼吸のまま顔を上げて捲し立てようとしたとき、気付く。
李逵もまた、気遣いながらも真っ赤な顔をしていた。
宋江自身の荒い呼吸のせいで気付かなかったが、李逵もハアハアと、息苦しそうに喘いでいた。
(ああ、なんて……)
そして元より腰巻をしていただけの李逵は、宋江を寝床まで抱えて連れてくる間に巻いていた布を放り出してしまったのだろう。
丸裸になっている。
李逵の逸物は、既に勃起していた。
(なんて……大きい……)
斜め上に反り返り、目に焼き付いて離れないほどの猛々しい巨根。
それを目にしてしまった宋江は、体の奥がズンと重くなるのを感じる。
(大きい……。見ただけなのに、こんなに反応してしまうなんて……)
唾を飲んで、奥に響くものに耐えた。衣服を着てここから去れ、その一言が、言えない。首を上げるのが精一杯で、昂る体温が逃亡を阻止していく。
「なあアニキ。熱いの? 汗、凄いよ」
ハアハアと自分が喘いでいることにも気付いていないのか、李逵はゆっくりと大きな手を、顔を上げた宋江へと伸ばした。
首元に指を這われる。顎をなぞった後に、着物の中へ指を滑り込ませてきた。
熱いなら脱げばいい。そうすれば楽になれる。単純な考えだった。
「あぁぁ、あ、ぅぅんん」
しかし恐ろしく敏感になった肌は、撫でられただけなのに嬌声を上げてしまう。
体を捩らせて喘ぐなんて、何でもないと言おうとしても説得力が無かった。
(触るだけで……気持ち良くなれる……)
いつもの発情期、これもいつも通り。全身が性感帯になったかのように敏感になり奥を掻き混ぜてと懇願したくなるほど、欲しがってしまう。
いつものことであり、いつもなら一人で我慢する。
だけど目の前に男が居た。それだけでいつもの対処が出来ないでいる。
(ダメだ……もう何も考えられない……ただ、その大きいモノが、欲しい……)
宋江は太い腕を取り、熱そうに息を吐く全裸の男を寝台に引き寄せた。
眼前の大きく黒いモノに、唇を寄せる。
「ア、アニキ?」
体ばかりが大きい李逵に、どこまで知識があるか宋江は知らない。それでも身勝手に己の獣を解放するべく、舌を這わせた。
(欲しい……これが……ああ、臭いが、誘う……)
体を清めた後でも興奮して香る男の匂いが堪らない。一度虜になると止まらず、既に膨れ上がった李逵の亀頭を丁寧に舐め上げていた。
若さなのか李逵の逸物はすぐに硬化を始める。舌で感じる硬さに、媚肉が疼いた。
「ぁむ、んん……んくぅ」
肉棒を突然しゃぶられて李逵は動揺の声を上げた。だが、跳ね退けはしない。
宋江の唇と舌の柔らかさに目を丸くして、ヒクヒクと震えていた。
「あ、アニキぃ……?」
「んんん、んんんぅ……ぷは……ぁむぅ」
口内いっぱいに大きすぎる肉棒を咥え直し、しゃぶり上げる。
欲しいと思い続けたせいなのか、口内は唾液で溢れ、味わうのを止めない。
「ぁん、んむぅ、んんん、んちゅっ……」
必死にしゃぶった。ぴちゃぴちゃと音を立て、肉棒を感じることだけに没頭する。
「あっ、アニキっ? ぅっ、んんっ」
顎が外れてしまいそうな巨根を咥え、ズルズルと吸い込む。
無我夢中に何もかも忘れて肉棒を求めた。全ては、火照る下半身を鎮める為の前準備だった。
「あぅっ、なに、アニキ、ぺろぺろして……何してるんだよぉ」
(私は、何も判ってない子を食べようとして……。でも、止まらないんだ……)
李逵は不安な声を上げながら、下半身から頭を離そうとしない宋江を見下ろしている。
最初は突っ立っていたが、次第に寝台へ腰を下ろした。
いつしか胴を仰向けに倒して、宋江の責め立てを受けるようになっている。
「熱い、熱いよぉ……変だよ、おいらまで、体中が熱くて……」
力だけなら李逵の方が強い。だが次から次へと性感帯を刺激され、未知の感覚に襲われている彼は、ビクビクと震えて怯え続けていた。
(お前を発情させてしまったのも、私のせい……。ああ、すまない、もう!)
膨張しきった黒い逸物から、口を離す。
宋江は李逵の厚い胸板に口付けするため、身を捩りながら上を目指した。
「な、何をして……アニキぃ……」
胸の先端を舐められることなんて、この男はあっただろうか。
考えながらも宋江は李逵の固い体に舌を這わせる。
ぺろぺろと体を舐めながらも、身に着けていた物を全て払い、成長しきった肉棒の上に跨った。
(硬い……大きい……。これを受け入れるのは、二十年ぶりになる……)
名も知らぬ男を獣にして貫かれた少年時代から長い月日が経つ。今もまた、他人を食らって快楽を得ようとしていた。
恐怖心はある。だが体は急かすように炎を上げ、止まらず走れと訴えていた。
天を向いた若々しい肉棒を、宋江は自分の中へといざなった。
「あ、ぅん、ぁぁぁ……!」
「っ、アニキ、んううう」
強烈な圧迫感。大きさも硬さも宋江の中を満たす。凄まじい衝撃と共に、挿入した瞬間に擦れた感覚が、全身を痺れさせるほどの快楽となる。
自我の崩壊が始まった。
「あっ、ぁぁぁ……ああっ、んああ……」
李逵の大きいモノが、ようやく中をいっぱいに満たしてくれる。
二十年間、発情期のたびに一人で過ごす宋江は、ただ奥から生じる熱に耐える日々を送っていた。
清純を良しとした父の教育は、耐えることだけしか教えてくれなかった。
どんなに欲しくても欲しがってはならない。
体の奥が刺激を求めて悲鳴を上げていても、それは自慰ではなく自涜である。
そう教えられ、熱くなる箇所へ指を進めてはならず、ひたすら耐えるしかなかった。
「あっ、ああっ、いいっ、イイ、イイ……!」
しかし、ようやく奥を抉ってくれるモノを得られた。悦楽を求め、腰を振り立てる。
「んぁっ! あああっ、ぁあ……!」
宋江は二十年間も焦らされていた苦痛を、解放した。なりふり構わず腰を上下させ刺激を強請る。
李逵はというと仰向けに横たえたまま、初めての快感を味わっていた。
目を瞑りながら、困惑しながらも、甘く熱い息を吐き続けている。
彼も気持ち良いのだと覗き込むと安心し、より激しく動きたいと体を弾ませた。
「ぁあっ、はあぁん、李逵、きもちい、いぃ、んん……!」
「きもち……きもちいい、の……? おいら……おいら、もっと!」
身を横たえていた李逵が、ガッと両手で宋江の脇を持つ。
グラグラと乱暴に揺さぶり、もっと激しく波打つように自らの腰を、上へ突き上げた。
「ひあっ、ああっ、動っ……ああああんっ!」
高く声を上げた。李逵の表情が、和らぐ。気持ち良いところに当たったようだ。
李逵は寝そべりながら腰を揺らし、騎乗する宋江をしたたかに攻めたてようと、更なる力を加えた。
「ぁっ、激し、いいっ、イイイ……!」
腰が弾むたびに体の奥が悦ぶ。呼応するように寝台がギシギシと音を立てた。
その音に、宋江はハッとした。
巨根の圧力に呼吸がままならないほど、普段なら出さない声を出して悦んでいることに、気付いてしまう。
(妻の部屋で……なんて、はしたない……!)
この寝台は、自分の物ではない。ここは普通の壁、普通の窓がある部屋だ。
しかもまだ真夜中ではない。
なのに、快楽を求めて喘ぎ散らしているなんて。
妻の為に残していた場所だった。だというのに汗まみれで、涎まみれで、精液を強請ろうとしている。
誰かを大事にしたいという想いを塗り潰してでも、自分を犯してもらうことばかりを考えてしまった。
(私は……もう、私でなくなっている……)
だけれども、欲望を絶つことが出来ない。
侵入している肉棒を咥え込んだ体が、言うことを聞いてくれなかった。
(やめてくれ……嫌だ……嫌なのに……)
娼婦のように淫らに踊り、男とは思えない淫乱な声を放っている。
今日会った男を招いて押し倒し、男棒を一心不乱に貪る他に、逃げる道は無い。
(嫌なのに……もっと欲しいと、私の中が叫んでいる……)
涙を流して、イキ狂いたいという性の悦びを堪能するしかなかった。
「うー、アニキ……! おいら、もうっ!」
躊躇した宋江が動きを緩めたからか、焦らされた李逵が、中を激しく抉る。
男棒に跨って腰を躍らせていた宋江を転がすと、今度は李逵が宋江の体に乗って覆い被さった。
「んあっ……ふぁ、ああああぁ!」
李逵の体格は、宋江には見上げるほどに大きい。
その巨体に押し潰されては、何も見えなくなり、身動き一つ取れなくなる。
肉棒が引き抜かれていく。宋江は何もできない。
だが再び、中へと沈んでいく。
今度は李逵自身が、自由に腰を動かす番になった。
「んあっ! あぅっ! やっ、あっ! あああっ!」
太い両腕がぎゅうっと全身を抱き締め、浮いた腰を、ズンズンと交差し始める。
抱擁されて拘束された宋江は、自分の歩度より何倍も激しい、壊れてしまうのではないかというぐらい乱暴な上下運動に翻弄されることになった。
「ま、待って、ぁっ! ああっ! んああっ! あああんっ!」
逃げようにも巨大な黒い塊は宋江を縛りつけ、中を滅茶苦茶に刺激していく。
口を閉ざそうにも、抱き締められて手で隠すこともできなかった。
(声が、我慢、できない! 激しすぎる、気持ち良すぎる……!)
「アニキっ、アニキ……あにきぃ、おいら、おいらぁ!」
本能の命じるままに押し潰して喘ぐ李逵すら、涙を浮かべて、腰を震わせていた。
「だめっ、ああっ、ああああ、ぁぁぁぁ」
痙攣が起きる。突き上げられて駆け抜ける快楽が、頭を真っ白に染めていく。
「イッ、イっちゃ……!」
涙をボロボロと零しながらも、嵐のように激しい仕打ちに悦んでいる宋江は、喉を反らし、絶頂を叫んだ。
「イイッ、イク! んああああぅ、イクうぅッ……!」
――これほどの絶頂を味わったのは、初めてだった。
忌々しい発情の中で、満足した快感を得たことなどなかった。
初めての発情した二十年前。父に『清楚こそが善』と教えられ、忠実に守る日々が始まった。
発情期のたびに悶えた。しかし快楽を禁じられていたため、発情が終わるまで訪れることのない絶頂と戦う七日間を過ごしていた。
地下の自室で、一人で寝台の上、襲い来る快感と一人で戦う日々。
ジリジリと快感が登り詰めてきて、その発作から解放されたいのに、身を縛ってひたすらに耐え続けた。
イキたい、イキたい、絶頂したい、イってしまいたい、自分一人では絶頂寸前で止められて、イキたくてもイキたくてもイケずにいて、それが何年も続いて――。
(でも、イって、しまった……。ようやく、地獄のような寸止めから、解放された。こんな気持ち良って、一度でも味わってしまったら……)
事務的に男性器から精を放ったことはある。人間として、男として、女を抱いた日もある。
けれど悶え狂う日々の中で、『本物の快楽』を得られたのは今日が初めてだった。
(こんなの凄すぎて……もう二度と、普通の人間に戻れなくなる……)
肉棒を中から抜き取られたとき、ドプリと、白い液体が溢れ出る。
放出される精液が不思議な快感となり、宋江は一段と全身を痙攣させた。
(また……体が欲がっている……。ああ、私は一生、淫らな獣のままだ……)
黒く太い腕に抱かれたまま、涙を拭うこともできず、胎動する熱を味わう。
獣のような声を上げて精液によがり狂ったが、不快感が無い。
その上、「まだ精を求めよ」と、全身が訴えているほどだった。
「アニキ……アニキ、おかしいよ、おいら……まだ熱いんだ」
李逵もまた、精神を侵されていた。
精を放った後だというのに肉棒は衰えない。それどころか時が戻ったように、また繋がりを求める大きさに膨れ上がっていた。
体も熱く、蕩けた目をしている。
元から野生じみた男だったが、さらに彼は雄々しく変貌しているようだった。
「ああ……私も熱いんだ……李逵、助けてくれ……」
李逵の肌へ、そっと口付ける。
もっとおくれと懇願すると、李逵は再び宋江の小柄な体を正面から持ち上げた。
「り、李逵。お願いがある。二階へ、二階へ連れて行ってくれ」
「ここじゃ、ダメ? おいら……また、したいよ」
「二階はもっと良い部屋がある……ここはダメなんだ、だから、ぅ、んんっ!」
宋江を正面から抱え直した李逵は、両手で宋江の臀部を左右に開くと、先ほどまで肉棒を突き刺していた穴へ再び自らのモノを埋めていった。
「ぁぁぁぁ、嫌っ、ここでは、あ、んああっ!」
自分で跨って挿入したときとは違う。物のように扱われ、心の準備もままならないうちにズプリと沈められた。
宋江は李逵の背に腕を伸ばし、強く抱きつき、悶える。
「判った。二階は良い部屋。じゃあおいら、アニキを連れて行く」
「んあっ! んああぁ! やぁっ、ひぁあっ!」
アソコを差し込んだまま、李逵が寝台から立ち上がり、宋江の体を落とさないように抱き締めながら歩き出した。一歩一歩と進むごとに、宋江の中を抉りながら。
「やぁっ! ああっ! だめっ! んひぃっ!」
階段を一歩登る、すると宋江の体が奥まで貫かれる。
一歩進めばグチュッ、また一歩進めばグリリと。
李逵が歩くたびに野太いモノを咥え込んで、何度も何度も叫び上げた。
あまりの刺激に必死に体を捩る。だが二本の太い腕と逞しく成長しきった肉棒が小さな体を離さない。
その結果、二階に上がるまで、宋江は何度もイキ散らした。
抱きしめられながら、一歩ずつ、イキまくる。
全体重が肉棒で支えられ、エラが抉るように掻き乱し、締めつける媚肉が絶頂を繰り返した。
厳重な扉の寝室に辿り着いた頃には、李逵の腹に何度も精を放っていた。
「アニキ、着いたよ。ここでまた……いいよね?」
寝台に下ろされる。穴から李逵のモノが引き抜かれた。
次の行為に移るただの小休止。
なのに、凄まじい心細さを覚えてしまっている。
(私は堕ちる……もう何も考えられない。まだ欲しい、けれど、この子まで堕としてしまうなんて……。ああ、許してくれ)
思考も全身も性器として完成した。
光の無い部屋で、性を貪る七日間が始まった。
「おいら、泳げない! 泳げないけど! 水に入ってやった!」
いつまで経っても水から出てこない宋江を救ったのは、落とした張本人だった。
泳げない、泳げないんだと何度も喚いたが、大声を出して自分を奮い立たせると水中に突貫し、宋江を救った。
とはいえ浅瀬である。大男の腰ほどしか隠れない水嵩なのだが、それでも男は喚き散らしていた。
目的の魚だけを奪って逃げられたのに、黒い男はそれができる人間ではなかった。
「……すまない、私が悪いんだ。泳げないのに助けてくれてありがとう」
昼間なら水遊びになったが、夜風が拭き始める時間では笑ってはいられない。
「来なさい」
宋江は大男の手を引き、ギャアギャアと喚かれながら自宅へ連れ帰った。
すぐさま浴室の準備をしてやり、大男を押し込む。
そして着替え終えた宋江は、二日分ぐらいの食糧を使って、飯を用意した。
釣った魚を食べると男は言っていたが、のんびりした宋江に釣られた間抜けな魚は大男の腹には物足りないだろう。
幸い、米の貯蓄ならある。肉が無くても米があれば満足する筈だと、調理に掛かった。
人をもてなすことが趣味である宋江は、日頃から近所の者に料理や酒を振る舞っている。
だから黒い大男がどんな形であれ「飯を食わせてほしい」と頼んでくれば、いつでも迎え入れるつもりだった。
近所の者なら宋江を叩けば金と飯が出ることをよく知っている。
黒い大男は、宋江のその評判を知らない。本物のよそ者だということだった。
食卓に香立つ料理を並べる。すると、大男が浴室からしずしずと顔を出していた。
「…………」
「どうした? 体はしっかり浄めたか?」
「うー」
「うー? お風呂に入れたなら、ご飯を食べよう。おいで」
「……おまえ、やさしい。わあー!」
うー。わー。どんな意味がある言葉なのか判らない。
けど朱仝から「幼い子供は気持ちを言語化できないとき、とりあえず声を出して発散する」と語っていたことを思い出し、気にしないことにする。
浴室から飛び出してきた大男は上半身裸のまま。下衣を履かずに、腰に布を巻いて隠しているだけだった。
用意した宋江の衣服では小さすぎたからか。何かを着せてあげたかったが、席に着いて箸を持ったら止まらない。
「いただきます! うめえ!」
早かった。味わうにしても、もう少し時間を掛けるものだが早かった。
ガツガツと、炒め物を口に運んでいく。
食器を使っているが、使っていないようにも見える。皿に直接口を付けて、ずるずると料理を掻き込んでいくからだ。
(まるで、人の言葉を覚えた獣のようだ……)
思った矢先、大男は「うめえ、うめえ!」と喜び、笑う。
ニコニコと笑う無邪気さに、とても素直で愛嬌のある男なんだと思い知った。
「なあ。さっき言っていた『アニキ』という人は、どこに住んでいるのかな?」
「江州! ……あっ! アニキに手紙、おいら、出さない! 出さないぞぉ!」
「もう夜だ。大声は控えなさい」
「アニキに怒鳴られるから! ……から、手紙、おいら出さない……」
大男は叱咤に対し、素直に声を潜める。大きく逞しい体も小さく折り畳み、我慢していた。
子供のように正直で表情豊か。つい頭を撫でたくなってしまう。
ゆっくりと判りやすい言葉で、パクパクと食を進める男に尋ねた。
「私は宋江という名だ。この家で、一人で暮らしている。お前の名前を教えてくれ」
「李逵!」
「大声を出さなくても聞こえるよ。ここには私しか住んでないからね」
「……李逵!」
小声で話そうとする。ちっとも小声ではないが、彼なりの努力が感じられた。
「リキというのか。お前らしい、素敵な名前だね」
「……すてき?」
「私は良い音だと思う。それに、ちゃんと名前が言えて偉いね、李逵」
「……うん! 母ちゃんが付けた! 父ちゃんじゃなくて、母ちゃんが付けてくれた名前! 母ちゃん好きだから、おいらも、好き!」
「えっと……名前が好きなのかな。それともお母さんのことが好きという意味?」
「好き! あのね、好き!」
どっちだ。どっちもなのかもしれない。
李逵は全身の元気が余って口から発散するしかないらしく、話は全て大声になってしまう。
静かにしようと頼めば一瞬だけ静かにするのだが、飯を口に運ぶと、忠告も全てを忘れて「これうめえ!」と大声を上げて喜んだりもする。
自分に嘘が吐けない正直者なのだ。
話せば話すほど、無邪気な彼を好きになっていた。
一通り食事を終えた李逵が、まだ腹が減っているのか鼻をすんすんと動かした。
もう出て行かせるつもりだったが、台所に置いていた梨に気付き、席を立つ。
昼間に近所の女から貰い、釣り竿を取りに来たときに置きっ放しにした物だった。
「甘い果物! うー、良い匂いがする!」
「今日が一番食べ頃だと言っていたな。李逵は良い日に来た、なかなか無い物だぞ」
「えへへ! ……おいら、おいらが剥く! おいらがやる!」
子供が母親の仕事を手伝いたがるように、台所に立つ宋江の横へ巨体が駆け寄る。
飯のおかげかすっかり心を許した幼い子供が、甘えて宋江の隣に立った。
すんすんと梨の香りを嗅ぎ、体を寄せて早く早くと急いてくる。
しかし何度「子供のようだ」と思っても、見上げるほど大きい体には違いない。
何も羽織らない体は筋骨隆々で逞しい。
梨に向かって伸ばしてくる腕が怪力であることも、身をもって知っていた。
(力仕事なら雇ってもらえそうだ。……知恵は遅れているようだが聞き分けが良い子なら、豪腕を生かす仕事に就けそうじゃないか)
働きぶりを横で見ていると、李逵は手早く梨を剥いていく。
巨体とは裏腹に、手先が器用だった。
「母ちゃんに果物剥くの、おいらの仕事! これぐらいできる!」
自慢げに手早く皮を剥き、豪快に割る。そして片方を、宋江の口へと押し込んだ。
「むぐ。李逵、ありがとう」
「う? ……あり、がと?」
「食べさせてくれるなんて思わなかったから。美味しいね、李逵も食べなさい」
「……えへへへ! おいら、これぐらいできる! できるんだぜ!」
「もしかして、私より手先が器用かもしれないな?」
「うん! おいらの方がうまい!」
「そうなのか。なら今日は李逵に作ってもらえば良かったなぁ」
「……でも! でも! ……宋江……のアニキも、大したもんだぜ!」
「李逵。夜だから大声を出したらダメだぞ。ご近所に迷惑が掛かる」
「……うー!」
少し礼儀ができていないが、ニコニコと楽しそうに話す姿が非常に魅力的だ。
悪い子には思えない。
そう確信した宋江は、いくつか金を包むことにした。
(職が見つかるまで我が家に居るといい……と言いたいが、それは難しい。少し多めに金を渡して、今夜泊まれる宿を見つけてもらおう。真夜中になる前に、今日の宿を探しに行くよう言わなければ)
梨を飲みこんだ宋江は一旦、腰を下ろした。
金を渡して行かせるのは早い方がいい。けれど昼間から動き続けていたせいか、急な疲労に襲われる。休憩が必要だった。
そのまま数秒、気絶した。
「うー? 宋江のアニキ? どうしたんだよ?」
キョトンとした李逵に両肩を揺すぶられ、ようやく宋江は椅子の上で気を失ったことに気付いた。李逵もまさか数分のうちに宋江が眠ったとは、思わない。
「……李逵。金をやるから、今日の宿を……探しに行き……」
昼間から動き回ったからか、水浸しになったせいか、いや、これは。
体が急激に熱くなる。風邪を引いたか。いいや、もっと単純で、判りきった現象が起きる。
少しずつ、『あの時間』が近づいていた。
「李逵……少し、待っていなさい……」
立ち上がり、二階に向かおうとする。その足が、もつれた。
「アニキ!」
唐突に人が倒れかけたら、心優しい李逵はもちろん抱きとめる。
心配して顔を覗く李逵の大きな胸板に寄りかかりながら、何とか動こうとした。
だが、力が入らない。
どうしてこんなに急激に体温が上がっていくのか。なぜ震えてしまうのか。
理由など、考えるまでもない。今までも、そういうものだった。
(……酷い。どうしてあと数分! この子を見送るまで待ってくれないんだ!)
三ヶ月に一度、体が使いものにならなくなるのは判っていた。
飲みたくない粉薬を常備していた。大勢が笑いかけてくれても、敢えて一人で過ごせる釣りを選んだ。全部このときの為だった。
なのに、どうして。
食事をして、あと数分で彼を見送って、鍵を掛けて倒れる、つもりだったのに。
後悔しても遅い。宋江は薬を探した。
少しでも抑制し、せめて李逵がこの家から出て行くまでの間を堪えないと。
そして、気付いてしまう。
――胸に隠していたありったけの粉薬が、川に流れてしまったことに。
「宋江のアニキ?」
サアッと背筋が凍り、同時に、体の芯はドクドクと熱くなっていった。
「宋江のアニキ! 寝床、どこ?」
言葉も無く息が荒くなっていく姿を見て、李逵が動揺を始める。
彼の優しさを押し退けようとするが、巨体を動かせるほどの力は無い。
首を振るい、近づくなと訴える。
だが強引に太い腕を払うと反抗するように、ひょいっと宋江の体を抱きかかえた。
「アニキ、寝床、どこ? 連れて行ってあげる!」
李逵に抱き上げられ、宋江は息を呑んだ。間近の香りに頭が真っ白になる。
「んー? こっち? こっちの部屋?」
次第に体が震え始めた。
震えているが嫌悪は無い。体臭を嗅げば嗅ぐほど何とも言えない幸福感に包まれ、逞しい腕に縋りついてしまう。
そうしているうちに李逵は寝台のある部屋に見つけ、宋江を運んでいった。
「ぁ……ここは……違う……」
李逵が運んだ部屋は、未だ片付けられない亡き妻に与えた私室だった。
帰ってこない彼女を待つように清潔に保たれた寝台がある。
そんな事情を「一人で暮らしている」と聞かされた李逵は知る訳がない。寝台がここにあるのだから、ここが寝床に違いないと思って仕方がなかった。
「あ……。ぅん……」
体が寝台に下ろされ、李逵が離れていく。
快感までが遠退く気がして、宋江は寂しい気持ちに襲われた。性の快感に呑まれつつある証拠である。
「アニキ? 苦しい? 苦しいの、お腹? 背中?」
嗚咽をもらす宋江を見た李逵が困惑し、丸くした宋江の体を撫でた。
優しさでしてくれたことだと幼い表情を見れば判る。しかし、
「触ら、ぁっ、ぁあああ、ん、んっ!」
ただ触れられただけで、宋江は発情した声を上げてしまった。
「あ、アニキっ?」
ここから立ち去るように彼に告げなくては。
宋江は何度も深呼吸を繰り返し、顔を上げた。
荒い呼吸のまま顔を上げて捲し立てようとしたとき、気付く。
李逵もまた、気遣いながらも真っ赤な顔をしていた。
宋江自身の荒い呼吸のせいで気付かなかったが、李逵もハアハアと、息苦しそうに喘いでいた。
(ああ、なんて……)
そして元より腰巻をしていただけの李逵は、宋江を寝床まで抱えて連れてくる間に巻いていた布を放り出してしまったのだろう。
丸裸になっている。
李逵の逸物は、既に勃起していた。
(なんて……大きい……)
斜め上に反り返り、目に焼き付いて離れないほどの猛々しい巨根。
それを目にしてしまった宋江は、体の奥がズンと重くなるのを感じる。
(大きい……。見ただけなのに、こんなに反応してしまうなんて……)
唾を飲んで、奥に響くものに耐えた。衣服を着てここから去れ、その一言が、言えない。首を上げるのが精一杯で、昂る体温が逃亡を阻止していく。
「なあアニキ。熱いの? 汗、凄いよ」
ハアハアと自分が喘いでいることにも気付いていないのか、李逵はゆっくりと大きな手を、顔を上げた宋江へと伸ばした。
首元に指を這われる。顎をなぞった後に、着物の中へ指を滑り込ませてきた。
熱いなら脱げばいい。そうすれば楽になれる。単純な考えだった。
「あぁぁ、あ、ぅぅんん」
しかし恐ろしく敏感になった肌は、撫でられただけなのに嬌声を上げてしまう。
体を捩らせて喘ぐなんて、何でもないと言おうとしても説得力が無かった。
(触るだけで……気持ち良くなれる……)
いつもの発情期、これもいつも通り。全身が性感帯になったかのように敏感になり奥を掻き混ぜてと懇願したくなるほど、欲しがってしまう。
いつものことであり、いつもなら一人で我慢する。
だけど目の前に男が居た。それだけでいつもの対処が出来ないでいる。
(ダメだ……もう何も考えられない……ただ、その大きいモノが、欲しい……)
宋江は太い腕を取り、熱そうに息を吐く全裸の男を寝台に引き寄せた。
眼前の大きく黒いモノに、唇を寄せる。
「ア、アニキ?」
体ばかりが大きい李逵に、どこまで知識があるか宋江は知らない。それでも身勝手に己の獣を解放するべく、舌を這わせた。
(欲しい……これが……ああ、臭いが、誘う……)
体を清めた後でも興奮して香る男の匂いが堪らない。一度虜になると止まらず、既に膨れ上がった李逵の亀頭を丁寧に舐め上げていた。
若さなのか李逵の逸物はすぐに硬化を始める。舌で感じる硬さに、媚肉が疼いた。
「ぁむ、んん……んくぅ」
肉棒を突然しゃぶられて李逵は動揺の声を上げた。だが、跳ね退けはしない。
宋江の唇と舌の柔らかさに目を丸くして、ヒクヒクと震えていた。
「あ、アニキぃ……?」
「んんん、んんんぅ……ぷは……ぁむぅ」
口内いっぱいに大きすぎる肉棒を咥え直し、しゃぶり上げる。
欲しいと思い続けたせいなのか、口内は唾液で溢れ、味わうのを止めない。
「ぁん、んむぅ、んんん、んちゅっ……」
必死にしゃぶった。ぴちゃぴちゃと音を立て、肉棒を感じることだけに没頭する。
「あっ、アニキっ? ぅっ、んんっ」
顎が外れてしまいそうな巨根を咥え、ズルズルと吸い込む。
無我夢中に何もかも忘れて肉棒を求めた。全ては、火照る下半身を鎮める為の前準備だった。
「あぅっ、なに、アニキ、ぺろぺろして……何してるんだよぉ」
(私は、何も判ってない子を食べようとして……。でも、止まらないんだ……)
李逵は不安な声を上げながら、下半身から頭を離そうとしない宋江を見下ろしている。
最初は突っ立っていたが、次第に寝台へ腰を下ろした。
いつしか胴を仰向けに倒して、宋江の責め立てを受けるようになっている。
「熱い、熱いよぉ……変だよ、おいらまで、体中が熱くて……」
力だけなら李逵の方が強い。だが次から次へと性感帯を刺激され、未知の感覚に襲われている彼は、ビクビクと震えて怯え続けていた。
(お前を発情させてしまったのも、私のせい……。ああ、すまない、もう!)
膨張しきった黒い逸物から、口を離す。
宋江は李逵の厚い胸板に口付けするため、身を捩りながら上を目指した。
「な、何をして……アニキぃ……」
胸の先端を舐められることなんて、この男はあっただろうか。
考えながらも宋江は李逵の固い体に舌を這わせる。
ぺろぺろと体を舐めながらも、身に着けていた物を全て払い、成長しきった肉棒の上に跨った。
(硬い……大きい……。これを受け入れるのは、二十年ぶりになる……)
名も知らぬ男を獣にして貫かれた少年時代から長い月日が経つ。今もまた、他人を食らって快楽を得ようとしていた。
恐怖心はある。だが体は急かすように炎を上げ、止まらず走れと訴えていた。
天を向いた若々しい肉棒を、宋江は自分の中へといざなった。
「あ、ぅん、ぁぁぁ……!」
「っ、アニキ、んううう」
強烈な圧迫感。大きさも硬さも宋江の中を満たす。凄まじい衝撃と共に、挿入した瞬間に擦れた感覚が、全身を痺れさせるほどの快楽となる。
自我の崩壊が始まった。
「あっ、ぁぁぁ……ああっ、んああ……」
李逵の大きいモノが、ようやく中をいっぱいに満たしてくれる。
二十年間、発情期のたびに一人で過ごす宋江は、ただ奥から生じる熱に耐える日々を送っていた。
清純を良しとした父の教育は、耐えることだけしか教えてくれなかった。
どんなに欲しくても欲しがってはならない。
体の奥が刺激を求めて悲鳴を上げていても、それは自慰ではなく自涜である。
そう教えられ、熱くなる箇所へ指を進めてはならず、ひたすら耐えるしかなかった。
「あっ、ああっ、いいっ、イイ、イイ……!」
しかし、ようやく奥を抉ってくれるモノを得られた。悦楽を求め、腰を振り立てる。
「んぁっ! あああっ、ぁあ……!」
宋江は二十年間も焦らされていた苦痛を、解放した。なりふり構わず腰を上下させ刺激を強請る。
李逵はというと仰向けに横たえたまま、初めての快感を味わっていた。
目を瞑りながら、困惑しながらも、甘く熱い息を吐き続けている。
彼も気持ち良いのだと覗き込むと安心し、より激しく動きたいと体を弾ませた。
「ぁあっ、はあぁん、李逵、きもちい、いぃ、んん……!」
「きもち……きもちいい、の……? おいら……おいら、もっと!」
身を横たえていた李逵が、ガッと両手で宋江の脇を持つ。
グラグラと乱暴に揺さぶり、もっと激しく波打つように自らの腰を、上へ突き上げた。
「ひあっ、ああっ、動っ……ああああんっ!」
高く声を上げた。李逵の表情が、和らぐ。気持ち良いところに当たったようだ。
李逵は寝そべりながら腰を揺らし、騎乗する宋江をしたたかに攻めたてようと、更なる力を加えた。
「ぁっ、激し、いいっ、イイイ……!」
腰が弾むたびに体の奥が悦ぶ。呼応するように寝台がギシギシと音を立てた。
その音に、宋江はハッとした。
巨根の圧力に呼吸がままならないほど、普段なら出さない声を出して悦んでいることに、気付いてしまう。
(妻の部屋で……なんて、はしたない……!)
この寝台は、自分の物ではない。ここは普通の壁、普通の窓がある部屋だ。
しかもまだ真夜中ではない。
なのに、快楽を求めて喘ぎ散らしているなんて。
妻の為に残していた場所だった。だというのに汗まみれで、涎まみれで、精液を強請ろうとしている。
誰かを大事にしたいという想いを塗り潰してでも、自分を犯してもらうことばかりを考えてしまった。
(私は……もう、私でなくなっている……)
だけれども、欲望を絶つことが出来ない。
侵入している肉棒を咥え込んだ体が、言うことを聞いてくれなかった。
(やめてくれ……嫌だ……嫌なのに……)
娼婦のように淫らに踊り、男とは思えない淫乱な声を放っている。
今日会った男を招いて押し倒し、男棒を一心不乱に貪る他に、逃げる道は無い。
(嫌なのに……もっと欲しいと、私の中が叫んでいる……)
涙を流して、イキ狂いたいという性の悦びを堪能するしかなかった。
「うー、アニキ……! おいら、もうっ!」
躊躇した宋江が動きを緩めたからか、焦らされた李逵が、中を激しく抉る。
男棒に跨って腰を躍らせていた宋江を転がすと、今度は李逵が宋江の体に乗って覆い被さった。
「んあっ……ふぁ、ああああぁ!」
李逵の体格は、宋江には見上げるほどに大きい。
その巨体に押し潰されては、何も見えなくなり、身動き一つ取れなくなる。
肉棒が引き抜かれていく。宋江は何もできない。
だが再び、中へと沈んでいく。
今度は李逵自身が、自由に腰を動かす番になった。
「んあっ! あぅっ! やっ、あっ! あああっ!」
太い両腕がぎゅうっと全身を抱き締め、浮いた腰を、ズンズンと交差し始める。
抱擁されて拘束された宋江は、自分の歩度より何倍も激しい、壊れてしまうのではないかというぐらい乱暴な上下運動に翻弄されることになった。
「ま、待って、ぁっ! ああっ! んああっ! あああんっ!」
逃げようにも巨大な黒い塊は宋江を縛りつけ、中を滅茶苦茶に刺激していく。
口を閉ざそうにも、抱き締められて手で隠すこともできなかった。
(声が、我慢、できない! 激しすぎる、気持ち良すぎる……!)
「アニキっ、アニキ……あにきぃ、おいら、おいらぁ!」
本能の命じるままに押し潰して喘ぐ李逵すら、涙を浮かべて、腰を震わせていた。
「だめっ、ああっ、ああああ、ぁぁぁぁ」
痙攣が起きる。突き上げられて駆け抜ける快楽が、頭を真っ白に染めていく。
「イッ、イっちゃ……!」
涙をボロボロと零しながらも、嵐のように激しい仕打ちに悦んでいる宋江は、喉を反らし、絶頂を叫んだ。
「イイッ、イク! んああああぅ、イクうぅッ……!」
――これほどの絶頂を味わったのは、初めてだった。
忌々しい発情の中で、満足した快感を得たことなどなかった。
初めての発情した二十年前。父に『清楚こそが善』と教えられ、忠実に守る日々が始まった。
発情期のたびに悶えた。しかし快楽を禁じられていたため、発情が終わるまで訪れることのない絶頂と戦う七日間を過ごしていた。
地下の自室で、一人で寝台の上、襲い来る快感と一人で戦う日々。
ジリジリと快感が登り詰めてきて、その発作から解放されたいのに、身を縛ってひたすらに耐え続けた。
イキたい、イキたい、絶頂したい、イってしまいたい、自分一人では絶頂寸前で止められて、イキたくてもイキたくてもイケずにいて、それが何年も続いて――。
(でも、イって、しまった……。ようやく、地獄のような寸止めから、解放された。こんな気持ち良って、一度でも味わってしまったら……)
事務的に男性器から精を放ったことはある。人間として、男として、女を抱いた日もある。
けれど悶え狂う日々の中で、『本物の快楽』を得られたのは今日が初めてだった。
(こんなの凄すぎて……もう二度と、普通の人間に戻れなくなる……)
肉棒を中から抜き取られたとき、ドプリと、白い液体が溢れ出る。
放出される精液が不思議な快感となり、宋江は一段と全身を痙攣させた。
(また……体が欲がっている……。ああ、私は一生、淫らな獣のままだ……)
黒く太い腕に抱かれたまま、涙を拭うこともできず、胎動する熱を味わう。
獣のような声を上げて精液によがり狂ったが、不快感が無い。
その上、「まだ精を求めよ」と、全身が訴えているほどだった。
「アニキ……アニキ、おかしいよ、おいら……まだ熱いんだ」
李逵もまた、精神を侵されていた。
精を放った後だというのに肉棒は衰えない。それどころか時が戻ったように、また繋がりを求める大きさに膨れ上がっていた。
体も熱く、蕩けた目をしている。
元から野生じみた男だったが、さらに彼は雄々しく変貌しているようだった。
「ああ……私も熱いんだ……李逵、助けてくれ……」
李逵の肌へ、そっと口付ける。
もっとおくれと懇願すると、李逵は再び宋江の小柄な体を正面から持ち上げた。
「り、李逵。お願いがある。二階へ、二階へ連れて行ってくれ」
「ここじゃ、ダメ? おいら……また、したいよ」
「二階はもっと良い部屋がある……ここはダメなんだ、だから、ぅ、んんっ!」
宋江を正面から抱え直した李逵は、両手で宋江の臀部を左右に開くと、先ほどまで肉棒を突き刺していた穴へ再び自らのモノを埋めていった。
「ぁぁぁぁ、嫌っ、ここでは、あ、んああっ!」
自分で跨って挿入したときとは違う。物のように扱われ、心の準備もままならないうちにズプリと沈められた。
宋江は李逵の背に腕を伸ばし、強く抱きつき、悶える。
「判った。二階は良い部屋。じゃあおいら、アニキを連れて行く」
「んあっ! んああぁ! やぁっ、ひぁあっ!」
アソコを差し込んだまま、李逵が寝台から立ち上がり、宋江の体を落とさないように抱き締めながら歩き出した。一歩一歩と進むごとに、宋江の中を抉りながら。
「やぁっ! ああっ! だめっ! んひぃっ!」
階段を一歩登る、すると宋江の体が奥まで貫かれる。
一歩進めばグチュッ、また一歩進めばグリリと。
李逵が歩くたびに野太いモノを咥え込んで、何度も何度も叫び上げた。
あまりの刺激に必死に体を捩る。だが二本の太い腕と逞しく成長しきった肉棒が小さな体を離さない。
その結果、二階に上がるまで、宋江は何度もイキ散らした。
抱きしめられながら、一歩ずつ、イキまくる。
全体重が肉棒で支えられ、エラが抉るように掻き乱し、締めつける媚肉が絶頂を繰り返した。
厳重な扉の寝室に辿り着いた頃には、李逵の腹に何度も精を放っていた。
「アニキ、着いたよ。ここでまた……いいよね?」
寝台に下ろされる。穴から李逵のモノが引き抜かれた。
次の行為に移るただの小休止。
なのに、凄まじい心細さを覚えてしまっている。
(私は堕ちる……もう何も考えられない。まだ欲しい、けれど、この子まで堕としてしまうなんて……。ああ、許してくれ)
思考も全身も性器として完成した。
光の無い部屋で、性を貪る七日間が始まった。
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
公開凌辱される話まとめ
たみしげ
BL
BLすけべ小説です。
・性奴隷を飼う街
元敵兵を性奴隷として飼っている街の話です。
・玩具でアナルを焦らされる話
猫じゃらし型の玩具を開発済アナルに挿れられて啼かされる話です。
エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので
こじらせた処女
BL
大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。
とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
小さい頃、近所のお兄さんに赤ちゃんみたいに甘えた事がきっかけで性癖が歪んでしまって困ってる
海野
BL
小さい頃、妹の誕生で赤ちゃん返りをした事のある雄介少年。少年も大人になり青年になった。しかし一般男性の性の興味とは外れ、幼児プレイにしかときめかなくなってしまった。あの時お世話になった「近所のお兄さん」は結婚してしまったし、彼ももう赤ちゃんになれる程可愛い背格好では無い。そんなある日、職場で「お兄さん」に似た雰囲気の人を見つける。いつしか目で追う様になった彼は次第にその人を妄想の材料に使うようになる。ある日の残業中、眠ってしまった雄介は、起こしに来た人物に寝ぼけてママと言って抱きついてしまい…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる