サファヴィア秘話 ―妖花満開―

文月 沙織

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風となっても…… 一

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「先生、またここへ来ていたのかい?」
「おお、坊主、茸は取れたのか?」
 ディアニスの問いに、村の腕白少年は、手にしていた布袋を振る。 
「いっぱい取れたよ。……先生、また都の方を見ていたのか?」
「ああ……」
 空は赤く染まり、遠くに烏の影が見える。王都より遠くはなれたこの村は平穏そのものだ。
 周囲の反対を押し切り、家を捨ててこの地へみずから隠遁したことは、結果的にはディアニスにとって良かったのかもしれない。
 ディアニスはこのひなの地につつましい屋敷をかまえ、そこで数人の使用人とともに穏やかに晴耕雨読の日々をいとなんでいた。といっても、ディアニス自身はさすがに畑仕事をすることはなく、近所の子どもたちをあつめて読み書きを教えているぐらいだが。
 当初は泣かんばかりに反対していた母も、都で政変が起こった今は、ディアニスを追ってこの村へ避難し、今では屋敷の母屋でしずかに暮らしている。父はすでに亡くなっていた。
 ディアニスが都をはなれて、今年で十五年になる。
 今もあの妖しい夢の世界の記憶に悩まされることもあるが……、彼はもはやこの世にいない。 
 ラオシン=シャーディーはあれから五年後に、流行病はやりやまいで亡くなった。
 ラオシンだけではない。大人も子どもも、富める者も貧しい者も疫病神が見逃してくれることはなく、都では大勢の人が亡くなり、じつに人口の三分の一が減った。ディアニスの父もそれで亡くなった。
 病への恐怖のあまり、人々は噂した。
 これは神の罰だと。王に徳がないからだ、と。その噂の出所が王太子の親族であることを、ディアニスは旅の吟遊詩人がもたらした噂から聞いた。
 アイジャル王には形ばかりの正妃がいるが、彼は妻であるその妃にも、生まれてきた息子にも、ほんの少しも愛情を持つことはなかったという。そして、ひたすら従兄に異常な執着を燃やし、人倫の道にもとる行為を平然としていたのだから、妻子から恨まれるわけだ、と詩人は笑っていた。
(なんでも、真昼間から、侍従たちが目のやり場にこまるようなことを平気でしていたそうだぜ。あんなことしていたら、そりゃいつか人望をなくすだろう)
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