91 / 94
風となっても…… 一
しおりを挟む「先生、またここへ来ていたのかい?」
「おお、坊主、茸は取れたのか?」
ディアニスの問いに、村の腕白少年は、手にしていた布袋を振る。
「いっぱい取れたよ。……先生、また都の方を見ていたのか?」
「ああ……」
空は赤く染まり、遠くに烏の影が見える。王都より遠くはなれたこの村は平穏そのものだ。
周囲の反対を押し切り、家を捨ててこの地へみずから隠遁したことは、結果的にはディアニスにとって良かったのかもしれない。
ディアニスはこの鄙の地につつましい屋敷をかまえ、そこで数人の使用人とともに穏やかに晴耕雨読の日々をいとなんでいた。といっても、ディアニス自身はさすがに畑仕事をすることはなく、近所の子どもたちをあつめて読み書きを教えているぐらいだが。
当初は泣かんばかりに反対していた母も、都で政変が起こった今は、ディアニスを追ってこの村へ避難し、今では屋敷の母屋でしずかに暮らしている。父はすでに亡くなっていた。
ディアニスが都をはなれて、今年で十五年になる。
今もあの妖しい夢の世界の記憶に悩まされることもあるが……、彼はもはやこの世にいない。
ラオシン=シャーディーはあれから五年後に、流行病で亡くなった。
ラオシンだけではない。大人も子どもも、富める者も貧しい者も疫病神が見逃してくれることはなく、都では大勢の人が亡くなり、じつに人口の三分の一が減った。ディアニスの父もそれで亡くなった。
病への恐怖のあまり、人々は噂した。
これは神の罰だと。王に徳がないからだ、と。その噂の出所が王太子の親族であることを、ディアニスは旅の吟遊詩人がもたらした噂から聞いた。
アイジャル王には形ばかりの正妃がいるが、彼は妻であるその妃にも、生まれてきた息子にも、ほんの少しも愛情を持つことはなかったという。そして、ひたすら従兄に異常な執着を燃やし、人倫の道にもとる行為を平然としていたのだから、妻子から恨まれるわけだ、と詩人は笑っていた。
(なんでも、真昼間から、侍従たちが目のやり場にこまるようなことを平気でしていたそうだぜ。あんなことしていたら、そりゃいつか人望をなくすだろう)
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説



イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる