サファヴィア秘話 ―妖花満開―

文月 沙織

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馬上の花 一

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 一瞬の追憶から醒めたアイジャルは、あらためて腕のなかの麗人の蜂蜜色にかがやく肌を見つめた。
 決して追いつけない、決してかなわない、そう信じていた年上の従兄が、今、おのれの腕のなかで信じられない姿をさらしている。激しい高ぶりが襲う。
 まだじゃ……。
 興奮の果てに絶頂を覚えても、胸内のなにかがまだ足りない、とアイジャルに訴えてくる。まだ、王者は満足できないのだ。


 錯乱するほどの悦楽のなかで、我をうしなっていたラオシンの耳に、物音が響いてきた。
(ああ……。私は、また墜ちたのだ……)
 悲しい物思いとともに、頭は半分覚醒してきたが、まだ半ばは夢の世界にいた。そのことは、ラオシンにとって救いだった。
 全身がだるく、知覚がはっきりせず、桃色の霞の世界を漂っているようだ。
 指一本うごかすのも大儀だった。だから、最初は、身体に感じる腕が自分を引き上げてくれるのをありがたく思ったぐらいだ。自分で動かずにすむからだ。
 ゴトゴト、となにかの音がまた響く。
 考えるのも億劫なラオシンは、甘美な陶酔の眠りに身をあずけようとした。
(そうじゃ、そこに置け)
 そんな声も聞こえてきたが、心は逃避をえらんだ。
 カチャカチャ、と金属の音らしき音もたつ。
 人の腕が……、幾つもの腕が伸びてきて、ラオシンはおのれの五体が宙に浮くのを感じた。さすがに、このときになって、意識がはっきりとしてきた。
 だが、ラオシンは知りたくなかった。今、自分が何をされているか、何をされようとしているか。想像するだけでも恐ろしかった。
 これ以上は気づかないふりはできない所まできていたのは、両腕にかすかな痒みにも似た痛みを感触を感じたからだ。
 腕が引っ張られ、綱のようなものが巻きついてくるのが感じられる。
(ああ……)
 ラオシンが完全に目を開けたとき、まっさきに目の前に入ってきたのは、白い物だった。  
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