サファヴィア秘話 ―妖花満開―

文月 沙織

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「はぁっ、ああっ……ああ!」
 のけぞり、脚で小男を抱きしめている王妃は、人ではなかった。人の皮を脱ぎ去って、女の恐ろしさ、おぞましさを嫌というほど見せつけてくる。アイジャルは戦慄した。
 宦官を己の欲望をしずめる道具にし、よがっている様を見ていると、サファヴィアの南端に咲く、人食い花と呼ばれるラフレシアを思い出させられる。王の寝所となる後宮に、こんなものがあって良いのか……。
 当時のアイジャルはまだ知らなかったが、サファヴィアでは後宮の女たちが、ときに宦官相手に痴戯にひたるのはよくあることで、身分高い女官や侍女が心づけを払って、舌や指で宦官に奉仕してもらうなど日常茶飯のことであり、宦官たちにとってはそれも勤めのひとつとされているという。このことは後宮の公然の秘密で、相手が宦官であるならば、発覚したところで重い罪には問われない。それどころか、指技、舌技にすぐれた宦官などは、〝按摩師あんまし〟とよばれ重宝され、過去には貯めた心づけで自分の家を買った者もいたぐらいだ。
 だが、それはよくある話、後宮の秘めた因習だと割り切るには、アイジャルは幼く、無垢だった。
 息を吐くことも忘れ、母親の痴態に凍りつき、とにかく本能でこの場を去らねば、とおずおずと足を動かしたとき、気配を感じたのか、ジャハギルが右目をさまよわせた。
 舌を動かしながら、その不気味な生き物は、目をこちらに向け、刹那、にんまりと目だけで笑った。
 そう、笑ったのだ。
 激しい羞恥と恐怖と怒り、そして屈辱が若き王子の胸を焼き焦がした。
(ごらん、王子様、おまえの御母上は、俺の舌で、うんと楽しんでいらっしゃるのだよ)
 そう、宦官の目は云っていた。
 悲鳴をあげなかったのは奇跡だった。
 アイジャルは泣きながら廊下を走り、自室へ戻った。途中、二、三人の侍女とすれちがったが、彼女たちは驚いたのか声もかけなかった。アイジャルの様子に尋常でないものを感じたのだろう。
 アイジャルは自分の寝台に戻ると、掛け布のなかで怯えた小動物のようにちぢこまり、泣きじゃくりつづけた。
 遠く、どこかから場違いなほど雅な音楽の音色が響いてくる。
 主殿となる王の宮殿で、宴がくりひろげられているのだ。今宵の宴は公式行事ではなく、王の希望で開かれた私的なもので、王妃は具合が悪いからと出席せず、アイジャルも呼ばれることはなかった。その宴には、舞にすぐれた女たちがその芸を披露し、美しい侍女たちが笑いさんざめき、武芸に秀でた勇将や、学問にすぐれた泰斗たいとたちが玉座のまわりにはべっているのだ。行く末はこの国を背負う男たちのなかに、ラオシンもいたことだろう。父王は神経質で蒲柳ほりゅうたちがある息子よりも、健康で明朗な甥を愛していることは、周知の事実である。
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