サファヴィア秘話 ―妖花満開―

文月 沙織

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 どうあっても己が手に入れられないものをすべて持っている者に対しての恨みの目である。ジャハギルにとっては、ラオシンの持つ悲劇的な美も、妬みの理由のひとつになるのだ。 
「はぁ……!」
 ラオシンが与えられた刺激に啜り泣きながら、逃れようと背を必死に伸ばしたが、アイジャルは許さず、両手を引っぱった。
「ラオ、今一度素直になって感じて見せろ。ラオはこうして皆に見られて恥ずかしがりながら達するときが最高に美しいのじゃ。さ、いちばん美しい顔をしてみせろ」
「い、いや……だ!」
 チッ……、と王者にあるまじき苛立ちを込めた舌打ちの音がひびく。
「しょうのない強情者め」
 みずから広げた下肢の上に、アイジャルはラオシンの腰を強く寄せる。
「ああ……!」
 すでに一体となったような二人の身体はさらに密接し、ラオシンはあまりの刺激のつよさと、限界を超えた羞恥の激しさに泣き出した。
「はぁ! ああっ、あああっ!」
 髪を振り乱し、困惑の極致にあってもなお、本能にかされるようにして脚を閉じようとしても、背後の王はけっして、最後まで許してはくれなかった。
 下賤の者たち、それも自分を妬み憎む者たちの前で、ラオシンは我をうしなうところまでふたたび追い詰められていく。
「ああっ、い、いや! もういやだ!」
 と、口では訴えながらも、ラオシンの全身が悦楽に燃えていることは一目瞭然だった。隠しようがないからだ。
 そして見る者たちも、もはや誰も正気でいられなかった。
 ささやかな妬みなど忘れるほどに、ラオシンの壮絶な姿にレミもジャハギルもすっかり魅入られてしまっていた。
 人の血を吸って月夜に咲いた花の精霊のように、見る者たちの心をとろかし、狂わせる……あの、伝説の妖花アラウネがそこに咲いていた。
 鮮血をあびて真紅に染まった花びらのなかから生まれた蠱惑的な美女……月夜に咲くその妖花の精を見た者は魂を奪われてしまう、と遠国からきた吟遊詩人は語っていたが、むろん本当に見た者などいない。その伝説の妖花が絢爛と咲き誇っているのだ。
「はぁっ! ああっ、ああっ! も、もう、もう……」
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