サファヴィア秘話 ―妖花満開―

文月 沙織

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 ほう……、と溜息のさざ波が立った。
 麗人というものは、何気ない一挙手一投足が見る者の心を騒がせるものだということを、あらためて面々は思い知らされた。 
 ジャハギルは食い入るようにラオシンの艶姿を見つめ、レミは恨みをふくんだ目線を送ってくる。
 舞踏家のジャハギルにしても、旅芸人の一座で花形だったレミにしても、肉体をひとつの芸術作品にたかめ、一挙一動で空気に波を起こす卓越した人種の価値がわかるだけに、その目には憧憬と嫉妬の火がちらちらと見える。
 常人が、五年、十年の修練をへて得ることのできる動きを、ラオシンは生まれながらに備えていたのだ。人によっては一生努力しても得られない者もいるというのに。
 しかもその顔は絵のように美しく、五体は、これほどの荒虐のなかでも、若く瑞々みずみずしく、肌はつやをふくんで張りつめ、全身巨大な玉のように、まぶしいほどに輝いている。唇からほとぼしる哀願をふくんだ声も、悲しい歌のようにたえなる調べで、幸か不幸か聞く者の嗜虐心しぎゃくしんをよけいにたかぶらせる。
 閉じた瞼からはあらたな涙があふれてきらめき、肌に浮かんだ汗粒は肌の上で玉のように転がり、振り乱れた黒髪が首にからまる様は凄艶せいえんの一言だ。
 世にも素晴らしい見世物であり、芸術の神の手によって描かれた一幅の名画のような光景である。
 しかも悶えるこの絶世の美青年は、高貴な生まれ育ちであり、性奴隷に堕とされても肌の下にながれる紫の血をかして見せつけてきそうなほどに品位を失ってはいない。
 さらに聡明で武勇の誉れもたかく心映こころばえも美しく、かつては国内のみならず近隣諸国にもその名声を聞かせ、異国の大使がサファヴィアを訪問した際には、国王の次には、当時の王太子アイジャルを差し置いても拝謁を急ぎ、それもまた亡き母后の恨みを深めさせることになった悲劇の王子ラオシン=シャーディー……。
 美し過ぎ、かしこ過ぎ、愛され過ぎたがゆえに、憎まれ、堕とされた悲運の定めの貴公子。そして、その不運も悲運も美という力に変えて、今ここで見る者を圧倒しているラオシン……。
 見つめるジャハギルの目に汚れた欲望と羨望が燃える。
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