サファヴィア秘話 ―妖花満開―

文月 沙織

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 かつて、陽のもとで凛々しくすこやかに生きていたときの王子ラオシン=シャーディーの闊達な魅力は、たしかに今の奴隷と堕とされたラオシンには見られないかもしれない。
 だが、今のラオシンには、運命の転変のなかで人を憎み恨み、天を呪い、日影の身に堕とされた悲嘆ゆえに、身にも心にも妖しい陰影を浮かべ、いつしか内に秘めていた退廃の美が引きずりだされ昇華させられ、あふれんばかりに全身から妖美さがみなぎっている。この世には、日影に堕とされて、不幸に染まって尚、いや、影を帯びてこそ美しさを増す人種というのがたしかにいるものなのだ。
 どちらを美しいかと問われれば、健全な人ならば、かつてのラオシンを選ぶだろう。だが、今のラオシンの妖美的な美は、滅多に見つけられるものではない。
 かつてのラオシンの美は陽のもとにあふれた当たり前の、ありふれた美であったが、今のラオシンの美は、見ようと思ってもなかなか見ることのできない世にもまれな美である。
 そんな、この世にいくつあるか知れない稀少な美を手に入れることができるのは、世界有数の後宮や遊里を我が物にできるだけの富と財力を持つ、やはり数少ない選ばれた数人の最高権力者のみであろう。
 アイジャルは満足そうに目を細めた。自分はまさに選ばれた人なのだ、という自負ゆえの笑みかもしれない。
「ラオは悔し泣きしているときが一番美しい」
 アイジャルは右手の人差し指で、そっとラオシンの涙に濡れた頬を突く。
「いや、麗しい。余はラオのこの素晴らしい顔が見たく、これほど苦労をしておるのじゃぞ。ラオを最も美しくさせるために」 
 帝王が巨万の富をあたえて側室愛妾に贅美ぜいびをゆるし、美しく花開かせるように、これほどの壮絶無惨な残虐行為をくりひろげ、世間の悪評もどこ吹く風とやり過ごし、アイジャルはラオシンという〝寵姫〟を開花させているのだ――というのが彼の理屈なのだろう。
 ラオシンにとっては理不尽きわまりない話であるが、今はどうあってもこの拷問から逃れることはできなかった。
「そんな、そんな……」
 無念と絶望にラオシンは滂沱の涙を流したが、それもまた憎い男に、蜜をあふれさせた薔薇を鑑賞するような満足と興奮を与えただけだった。
「さ、ラオ。余の可愛いラオ。余を楽しませてくれ」
「ああ……」
 首を振って拒絶したが、今度は額に接吻が降ってくる。
「しょうのない強情者が。さ、言うのじゃ」
「ひっく……」
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