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五
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一番辛いのは、今思い出しても信じがたいことだが、あのとき、いかがわしい音律に乗って、みずから手足を動かし、男たちの目を誘い、情欲を刺激するような動作を取ってしまったことだ。
(死にたい! 死んでしまいたかった!)
どうしてもそのときの淫猥な音と、その場を埋めつくしていた麻薬をふくんだらしい魔香が耳や鼻によみがえってくる。聴覚と嗅覚を刺激されて、脳を犯されていたのかもしれない。
だがどう自分自身に言い訳してみても、あのときラオシンは衆人環視のなかで、男が決してしてはならない浅ましい動きをくりかえし、酔客たちのまえで猥褻な舞踏にみずから酔いしれ、我知らず官能に燃えててしまったのだ。
そうだ。あの激しい屈辱と恥辱のなかで、ラオシンは……感じていたのだ。
「まぁ、殿下ったら、怒らないでちょうだいよ。本当に、本当に、あの夜の殿下はお綺麗だったわよ。客たちも言っていたわよ。月の神バリアの降臨祭だったって」
羞渋して身をほそめるラオシンの態度に、加虐欲をあおられたのか、図に乗ったようにジャハギルは得意気につづける。レミは興味津々で目を輝かせている。
「へぇ、殿下は、そんなにお綺麗だったの?」
「ええ、そりゃ、もう。サファヴィアじゅうのどんな高級娼婦だって、あのときの殿下を見たら裸足で逃げだすわね。いいえ、娼婦はおろか、どれほど美しい貴族の令嬢や貴婦人だって、あの夜の殿下の足元にも寄れやしないわよ」
ねちねちと、賞賛という名の打擲の鞭で、ラオシンの神経をジャハギルは打ちつづけた。
ラオシンはジャハギルの一見、友好的に見せた攻撃に唇を噛んだ。
「そのお美しい殿下をめぐって、男たちが莫大な金をかけて競りに加わったのよ。あれは、まちがいなくサファヴィアの傾城町の歴史にのこる一幕だったわねぇ」
感慨ぶかげにジャハギルが宙に目をやり呟くように言う。さまよわせた目線の先には、ラオシンの壮絶に美しいあの夜の妖艶な姿があるのだろう。
「場を盛りたてるために、リリが、若い娼婦が殿下のお召しものを剥ぎ取ろうとしたりするの。そこへ娼館の女主人までくわわって、二人がかりで殿下をいじめるのよ」
(死にたい! 死んでしまいたかった!)
どうしてもそのときの淫猥な音と、その場を埋めつくしていた麻薬をふくんだらしい魔香が耳や鼻によみがえってくる。聴覚と嗅覚を刺激されて、脳を犯されていたのかもしれない。
だがどう自分自身に言い訳してみても、あのときラオシンは衆人環視のなかで、男が決してしてはならない浅ましい動きをくりかえし、酔客たちのまえで猥褻な舞踏にみずから酔いしれ、我知らず官能に燃えててしまったのだ。
そうだ。あの激しい屈辱と恥辱のなかで、ラオシンは……感じていたのだ。
「まぁ、殿下ったら、怒らないでちょうだいよ。本当に、本当に、あの夜の殿下はお綺麗だったわよ。客たちも言っていたわよ。月の神バリアの降臨祭だったって」
羞渋して身をほそめるラオシンの態度に、加虐欲をあおられたのか、図に乗ったようにジャハギルは得意気につづける。レミは興味津々で目を輝かせている。
「へぇ、殿下は、そんなにお綺麗だったの?」
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ねちねちと、賞賛という名の打擲の鞭で、ラオシンの神経をジャハギルは打ちつづけた。
ラオシンはジャハギルの一見、友好的に見せた攻撃に唇を噛んだ。
「そのお美しい殿下をめぐって、男たちが莫大な金をかけて競りに加わったのよ。あれは、まちがいなくサファヴィアの傾城町の歴史にのこる一幕だったわねぇ」
感慨ぶかげにジャハギルが宙に目をやり呟くように言う。さまよわせた目線の先には、ラオシンの壮絶に美しいあの夜の妖艶な姿があるのだろう。
「場を盛りたてるために、リリが、若い娼婦が殿下のお召しものを剥ぎ取ろうとしたりするの。そこへ娼館の女主人までくわわって、二人がかりで殿下をいじめるのよ」
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