40 / 94
三
しおりを挟む
あれほどひどい辱しめと苦痛のなか、もう、とてもこのさき生きてはいけないと思い詰めたものだが、人の身の浅ましさというか、恐ろしさで、地獄でのたうつことにすらこの身は慣れてしまっているのだ。
自害を考えなかったわけではない。
だが、あの忌まわしい宦官ジャハンとのあいだに取り交わした誓いを、あらためてアイジャルからも要求されたのだ。
(もしラオが死ねば・・・・・・、死んで余から逃げるつもりならば、余は叔母上の墓を毀つことになるじゃろう)
さすがに血のつながった叔父イブラエス王子の墓に手を出すことはできないが、義叔母の――それも他宗教への信仰をうたがわれる――の墓なら本当に破壊し、その亡骸を晒すかもしれない。それはラオシンにとっては百回死んでも容認できない行為であり、それを承知で死ぬことは、やはりできなかった。
生きて恥を晒しつづけるしかラオシンの前に道はなかった。
そして、連日連夜、こうしておぞましい調教を受けつづけ、身にも心にも、徐々に、被虐の毒を染みこまされてしまった。いや、内に秘めていた官能を引きずり出されつつあるのだ。
そのことが、ラオシンには何よりも恐ろしかった。
ただいたぶられ苦痛にのたうつだけなら、まだ耐えられたかもしれない。
だが、怖いのは……、本当に一番おそろしいのは、拷問にも似たこの行為を受けつづけているあいだに、わずかずつではあるが、おのれの内にひそむ被虐の悦びを自覚しはじめたことだ。そんな劣情がおのれの内にあったということさえ信じがたい。
だが現に、つい先ほど、感極まったラオシンは、最後の頂点で、悦びの声をあげてしまった。
(ああ……! 私は、私の身体はどうなってしまったのだ……)
懊悩しているラオシンに、さらにジャハギルは酷い言葉を放つ。
「ああ、今思い出してもぞくぞくするわぁ。あのときの殿下のお美しかったこと。夜霧を編んだような漆黒のお召物に黒いヴェール。歩くすがたは本当に月の女神のようだったわぁ。しかも……」
ふふふふ、とジャハギルはいやらしい笑いを作る。
「女神のお尻には蛇紋石が……」
「言うなっ!」
ふたたび全身の血が逆流するかのように燃える。
だが、次の瞬間には、あのとき含まされた貴石の感触が身体によみがえり、ラオシンを戦慄させる。
自害を考えなかったわけではない。
だが、あの忌まわしい宦官ジャハンとのあいだに取り交わした誓いを、あらためてアイジャルからも要求されたのだ。
(もしラオが死ねば・・・・・・、死んで余から逃げるつもりならば、余は叔母上の墓を毀つことになるじゃろう)
さすがに血のつながった叔父イブラエス王子の墓に手を出すことはできないが、義叔母の――それも他宗教への信仰をうたがわれる――の墓なら本当に破壊し、その亡骸を晒すかもしれない。それはラオシンにとっては百回死んでも容認できない行為であり、それを承知で死ぬことは、やはりできなかった。
生きて恥を晒しつづけるしかラオシンの前に道はなかった。
そして、連日連夜、こうしておぞましい調教を受けつづけ、身にも心にも、徐々に、被虐の毒を染みこまされてしまった。いや、内に秘めていた官能を引きずり出されつつあるのだ。
そのことが、ラオシンには何よりも恐ろしかった。
ただいたぶられ苦痛にのたうつだけなら、まだ耐えられたかもしれない。
だが、怖いのは……、本当に一番おそろしいのは、拷問にも似たこの行為を受けつづけているあいだに、わずかずつではあるが、おのれの内にひそむ被虐の悦びを自覚しはじめたことだ。そんな劣情がおのれの内にあったということさえ信じがたい。
だが現に、つい先ほど、感極まったラオシンは、最後の頂点で、悦びの声をあげてしまった。
(ああ……! 私は、私の身体はどうなってしまったのだ……)
懊悩しているラオシンに、さらにジャハギルは酷い言葉を放つ。
「ああ、今思い出してもぞくぞくするわぁ。あのときの殿下のお美しかったこと。夜霧を編んだような漆黒のお召物に黒いヴェール。歩くすがたは本当に月の女神のようだったわぁ。しかも……」
ふふふふ、とジャハギルはいやらしい笑いを作る。
「女神のお尻には蛇紋石が……」
「言うなっ!」
ふたたび全身の血が逆流するかのように燃える。
だが、次の瞬間には、あのとき含まされた貴石の感触が身体によみがえり、ラオシンを戦慄させる。
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説




イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる