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七
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今までにもアラムが下準備にかかわったことは幾度かあったが、道具で弄られたことはまだなかった。アラムにされるのは勿論嫌だが、なによりアラムにそんな下品なことをさせたくない、というのがラオシンの本音だった。ラオシンのなかでは、やはりアラムは清い赤心で自分に仕えてくれるかけがえのない忠臣なのだ。
「なんと、奴隷の分際で主の私をさしおいて命をくだすのか? これは謀反に近いな」
わざとらしく驚いて言うアイジャルだが、その整った顔は、面白くてたまらぬ、というふうに稚気にあふれている。
「どうしてやろうのぅ、この生意気な奴隷を」
どうしてやろう、この奴隷を……。
一瞬、クマヌをはじめ宦官たちは怯んだ顔になっていた。
そんな台詞が、かつてこの後宮ではよく囁かれ、その度に後宮につかえる女たちや宦官はすくみあがったものだ。
残酷そうに言いはなつアイジャルを距離を置いて見る宦官長クマヌの目には、在りし日、後宮を支配した王太后エメリスの残忍な怒り顔が浮かんでいたかもしれない。
たしかにサファヴィア全土は王のものだったが、唯一後宮だけは王妃のものだった。そんな己にあたえられた後宮という名の小王国のなかで、当時のエメリス王妃は徹底した恐怖政治で召使たちのうえに君臨し、彼らから怖れられていたのだ。さらに前王が亡くなり、アイジャルが即位し、彼女が王妃から王太后になり、誰も止める者がいなくなった後宮、いや全宮殿では、悲鳴を聞かずに陽が沈む日はなく、血を見ることなく月が変わることはない、と言われていたぐらいだ。
アイジャルは、豪放磊落な父王よりも、その苛烈で残忍な母后の血をより強く引いたことが、今誰の目にもあきらかになった。
ラオシンに手酷い責めをあたえるときの彼の冷たく燃える双眼は、我が子よりも優秀な甥を憎みぬいて死んだエメリス王太后を偲ばせるものがある。
今は亡きエメリス王太后は、嫡子アイジャルの王位をおびやかす義理の甥のラオシンを罠にはめ、生きながらにして王族の誇りはおろか、男としても人としてもすべての誇りや尊厳を完膚なきまでに剥ぎ取り、ラオシンを二度と人前に出ることのできない男娼に堕とそうとした。
「なんと、奴隷の分際で主の私をさしおいて命をくだすのか? これは謀反に近いな」
わざとらしく驚いて言うアイジャルだが、その整った顔は、面白くてたまらぬ、というふうに稚気にあふれている。
「どうしてやろうのぅ、この生意気な奴隷を」
どうしてやろう、この奴隷を……。
一瞬、クマヌをはじめ宦官たちは怯んだ顔になっていた。
そんな台詞が、かつてこの後宮ではよく囁かれ、その度に後宮につかえる女たちや宦官はすくみあがったものだ。
残酷そうに言いはなつアイジャルを距離を置いて見る宦官長クマヌの目には、在りし日、後宮を支配した王太后エメリスの残忍な怒り顔が浮かんでいたかもしれない。
たしかにサファヴィア全土は王のものだったが、唯一後宮だけは王妃のものだった。そんな己にあたえられた後宮という名の小王国のなかで、当時のエメリス王妃は徹底した恐怖政治で召使たちのうえに君臨し、彼らから怖れられていたのだ。さらに前王が亡くなり、アイジャルが即位し、彼女が王妃から王太后になり、誰も止める者がいなくなった後宮、いや全宮殿では、悲鳴を聞かずに陽が沈む日はなく、血を見ることなく月が変わることはない、と言われていたぐらいだ。
アイジャルは、豪放磊落な父王よりも、その苛烈で残忍な母后の血をより強く引いたことが、今誰の目にもあきらかになった。
ラオシンに手酷い責めをあたえるときの彼の冷たく燃える双眼は、我が子よりも優秀な甥を憎みぬいて死んだエメリス王太后を偲ばせるものがある。
今は亡きエメリス王太后は、嫡子アイジャルの王位をおびやかす義理の甥のラオシンを罠にはめ、生きながらにして王族の誇りはおろか、男としても人としてもすべての誇りや尊厳を完膚なきまでに剥ぎ取り、ラオシンを二度と人前に出ることのできない男娼に堕とそうとした。
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