サファヴィア秘話 ―妖花満開―

文月 沙織

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「さ、これをラオに付けてやろう」
 と言うアイジャルの手が向かった先は、ラオシンの首でも手でもなく、太腿ふとももだった。
「あっ……!」
 ラオシンは惨めな四つん這いの姿勢のままあわてた。
 すこやかな飴色がかった頬に朱がまじり、羞恥を隠すことができない。
「よ、よせ!」
 ラオシンの狼狽を喜びつつ無視し、アイジャルは遠慮なくラオシンの太腿に銀鎖をまきつけてしまう。
 ラオシンは悔しげに、切なげに眉を寄せるしかない。
 かつて、あのおぞましい人身売買の宴に無理やり出された折の、足に絹布を巻かれた記憶が呼びおこされ、いっそうラオシンを身悶えさせるのだ。
 サファヴィアでは脚に布を巻くのは女人のみの習慣であり、それを強制されたときの屈辱は今もって忘れられない。女装させられ化粧を強いらるよりさらに激しい苦痛をラオシンにもたらした。
 さらにこうして足に飾り物をされるのは布を巻かれたときより屈辱的だ。サファヴィアでは脚に飾りものをするのは娼婦だけである。普通の女人はそんなところを人目に晒すことはまずないからだ。 
 巷にあふれる、淫心いんしんを誘う見世物、艶画では脚を貴石で飾った女たちが見られる。さらに安い淫売宿では、裾をまくり上げた女たちが色とりどりの布を巻いた脚や太腿を見せ、客が娼婦を呼ぶときはその色名で呼ぶという習いがある。つまり、サファヴィアでは脚を飾るという行為に、ひどく性的な意味合いが含まれるているのだ。
「どうじゃ、似合うであろう?」
 アイジャルが満足そうにレミに訊く。
「はい。とっても」
 と言うレミの顔は面白くなさそうだ。
 銀とダイヤモンの装飾品はたしかに美しく、ラオシンの肌の上できらきらと眩しいほどに輝いている。だが、いかに美しく高価であっても、ラオシンにとっては苦痛でしかない責め具が、レミは気になるようだ。悔しげに喘いでいるラオシンの横顔を見るレミの山猫のような双眼は、羨望に濁っている。飾り物が欲しくてたまらないのだ。
「どうじゃ、ラオ、着け心地は?」
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