サファヴィア秘話 ―妖花満開―

文月 沙織

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「うう……」
 ラオシンは歯軋りして、どうにか身体をひねろうとしとが、許されず、卑しい出自の女の指に弄ばれることになった。
「ラオシン様、そんなに暴れないで、うまく出来ませんわ」
 言うレミの口調にはどこか意地悪いものが混じっている。
「本当にラオシン様のここは、可憐でいじらしいですわね。咲きめの薔薇の蕾のよう」
「あうっ……!」
 ぐりっ、と女の指に内壁をえぐられ、ラオシンは思いっきり眉を寄せたが、誰も注意しない。
「痛いですか? もう痛くはないでしょう?」
 言葉だけは気づかわしげだが、レミの炭火のような黒い目は爛々らんらんと燃えて、大地の色をした肌は野性の熱を発して、後宮の奥室に異質な風を起こしている。
 アラムは呆然となり、ジャハギルは頬を赤黒くし、宦官たちですら呆気ととられたように、ひどく楽しげにラオシンを責めるレミの様子をひたすら見ている。
「あっ、あっ、よせ! や、やめろ! 止めろと言っている……!」
「まぁ、ラオシン様ったら、そんなにお尻をぶるぶる震わせないでくださいまし。うまくほぐせませんわ。きちんとほぐせないと、あとで辛い想いをされるのはラオシン様ですのよ。お馬に乗られときに痛い思いはしたくないでしょう?  わたくしは陛下の命で、少しでもラオシン様が気持ちよくお馬乗りを楽しめるようにと、これでも不器用ながら精一杯お勤めしているのでございますのに」
 ラオシンの長い眉がまたしかめられる。
「うっ……はぁ……」
 噛みしめてばかりいるせいか赤味を増した唇から、悔しさを込めた吐息が床にこぼれる。こぼれた吐息は凝結して桃色の水晶に変じ床石の上を転がっていきそうだ。
「さ、今度はもっと深く指を入れますわね」
 ラオシンが一瞬、身体を固くさせたことがその場にいる全員にも知れたろう。びくん、と稚魚のように肉体が跳ねたのだから。
「や、やめろ!」
 今ですら辛いのに、これ以上身体をいじられたら……と想像するだけでラオシンは精神的に限界がきそうだった。
「駄目ですよ。もっと奥までちゃんとほぐさないと。ああ、ほら、嫌がらないで。駄目ですってば、そんなにお尻を振らないでくださいまし」
 ほほほほほほ――。
 レミは高笑いした。なまじレミが丁寧な言葉使いをすればするほど、彼女の育ちからくる野蛮さや下品さがにじみできて、いっそうその場の光景を残酷に見せる。
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