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四
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その目が再び主に向けられたときの様子は、従順な子犬が、餌を前にして、誰が主かを忘れてしまったかのようだ。
「では、これを」
アラムが選んだのは、中ぐらいのものよりかは、やや大きい、というぐらいのものだ。目前の餌があまりに旨そうなので、どうやら彼は主を慮ることを忘れてしまったようだ。
ラオシンは無念の想いでアラムを見つめた。
アラムにはどこかラオシンの計り知れない面があることに、遅ればせながらラオシンも気づいてはいた。
真実、自分を慕ってくれてはいても、その慕情には一抹の黒い感情が混じっているのだ。その感情とは、欲望と呼ぶものか。そう。アラムはラオシンに対して欲望を持っているのだ。宦官になったことで、それは永遠に手放したと思っていたが、そうではなかったようだ。
少年の内にひそむ黒い情熱を利用し、アラムを自分にけしかけるような真似をするアイジャルが心底憎らしい。
ラオシンはアラムを恨めし気に見、レミ、クマヌを忌々しげに見、それから最後に一番憎いアイジャル王を怨嗟をこめた目で見た。
「下種!」
その言葉にアイジャルは高々と笑い声をあげ、他の人間は身をすくめる。
宦官兵たちも侍女も小姓も、この国の最高権力者を前に、そんな言動がゆるされるラオシンという〝寵妃〟を畏怖の目で見ている。
だが、その最高権力者をも怖れぬ美貌の寵妃も、やはり王者の手から逃げきることはできない。
「まったく聞き分けのない奴隷じゃ。クマヌ、何をしておる? 早く抑えつけろ」
「あっ、よせ! いやだ、いや……!」
手下に代わって、クマヌ自身がその巨体でラオシンの腕を抑え込み、すかさずレミがラオシンの前に膝を付き、帯紐をほどきはじめる。
「ラオシン様、失礼いたします」
「よ、よせ!」
野育ちの侍女は、普通の女たちなら怯む役目を喜々として遂行する。おそらくは芸人の一座にいたときは、踊り子の常として、技芸のみならず身体をも売り物としていたのだろう。
「では、これを」
アラムが選んだのは、中ぐらいのものよりかは、やや大きい、というぐらいのものだ。目前の餌があまりに旨そうなので、どうやら彼は主を慮ることを忘れてしまったようだ。
ラオシンは無念の想いでアラムを見つめた。
アラムにはどこかラオシンの計り知れない面があることに、遅ればせながらラオシンも気づいてはいた。
真実、自分を慕ってくれてはいても、その慕情には一抹の黒い感情が混じっているのだ。その感情とは、欲望と呼ぶものか。そう。アラムはラオシンに対して欲望を持っているのだ。宦官になったことで、それは永遠に手放したと思っていたが、そうではなかったようだ。
少年の内にひそむ黒い情熱を利用し、アラムを自分にけしかけるような真似をするアイジャルが心底憎らしい。
ラオシンはアラムを恨めし気に見、レミ、クマヌを忌々しげに見、それから最後に一番憎いアイジャル王を怨嗟をこめた目で見た。
「下種!」
その言葉にアイジャルは高々と笑い声をあげ、他の人間は身をすくめる。
宦官兵たちも侍女も小姓も、この国の最高権力者を前に、そんな言動がゆるされるラオシンという〝寵妃〟を畏怖の目で見ている。
だが、その最高権力者をも怖れぬ美貌の寵妃も、やはり王者の手から逃げきることはできない。
「まったく聞き分けのない奴隷じゃ。クマヌ、何をしておる? 早く抑えつけろ」
「あっ、よせ! いやだ、いや……!」
手下に代わって、クマヌ自身がその巨体でラオシンの腕を抑え込み、すかさずレミがラオシンの前に膝を付き、帯紐をほどきはじめる。
「ラオシン様、失礼いたします」
「よ、よせ!」
野育ちの侍女は、普通の女たちなら怯む役目を喜々として遂行する。おそらくは芸人の一座にいたときは、踊り子の常として、技芸のみならず身体をも売り物としていたのだろう。
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