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忠臣 一
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「お待たせいたしました。陛下がお会いなさるそうでございます」
(やっとか)
長らく小姓に待たされた揚げ句、やっとディアニスは拝謁を許された。
(今日こそは、陛下に思うことをすべて申しあげねば)
結果、貴族としての身分を剥奪され、処罰され、流罪に処されようとも、このまま何も言わずにはいられない。
(どんな理由があろうと、仮にも従兄にあたる王子を男妾にするなど、人の道に反する。……王者のすることではない)
七色の紗が揺れ、若き国王アイジャルの居室への扉が開く。
ここから先は完全なアイジャルの私室であり、宮殿の最奥になる。ここまで来たのは初めてだ。我知らず、ディアニスは緊張した。
雅な香がかおる。麝香か、伽羅か。嗅ぎなれない香は、高雅ではあるが、どこか淫らでもある。
ここ最近、宮殿全体が淫風に染めあげられているようで、先王の代の高潔な気風を思い出すと、ディアニスは悲しくなる。
(私の命にかけても嘆願し、陛下に目を覚ましていただかなければ)
大理石を踏みしめる己の皮靴のたてる音以外はなんの物音もなく、室内はひどく静まりかえっており、ディアニスは訝しく思った。
(侍従は誰もいないのだろうか?)
王侯貴族は一人きりでいても常に従者や召使がいつなんどき呼ばれてもいいように控えているはずだが、今日に限ってはひどく静かだ。
そんなことを思っていると、書き物でもしていたのか、桃花心木の書卓に向かっている王の背中が見えてきた。
乳白色の壁の化粧漆喰が全体に室の印象を柔らかくしているなか、王のまとっている青絹の衣が鮮烈だ。いかなるときもすらりと伸びた背は、さすがに貴顕の身だけあって品位にあふれている。長い黒髪には金剛石の留め飾りが輝いてディアニスの目を刺す。
「陛下……。ディアニス=ティベルにございます」
ディアニスは黒い裾を折って床に跪いた。
「ふむ。余がこの書類を読み終えるまで、しばし待て」
「はい」
跪いたまま一礼したディアニスは、そのとき初めて、薄紅色の垂れ幕の向こうに人の気配を感じた。
(やっとか)
長らく小姓に待たされた揚げ句、やっとディアニスは拝謁を許された。
(今日こそは、陛下に思うことをすべて申しあげねば)
結果、貴族としての身分を剥奪され、処罰され、流罪に処されようとも、このまま何も言わずにはいられない。
(どんな理由があろうと、仮にも従兄にあたる王子を男妾にするなど、人の道に反する。……王者のすることではない)
七色の紗が揺れ、若き国王アイジャルの居室への扉が開く。
ここから先は完全なアイジャルの私室であり、宮殿の最奥になる。ここまで来たのは初めてだ。我知らず、ディアニスは緊張した。
雅な香がかおる。麝香か、伽羅か。嗅ぎなれない香は、高雅ではあるが、どこか淫らでもある。
ここ最近、宮殿全体が淫風に染めあげられているようで、先王の代の高潔な気風を思い出すと、ディアニスは悲しくなる。
(私の命にかけても嘆願し、陛下に目を覚ましていただかなければ)
大理石を踏みしめる己の皮靴のたてる音以外はなんの物音もなく、室内はひどく静まりかえっており、ディアニスは訝しく思った。
(侍従は誰もいないのだろうか?)
王侯貴族は一人きりでいても常に従者や召使がいつなんどき呼ばれてもいいように控えているはずだが、今日に限ってはひどく静かだ。
そんなことを思っていると、書き物でもしていたのか、桃花心木の書卓に向かっている王の背中が見えてきた。
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「陛下……。ディアニス=ティベルにございます」
ディアニスは黒い裾を折って床に跪いた。
「ふむ。余がこの書類を読み終えるまで、しばし待て」
「はい」
跪いたまま一礼したディアニスは、そのとき初めて、薄紅色の垂れ幕の向こうに人の気配を感じた。
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