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たむけ花 一
しおりを挟むかならず尻尾をつかまえてやる、と言っていた山本刑事の願いはかなうことはなかった。
三日後の朝刊に、伊能氏の死が小さく報じられたのだ。
『物取りか。一人暮らしの老人殺害される。住居には物色された跡があり……』
桜御殿から歩いて十数分というところにある貸家に伊能氏は一人で住んでいたらしい。
押入れには、やはりいくつか盗品らしい骨董品や文楽人形がかくされていたという。
持ち去られたものもあるようだが、犯人がなにを持ち去ったかは定かではない。
僕はその後も近江竹弥の行方をできるかぎり捜してみた。
彼の交友関係を徹底的に洗ってみた。
手がかりになりそうなところは全て訪れてみた。
そして、ようやく、都内のある場所に彼の痕跡を認めることになり、仕事を果たした。
「ああ、あのときの探偵さんですね?」
しずかな店内の薄暗い照明の下、彼は美しい顔をかすかに歪めた。笑っているようにも、怒っているようにも見える。
「ええ。お久しぶりですね。この店、随分変わりましたね」
「改装しましてね。これらかの時代に合わせようと」
「本当に、すっかり今風ですね。『笹の宿』だったころの面影はまったくないですね。以前の客が来たら驚くでしょうよ」
「まあね。やっていることは同じなんですが」
竹弥は苦笑いした。蝶ネクタイがふしぎなほど似合っている。
「あのときの女将……というか、経営者の人は今はどうしているんですか?」
竜樹もまた苦笑いしながら訊ねた。二年前ここへ来たとき、かつての店を仕切っていた女装の経営者に追いたてられた記憶がある。
「入院してますよ」
意外な言葉に竜樹は目を見張った。
「え? どこか悪いんですか?」
「病気で」
竹弥の顔に翳が走った。
「……あっちの方のね。まぁ、あの人も若い頃はかなり無軌道な生活をしていたそうでして。昔でいう花柳病みたいなのを患っているんです」
「そうですか。ほんの二年前はあれほど元気だったのに」
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