翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
222 / 225

たむけ花 一

しおりを挟む

 
 かならず尻尾をつかまえてやる、と言っていた山本刑事の願いはかなうことはなかった。
 三日後の朝刊に、伊能氏の死が小さく報じられたのだ。
『物取りか。一人暮らしの老人殺害される。住居には物色された跡があり……』
 桜御殿から歩いて十数分というところにある貸家に伊能氏は一人で住んでいたらしい。
 押入れには、やはりいくつか盗品らしい骨董品や文楽人形がかくされていたという。
 持ち去られたものもあるようだが、犯人がなにを持ち去ったかは定かではない。
 僕はその後も近江竹弥の行方をできるかぎり捜してみた。
 彼の交友関係を徹底的に洗ってみた。
 手がかりになりそうなところは全て訪れてみた。
 そして、ようやく、都内のある場所に彼の痕跡を認めることになり、仕事を果たした。


「ああ、あのときの探偵さんですね?」
 しずかな店内の薄暗い照明の下、彼は美しい顔をかすかに歪めた。笑っているようにも、怒っているようにも見える。
「ええ。お久しぶりですね。この店、随分変わりましたね」
「改装しましてね。これらかの時代に合わせようと」
「本当に、すっかり今風ですね。『笹の宿』だったころの面影はまったくないですね。以前の客が来たら驚くでしょうよ」
「まあね。やっていることは同じなんですが」
 竹弥は苦笑いした。蝶ネクタイがふしぎなほど似合っている。
「あのときの女将……というか、経営者の人は今はどうしているんですか?」
 竜樹もまた苦笑いしながら訊ねた。二年前ここへ来たとき、かつての店を仕切っていた女装の経営者に追いたてられた記憶がある。
「入院してますよ」
 意外な言葉に竜樹は目を見張った。
「え? どこか悪いんですか?」
「病気で」
 竹弥の顔に翳が走った。
「……あっちの方のね。まぁ、あの人も若い頃はかなり無軌道な生活をしていたそうでして。昔でいう花柳病みたいなのを患っているんです」
「そうですか。ほんの二年前はあれほど元気だったのに」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

朔の生きる道

ほたる
BL
ヤンキーくんは排泄障害より 主人公は瀬咲 朔。 おなじみの排泄障害や腸疾患にプラスして、四肢障害やてんかん等の疾病を患っている。 特別支援学校 中等部で共に学ぶユニークな仲間たちとの青春と医療ケアのお話。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

処理中です...