翠帳紅閨 ――闇から来る者――

惜桜忌 六

　そういう、いわば堅気でない連中は、情も念も、背負っている業も、人並み以上に濃いものじゃないんでしょうかね。ええ、あたしの周りにもそういう人は多いもんで、なんとなくわかるんですよ。　
　この土の上には、そういう連中の落としていった情念や情熱みたいなものが積もり積もっていて、毎年桜をふしぎなほど美しく咲かせるんじゃないでしょうかね。ちょっと気障な言い方ですが。
　犯人の若い男？　ああ、そいつは死にましたよ。全身火傷を負って、三日間苦しみぬいて亡くなったそうですよ。そう聞くと哀れなもんですね。
　……もう一人まきこまれた男がいたんですが、まぁ、屋敷の管理人みたいなもんですが。気の毒にそいつも亡くなりましたよ。
　戦災で家族はとっくに死んでいるらしく、身寄りはないと言っていましたからね。無縁仏として葬られたんでしょうよ。気の毒ですが……。ですがね、ここにも妙な因縁があるんですよ。
　その管理人というのが、実をいいますと、以前、細工師とともにしばらく暮らしていた……そう、細工師の情人というのか、まぁ、その相手なんですね。
　ええ、あたしもそのとき何度か顔を合わせてますよ。細工師が亡くなってからは出て行ったらしく顔を見なかったんですが、あるとき、ふらりとあたしを訪ねてきましてね。この屋敷にかかわる仕事をしたいって言うんで、まぁ、男手がいることもあるので、力仕事や作業を頼んだりしていたんですよ。
　その男もこの屋敷と桜に魅入られてしまったんでしょうね。この屋敷から離れられなくなって、で、最後は結局あんなことになって。
　……桜に魅入られ死んだのなら、いっそ本望かもしれませんねぇ……。
　とにかく、あの坊ちゃんだけでも無事で良かったですよ。