翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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惜桜忌 四

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 俺はこの屋敷につかまった、桜にとりつかれたんだとか、なんとか、わけのわからないことをぶつぶつ言いつづけ……、ある日突然、心臓発作で逝ってしまいましたよ。
 まぁ、自殺でなくてまだ良かったですね。
 それからはこの屋敷は親戚がかたちの上だけ相続して、ときどき手入れしては貸家として使っていたんですが、こういういわくのある場所では、どういうわけか妙なことがつづくものでして。
 古い家や古い物には魂というものが宿っているんじゃないかと、あたしは本気で思いますよ。まして、ここは細工師があつめた古い浄瑠璃の人形がありますからね。人形というのは、なまじ人の形をしているだけあって、持ち主の念みたいなものが乗り移りやすいんじゃないかと、よく言われますからね。そのうえ文楽につかわれる人形というのは、作った者、使う者、観る者たちの情や執着、情熱というものを散々浴びてますからね。
 昔から、仇役同士の人形をおなじ場所に置いておくと、夜に人形同士が斬り合いをするとか、その人形をつかう操り師たちは、人形の念がうつって仲たがいするとかいう話が、まことしやかに語り継がれていますからね。
 そういうものがたんとある古い屋敷ですから、なおさら悪いものを呼んでしまったんじゃないかと思うんですよ。
 実際、細工師が亡くなったあとも、女優や、映画監督やら、作家や脚本家とかいう連中が別荘がわりに、この屋敷を借りるようになったんですが……、こう言っちゃなんですが、いずれもあまりその後良いことがないんですね。
 女優は男に走って家を出たあげくに病死したというし、映画監督は離婚し、作家は、これもノイローゼになったとか、脚本家は付き合っていた愛人から刺されたとか。命は取りとめましたが、妙な話がつづくんですね。それでも、どういうわけか、やはり借りたいという話が来るんですよ。毎年桜の季節にね。
 最後に借りたのは、有名な役者の息子さんでして。ええ、それが火事のとき助け出された子ですよ。
 軽い火傷ですんで良かったですよ。放火でしてね。物騒な話で。
 なんでも、知り合いの学生がガソリンまいて火を放ったらしくて。その学生、火事を起こすまえに自分の親を殺していたというから空恐ろしい話ですよ。
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