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惜桜忌 三

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「ふあああ、よく寝た。あれ? なんか人数が減ってないか?」

「クロードさんおはようございます。といってももう夕方ですが。アルテマさんとトライドスさんが日が暮れる前には戻ってくると数人引き連れて周囲の探索に向かいましたよ」

「そうか。そんな事は骸骨達に任せてゆっくりしていればいいのにな。せっかちな奴らだ」

「あ、噂をすればほら」

 後輩冒険者の指差す方向を見るとアルテマとトライドスが数名の冒険者を引き連れて戻ってくるのが見えた。

 全員一様にこうべを垂れ、うつろな目をしている。
 何の成果も得られずにとぼとぼと帰ってきた・・・・・というような感じでもなさそうだ。

「どうしたお前達、顔色が悪いぞ。ゾンビ志望か?」

「クロードさん、冗談を言っている状況じゃないですよ。東の方に医療施設の跡があったんですが、そこで仲間達が大勢死んでいました。その中にはアビゲルさんやディアネイラさんの死体も……」

「何だって? 詳しく教えろ」

「はい……」

 アルテマはクロードに鈍異病院で見たものを事細かに伝えた。

 その一室で折り重なるように死んでいた新米冒険者達と、首を斬り落とされていたディアネイラの死体、そして全身をバラバラに切り刻まれて床に散乱していたアビゲルの成れの果て。

「アビゲルもディアネイラもだらしねえな。同じSランクとして恥ずかしいぜ」

「クロードさん、あの二人が同時に殺されるなんて普通じゃないですよ。今回の事件の黒幕は魔王クラスの存在なのでは?」

「なんだアルテマ、ビビってるのか? そんな事だからお前は万年Aランクなんだよ」

「くっ……」

「まあいい。俺をあいつらの死体があった所まで案内しろ」

「はい……」

「よしお前ら集まれ! 出発だ!」


 クロードは墓地内で留守番をしていた冒険者達を集めて拠点の移動を命じると、彼らはようやくこの不気味な場所から離れられると歓喜の声を上げた。

 その先では更に陰惨な光景が待っているとも知らずに。



◇◇◇◇



「おい、見ろよ。凄いなこの廃墟は。どこもかしこも死体だらけじゃないか」

 鈍異病院へ続く道の途中で野ざらしになっている白骨死体を見てクロードはテンションを上げている。
 当然他の冒険者達には全く理解できない感覚であり、後輩の冒険者達は皆愛想笑いをしたり相槌を打っているものの、それ以上どう反応すればいいのか分からず困惑している。

 そしてそんな微妙な空気のまま一行は鈍異病院へと到着した。

「この先の部屋でアビゲルさん達が亡くなっています。……見ない方がいいかもしれません」

「いえ、仲間達の屍を放置する訳にもいきません。皆で協力して彼らを埋葬してあげましょう」

 ディアネイラ程の力はないが、彼女と同様に神に仕える身であるシスター職のレイナは真っ先に覚悟を決めて言った。

「心の準備ができた人だけついてきて下さい」

 アルテマは沈痛な表情で部屋の扉を開ける。

「はい。……うっ!?」

「うわああああああああ! なんだこれは!?」

「酷すぎる……誰がこんな事を……」

 アルテマに案内されて仲間達の死体がある部屋へ足を踏み入れた冒険者達はあまりの惨状に皆言葉を失った。
 悲鳴を上げる者、嘔吐する者、泣き出す者。
 今まで冒険中に魔物に襲われて亡くなった多くの仲間達の屍を弔ってきたレイナですら気を失いかけた程だ。

 そんな彼らに混じってひとりクロードだけは平然としていた。

「おーおー、酷くやられちまったなあ。あのキザったらしいアビゲルや小うるさかったディアネイラちゃんもこのザマか。本当に情けねえな」

 そのあまりの言い草に、今まで格上の冒険者だからとしぶしぶクロードに従ってきたアルテマも我慢の限界を超えて反発する。

「クロードさん、いくらなんでも言葉が過ぎますよ。今まで苦楽を共にしてきた仲間じゃないですか」

 しかしクロードは不敵な笑みを浮かべて言った。

「ククク……今だから言うけどな、昔からこいつら、特にディアネイラの奴が邪魔だったんだよ。死んでせいせいするぜ」

「クロードさん、それはどういう意味ですか!?」

「この女、神の御許へ送るんだか何だか知らねえが、ギルド内で死人が出る度に浄化しちまう。折角の素材が勿体ないと思わないか?」

「クロードさん、何を言っているのか分かりません」

「面白いものを見せてやるぜ。……ヒャアーッハァ!」

 クロードは奇声を上げながら杖を振りかざした。

「う……クロードさんあなた正気ですか!? 自分が何をやっているのか分かっているんですか!?」

 クロードの杖の動きに呼応するように部屋の中に積み重なっていた死体がピクリと動き出し、順番に起き上がった。
 バラバラになっていたアビゲルの肉片はそれぞれがうねうねと不気味に動き、水が低地に流れ集まるようにくっついてつぎはぎ姿のゾンビとなった。

 頭部のないディアネイラの死体はむくりと上半身を起こしたかと思うと、床に転がっている頭部を拾い上げて元の場所に乗せた。

「おっと、前と後ろが反対だな。ドジっ子め」

 クロードはくっついたディアネイラの首を剣で斬り落とし、前後を治してもう一度くっつける。

「よし完成だ。新人どもはともかく、Sランクの冒険者のゾンビを二匹も使役している男なんてこの世界ひろしと言えども俺しかいないだろうな。ヒヒヒ……」

 この場にいる冒険者達はクロードの狂気ともいえるその行動を黙って見ている事しかできなかった。
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