215 / 225
惜桜忌 三
しおりを挟む「ふあああ、よく寝た。あれ? なんか人数が減ってないか?」
「クロードさんおはようございます。といってももう夕方ですが。アルテマさんとトライドスさんが日が暮れる前には戻ってくると数人引き連れて周囲の探索に向かいましたよ」
「そうか。そんな事は骸骨達に任せてゆっくりしていればいいのにな。せっかちな奴らだ」
「あ、噂をすればほら」
後輩冒険者の指差す方向を見るとアルテマとトライドスが数名の冒険者を引き連れて戻ってくるのが見えた。
全員一様に首を垂れ、うつろな目をしている。
何の成果も得られずにとぼとぼと帰ってきた・・・・・というような感じでもなさそうだ。
「どうしたお前達、顔色が悪いぞ。ゾンビ志望か?」
「クロードさん、冗談を言っている状況じゃないですよ。東の方に医療施設の跡があったんですが、そこで仲間達が大勢死んでいました。その中にはアビゲルさんやディアネイラさんの死体も……」
「何だって? 詳しく教えろ」
「はい……」
アルテマはクロードに鈍異病院で見たものを事細かに伝えた。
その一室で折り重なるように死んでいた新米冒険者達と、首を斬り落とされていたディアネイラの死体、そして全身をバラバラに切り刻まれて床に散乱していたアビゲルの成れの果て。
「アビゲルもディアネイラもだらしねえな。同じSランクとして恥ずかしいぜ」
「クロードさん、あの二人が同時に殺されるなんて普通じゃないですよ。今回の事件の黒幕は魔王クラスの存在なのでは?」
「なんだアルテマ、ビビってるのか? そんな事だからお前は万年Aランクなんだよ」
「くっ……」
「まあいい。俺をあいつらの死体があった所まで案内しろ」
「はい……」
「よしお前ら集まれ! 出発だ!」
クロードは墓地内で留守番をしていた冒険者達を集めて拠点の移動を命じると、彼らはようやくこの不気味な場所から離れられると歓喜の声を上げた。
その先では更に陰惨な光景が待っているとも知らずに。
◇◇◇◇
「おい、見ろよ。凄いなこの廃墟は。どこもかしこも死体だらけじゃないか」
鈍異病院へ続く道の途中で野ざらしになっている白骨死体を見てクロードはテンションを上げている。
当然他の冒険者達には全く理解できない感覚であり、後輩の冒険者達は皆愛想笑いをしたり相槌を打っているものの、それ以上どう反応すればいいのか分からず困惑している。
そしてそんな微妙な空気のまま一行は鈍異病院へと到着した。
「この先の部屋でアビゲルさん達が亡くなっています。……見ない方がいいかもしれません」
「いえ、仲間達の屍を放置する訳にもいきません。皆で協力して彼らを埋葬してあげましょう」
ディアネイラ程の力はないが、彼女と同様に神に仕える身であるシスター職のレイナは真っ先に覚悟を決めて言った。
「心の準備ができた人だけついてきて下さい」
アルテマは沈痛な表情で部屋の扉を開ける。
「はい。……うっ!?」
「うわああああああああ! なんだこれは!?」
「酷すぎる……誰がこんな事を……」
アルテマに案内されて仲間達の死体がある部屋へ足を踏み入れた冒険者達はあまりの惨状に皆言葉を失った。
悲鳴を上げる者、嘔吐する者、泣き出す者。
今まで冒険中に魔物に襲われて亡くなった多くの仲間達の屍を弔ってきたレイナですら気を失いかけた程だ。
そんな彼らに混じってひとりクロードだけは平然としていた。
「おーおー、酷くやられちまったなあ。あのキザったらしいアビゲルや小うるさかったディアネイラちゃんもこのザマか。本当に情けねえな」
そのあまりの言い草に、今まで格上の冒険者だからとしぶしぶクロードに従ってきたアルテマも我慢の限界を超えて反発する。
「クロードさん、いくらなんでも言葉が過ぎますよ。今まで苦楽を共にしてきた仲間じゃないですか」
しかしクロードは不敵な笑みを浮かべて言った。
「ククク……今だから言うけどな、昔からこいつら、特にディアネイラの奴が邪魔だったんだよ。死んでせいせいするぜ」
「クロードさん、それはどういう意味ですか!?」
「この女、神の御許へ送るんだか何だか知らねえが、ギルド内で死人が出る度に浄化しちまう。折角の素材が勿体ないと思わないか?」
「クロードさん、何を言っているのか分かりません」
「面白いものを見せてやるぜ。……ヒャアーッハァ!」
クロードは奇声を上げながら杖を振りかざした。
「う……クロードさんあなた正気ですか!? 自分が何をやっているのか分かっているんですか!?」
クロードの杖の動きに呼応するように部屋の中に積み重なっていた死体がピクリと動き出し、順番に起き上がった。
バラバラになっていたアビゲルの肉片はそれぞれがうねうねと不気味に動き、水が低地に流れ集まるようにくっついてつぎはぎ姿のゾンビとなった。
頭部のないディアネイラの死体はむくりと上半身を起こしたかと思うと、床に転がっている頭部を拾い上げて元の場所に乗せた。
「おっと、前と後ろが反対だな。ドジっ子め」
クロードはくっついたディアネイラの首を剣で斬り落とし、前後を治してもう一度くっつける。
「よし完成だ。新人どもはともかく、Sランクの冒険者のゾンビを二匹も使役している男なんてこの世界ひろしと言えども俺しかいないだろうな。ヒヒヒ……」
この場にいる冒険者達はクロードの狂気ともいえるその行動を黙って見ている事しかできなかった。
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説
ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる