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惜桜忌 二
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あの桜があんなに綺麗で人の心をぞわぞわさせるのは、お妾の幽霊だけではなく、その後もつづいた不幸や凶事にかかわった人達の恨みつらみ、この屋敷につもりつもった情念のなせる業じゃないかともね。あたしもそんなふうに思っては溜息ついて、幾度この桜の季節の過ぎるのを見送ったかしれやしません。
ああ……桜の樹もかなり燃えてしまいましたね。蔵はさすがに丈夫で持ちこたえたみたいですが、文字どおり火事場泥棒が出たみたいで、なかにあったものがほとんどなくなってましてね、びっくりしましたよ。
被害届? ええ出しましたけれど、ほとんどが骨董品なんで、値段のつけようが難しくて、いろいろややこしい手続きがいるらしくて……、たとえ犯人が見つかっても、もどってくるかどうか……。闇で流れてしまっているかもしれやしませんね。
でも、これで良かったのかもしれませんね。
若い人にこんなことを言うと笑われるでしょうが、このお屋敷は……たしかに呪われているんですよ。
ええ、本当にそうなんですよ。
前に住んでいた細工師が良くそう言っていましたよ。
この屋敷は呪われている。俺はその呪いにかかってしまったんだ……と。この屋敷の幽霊につかまってしまったんだ、とも言っていましたね。
その細工師は人形をつくらせたら関東では一番といわれたほどの名人なんですが、還暦前になってかみさんに出ていかれましてね、それが原因か、なにか思うことでもあったのか、仕事を弟子にゆずってこの屋敷に引っ込んでしまいまして。
使われなくなった人形をひきとって、修理したり飾ったりしてのんびり過ごしていたんですよ。まぁ、隠居の道楽ですね。あたしもちょっとばかりその人とは縁があって、ときどきは屋敷に出入りしていたんですが、あるとき訪ねていくと、若い男が住み込んでいましてね。
なかなか見栄えの良い、まだ少年らしさをのこした子で、奴さん、引退したものの、やはり仕事に未練がわいてきて新たな弟子を取ったのか、もしくは孫弟子の誰かが、教えを乞うて訪ねてきたのかと思っていたんですが……ちがうんですなぁ。
ああ……桜の樹もかなり燃えてしまいましたね。蔵はさすがに丈夫で持ちこたえたみたいですが、文字どおり火事場泥棒が出たみたいで、なかにあったものがほとんどなくなってましてね、びっくりしましたよ。
被害届? ええ出しましたけれど、ほとんどが骨董品なんで、値段のつけようが難しくて、いろいろややこしい手続きがいるらしくて……、たとえ犯人が見つかっても、もどってくるかどうか……。闇で流れてしまっているかもしれやしませんね。
でも、これで良かったのかもしれませんね。
若い人にこんなことを言うと笑われるでしょうが、このお屋敷は……たしかに呪われているんですよ。
ええ、本当にそうなんですよ。
前に住んでいた細工師が良くそう言っていましたよ。
この屋敷は呪われている。俺はその呪いにかかってしまったんだ……と。この屋敷の幽霊につかまってしまったんだ、とも言っていましたね。
その細工師は人形をつくらせたら関東では一番といわれたほどの名人なんですが、還暦前になってかみさんに出ていかれましてね、それが原因か、なにか思うことでもあったのか、仕事を弟子にゆずってこの屋敷に引っ込んでしまいまして。
使われなくなった人形をひきとって、修理したり飾ったりしてのんびり過ごしていたんですよ。まぁ、隠居の道楽ですね。あたしもちょっとばかりその人とは縁があって、ときどきは屋敷に出入りしていたんですが、あるとき訪ねていくと、若い男が住み込んでいましてね。
なかなか見栄えの良い、まだ少年らしさをのこした子で、奴さん、引退したものの、やはり仕事に未練がわいてきて新たな弟子を取ったのか、もしくは孫弟子の誰かが、教えを乞うて訪ねてきたのかと思っていたんですが……ちがうんですなぁ。
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