翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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桜葬 九

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「……あぁ、親父だけじゃない、お袋もな」
 死刑は確実だろう。
 杉屋は熱波を感じながら、強く竹弥を抱きしめた。逃げ道をさがさねばならない。
「う……ん」
 腕のなかの竹弥の身体がかすかに動く。
 内心、舌打ちした。よりにもよって、こんなときに目を覚ますとは。
「な……に?」
 もがく身体を、とりあえず下ろした。
 竹弥は首を振りながら立ちあがり、驚愕の目で辺りを見回した。
「い、いったい何が……?」
「じっとしていろ。浴衣の袖で手で鼻と口をおおえ」
 面倒くさそうに告げながらも、杉屋は正面の浦部から目をはなさない。
「か、火事? な、なぜ」
 言ってから、浦部の存在に気づいて、竹弥は身体をこわばらせた。
「ど、どうして、おまえ……」
「今は事情を聞いている暇はないぞ」
 竹弥は青ざめた顔で浦部を見、せまりくる煙の臭いに眉をしかめた。
「おやおや、眠り姫のお目覚めで?」
「お、おまえ、その血は……?」
「へへへへへ。ついさっき、俺の糞ったれ親父とどうしょうもないお袋を殺してきたんだよ。ああ、あんなにあっけなく死ぬとは思っていなかったなぁ。生きているときは散々いばりちらしていたくせに、包丁つきつけた途端に真っ青になって、頼むから助けてくれぇ……って泣いたんだぜ」
 けけけけけ……。笑う姿は人とは思えない。
「さぁ、おまえらも一緒に行こうぜ。竹弥、おまえだって俺やこの男に散々もてあそばれたんだろう? もう生きていくのに嫌気がするだろう?」
 その問いに竹弥は答えなかった。
「苦労や辛さが、もう終わりなるんだぜ。おい、逃げるなよ」
 包丁を突き付けらると、さすがに杉屋は緊張し、竹弥はさらに青ざめた。
 その間にもじわじわと火勢は近づいてくる。
 一瞬の沈黙のあと、口を開いたのは杉屋だった。
「わかった。俺が一緒にいってやる。だから、こいつは放っとけ」
「なっ、なに言っている!」
 思いもよらないことを聞いて、竹弥は心底おどろいた顔になった。
 よもや杉屋がそんなことを言うとは思えず、聞き間違いではないかと本気で疑っているようだ。
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