翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
202 / 225

桜葬 一

しおりを挟む


 くすくすくす――。
 面白かったなぁ。
 本当に。けっこう楽しませてくれたわねぇ。
 
 聞こえないはずの声と、見えないはずの姿が、今の杉屋には聞こえ、見えた。
「おまえたち、堪能したか?」
(ああ、たっぷりと)
 野太い男の声が聞こえる。
「満足したか?」
(駄目だよ。満足はできない。まだ足りないのだもの)
 今度の声は女の声だ。媚をふくんで、どことなく粘つくような、色っぽい声。
「困ったやつらだな。いったいどうすればおまえたちは満足できるんだ?」
(ふん。そんなことを言って、俺たちが消えてしまったら、おまえだとて困るのではないか?)
 今度の声は若い男のようだ。
「そうかな……。そうかもしれないな」
 この屋敷から彼らの存在がなくなれば、自分の人生はどうなるのか。想像したことはない。
 自由になれたと喜ぶのか、これからの生は無味乾燥なものに思えて、生きる甲斐をなくすのか、どちらなのだろう。
 杉屋はぐったりとして布団の上にうつぶせに横たわっている竹弥を見下ろした。
 白い肌。ぬめるようにしっとりと艶をふくんで、見る者の心をさわがす。
 あれほど乱れ、浅ましい姿をさらして、なぜこの男はこれほど美しいのか。いや、たんに美しいだけではなく、清らかに見えるのか。不思議な生き物を見るような想いで杉屋は竹弥を凝視していた。
 手が、自然に白い背に伸びていた。
 まだ少年らしさを残した細い、しなやかな身体。
 初心うぶだった肉体に、色欲をたたきこみ、生まれながらの淫婦のように仕立てあげるつもりだった。事実、その狙いどおりとなり、竹弥は欲望にたけって我をうしない、早田の前で痴態を演じてくれた。
 だが、今自分の目のまえで眠る彼の姿はさやかの一言である。かすかに見える横顔は、清純な乙女そのものだ。無心の眠りに落ちて、どんな夢を見ているのか。
 気づくと、杉屋は白い背を撫でていた。肩や胴、臀部と、なにかを確かめるようにして竹弥の身体を執拗にさわっていた。 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

朔の生きる道

ほたる
BL
ヤンキーくんは排泄障害より 主人公は瀬咲 朔。 おなじみの排泄障害や腸疾患にプラスして、四肢障害やてんかん等の疾病を患っている。 特別支援学校 中等部で共に学ぶユニークな仲間たちとの青春と医療ケアのお話。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

処理中です...